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花冠<9>

2013.07.12 (Fri)
お父さんEND→反逆者ENDの出来事あれこれ。登場人物いろいろ、というよりほぼ全員。
反乱の話ですのでばんばん人が死にます。初っ端から最後まで鬱な話のオンパレード。ご注意を。 
完結しました。

花冠<9>


 寝室に、乾いた音が響き渡る。
 次第にじわじわと痛み出した頬を押さえながら、顔を真っ赤にしている父を睨み上げた。

「お前の意思など聞いておらん!! お前は、私の言うことにただ従っていればよいのだ!!」

 こちらが黙っているのをいいことに、私の頬を叩いた父は矢継ぎ早に言葉をぶつけてくる。
 
 ぐだぐだ言わずに、さっさと徴を持った子を産め。私が今まで間違ったことを言ったことがあったか。相手に何の不満があるのだ。歴とした貴族であり、なんら不利益をもたらすような者では決してない。口答えなど許さん。

 突然言い渡された婚姻に拒否の意を示すのが、そんなに怒鳴られるほどのことなのだろうか。何に焦っているのか知らないが、最近の父は、すぐにこうして声を荒げては周りの者に不快感を与えていた。
 そうぎゃんぎゃんと喚き立てなくても、ちゃんと聞こえているというのに。
 歳をとると気が短くなるとよく耳にする。まだそれほど老いたようにも見えない父は、ではこの先、さらに短気な性格に拍車をかけていくのだろうか。考えるだけでうんざりしてきた。

 城に来てからというもの、父は以前にも増して口うるさくなっていた。
 どこに行くにも自分についてきて、仕事の内容にも事細かに口を出してくる。皆が私の反応を伺いつつ、そして同時に背後に控える父を伺う。そんなことの繰り返しで、日々の政務は滞る一方だった。
 これではどちらが王なのかわかったものではない。口答えしようものなら、今のように城中に響き渡る怒声を張り上げ、そしてその間もちろん仕事は止まってしまう。仕方なく父を宥めすかして仕事を再開するも、このままではよくないと城の誰もが思っているに違いなかった。
 絶え間なく出てくる溜息にも父は気付かない振りをして、決して私の側を離れようとしない。この執着っぷりは異常だった。私を、何が何でも言いなりにさせないと気が済まない。自分の知らないところで、知らない行動をするのを決して許さない。
 血が繋がっていないからこそ余計に、それは不気味なものにしか見えなかった。

「明日の舞踏会で発表しよう。よいか、相手に失礼のないように……」

「お父様、私もお話があるのですが」

 父の言葉を遮って、睨んだ視線を逸らさずに切り出した。
 面食ったように父が目を開く。

「話? なんだ?」

「……お父様にはこれまでいろいろと手助けして頂きましたが。そのお力のおかげで、私もようやく一人でなんとかやっていけそうだと思えるくらいにまで成長することができました。そろそろ、お父様にはゆっくりと体を休めて頂こうと思いまして」

「休む……?」

「もう一生遊んで暮らせるくらいに私腹は肥やしたでしょう? 十分じゃないですか。落ち着いて余生を過ごせる土地を用意しましたので、明日すぐにでも城から出て行って頂けませんか」

 そこまで言うと、父が怒りで真っ赤になっていた顔をさらに赤くさせて、震えながら再び怒鳴り始める。

「レハト!! お前は、この父に向かって……!!」

「貴方が居ては、纏まるものも纏まらない。皆が混乱してしまうんです。今は、一刻も早く国を立て直さねばならない状況で……」

「お前をここまでのし上げてやった父の恩も忘れて、何と言う言い草だ!! いいか、私はここを出る気はない!! そんなことを二度と口にするな!!」

 両手首をぎりぎりと力強く掴まれ、父が顔を近づけて唾を飛ばす。
 汚いな、と嫌悪感に顔をしかめながら、腰に隠し持っていた短剣に意識を集中させた。
 鞘から、するりと剣が抜ける感触が背中に伝わる。ゆらゆらと短剣が揺れながら私の背後から父の方へと移動し、そしてその切っ先が首元に向かった。
 宙に浮いたまま、首に添うように身を寄せる短剣。
 有り得ない現象に父の顔が凍りつく。
 浮いている刃に触れないよう身じろぎもせずに、父は横目で短剣を見つめていた。

「な……」

「いつまでも、私を役立たずのお飾り人形と思わないで」

「れ、レハト……。なん、だ、これは……」

「散々賄賂を受け取っているのにも目をつぶってやって、せっかくこうして妥協案を出してあげたと言うのに。出る気がないと言うなら仕方ない。無理にでも休んで頂きましょうか」

 その言葉に、父が掴んでいた手首を慌てて放す。
 途端ににやにやと気持ちの悪い顔を浮かべ始め、後ずさりながら情けない声を出してきた。

「レハト……。お、お前を愛している、この父を殺そうと言うのか? 私は、いつもお前のことだけを思って、お前のためだけに、こうしていろいろと……」

「愛している? その言葉、一度でいいから心のこもった声で聞いてみたかったな」

「ま、待て、レハト。聞いてくれ、私は」

「今まで大変お世話になりました、お父様」

 家族なんていらない。
 もう誰も信用しない。誰も愛したりしない。
 いつか裏切られるかもしれないなら、いつか自分から去ってしまうかもと怯えるくらいなら、最初から一人でいればいい。その方が気楽でいい。
 私一人でも、この国を治めてみせる。やってみせる。
 貴方なんていらない。妨げにしかならない、私を蹂躙することしか考えない貴方なんて、もう父でもなんでもない。

 宙に浮いている短剣を素早く掴み取り、私は父に向かってそれを振り上げた。


   ◇  ◇  ◇


74××年 白緑五日
毎日、なんだか落ち着かなくてむずむずする。
気付かないうちに、城での生活が体に染み込んでしまっていたようだ。
未だに、父も母も私が城から去った理由を聞いてこない。
城でどんなことがあったのか、どんな生活をしていたのかを聞いてこない。
気を遣っているんだろうけど、こういうところがやはり実の両親ではないのかな、と思い知らされる。
自分を大事に育ててくれたことに感謝はしているけれど。少し、寂しい。

74××年 白青九日
あの元継承者様が、反乱を起こしたらしいと噂を聞いた。
そう頻繁にお姿を拝見したことはなかったけれど、そんな過激な事を企みそうな方には見えなかったのにと少しだけ違和感。
庶民の出ということで期待していたのに、がっかりだ。やっぱり私は人を見る目がないみたい。

74××年 青黒三日
争いは相変わらず続いているようだが、まだまだ遠い土地での出来事らしい。
もうしばらくは、ここも安全だろう。このまますぐにでも終結してしまえばいいのに。
最近、新しくここにやってきた人がやたらと話しかけてくる。
私と同じくらいの歳に見えるけど、どうなんだろう。明日、さりげなく歳を聞いてみようかな。
でも、また暴走しないように気をつけないと。
もういい歳なのだから同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。

74××年 黄緑一日
どうしよう、どうしよう。
彼を好きな気持ちが止まらない。あれほど暴走はするまいと誓ったのに。
あんなに立派な家柄なのに。私と釣り合うわけがないのに。好きになっても成就するわけがないのに。
辛くて苦しい。眠れない。

74××年 黒赤四日
今日、彼から交際を申し込まれた。嬉しい。本当に嬉しい。
なんだか、まだ信じられない。夢を見てるみたい。
彼は名前こそ名門の姓ではあるけれど、末端の分家だからあまり釣り合いとか気にしないでほしいと言ってくれた。
そうか。だからあんなにすごい家柄なのに、こんな辺鄙なところへ来ていたんだ。
いいおうちも、きっと私にはわからない事がいろいろとあるんだろう。大変なんだな。

74××年 緑白八日
お父さんなんて大嫌い。味方になってくれないお母さんも大嫌い。
父に叩かれた頬が熱くて痛くてたまらない。泣き通しで瞼も腫れているし、鼻が詰まって苦しい。
こんなに愛し合ってるのに、どうして私たちを認めてくれないんだろう。
家柄家柄って、そんなに大事なものなんだろうか。大事なのは二人の気持ちじゃないのだろうか。
反対ばかり口にして、こっちの話をちっとも聞いてくれない。
まるでお話しにならないから、こうして部屋に引きこもってやった。
認めてくれるまで絶対に口をきいてやるものか。

74××年 青赤三日
何を書いていいかわからない。
父と、母が亡くなった。突然の事故だった。
あんな喧嘩、するんじゃなかった。どうしてもっとちゃんと話し合わなかったんだろう。
意地を張って、あんな態度取り続けるんじゃなかった。後悔してももう遅い。涙が、止まらない。
彼が必死に慰めてくれた。でも、まだ何も考えられない。
どうしていいかわからない。

74××年 黒緑二日
やはり、いい家柄のところは結婚相手にも慎重になるもんなんだな。
どうやら知らないうちに、彼の家の者に身辺調査をされてたらしい。私が城に居たころの話を耳にしたようで、彼との結婚を反対された。
でも身に覚えの無い、とても酷いことまで言われた。
私の事をそんなに悪く話す人なんて、あの憎たらしい元上司くらいしか思いつかない。
本当に腹立たしい。ある事ない事吹き込んで。

74××年 緑白十日
彼が二人で逃げようと言ってくれた。
思ったよりも戦いが長く続いているし、ここもいつ戦火に巻き込まれるかわからない。
いつかどうにかなってしまう前に、早く一緒になりたいと。
本当に嬉しかった。
彼に家を捨てさせるなんて、と少し迷ったけど、私も覚悟を決めた。

74××年 白青四日
やっと戦いが終結したらしい。まさか反乱側が勝利するとは思わなかった。
こんな乱暴なやり方で王座をもぎ取って、大丈夫なんだろうか。
もしかしたら四代目の王のように、皆に、貴族らに恨まれる王になってしまうのではないだろうか。
今の穏やかな生活が脅かされることがないように、平穏に国を治めてほしい。
私が望むのはそれだけ。

74××年 黄緑二日
体調が悪い。何もする気が起きない。

74××年 黄青七日 
まさか、妊娠していたなんて思いもしなかった。彼も体調が悪かったらしいが、私に気遣って隠していたから余計にわからなかった。
嬉しい。本当に嬉しい。
彼の家への報告はやめておいた。産まれてからのほうがいいと彼が言ったからだ。
この子が産まれて、ちゃんと立派にやっていけている私たちを見たら、彼の両親もいつか認めてくれるかもしれない。
ううん、そんなことよりも。
どうかどうか、無事に産まれてきますように。
早く、あなたに会いたい。

74××年 青黄三日
本当に、どうしてこんなに酷い目にばかり遭うんだろう。
これからだったのに、どうしてどうして。私のいったい何がいけなかったの。どうしてこんな事ばかり起きるの。
体が辛いのに、私を気遣って無理ばっかりして。
どうして言ってくれなかったの。
どうして病気を隠していたの。
何も考えられない。私とお腹の子を残して、たった一人で行ってしまって。ひどい、ひどい。
駄目だ。何を書いていいかわからない。体調が悪い。お腹が痛い。早く横にならなきゃ。
お願いだから、無事に産まれてきて。あなたまで行ってしまわないで。
この子を失ってしまったら、本当にどうしていいかわからない。
お願い、アネキウス様。この子まで連れて行かないで。

74××年 黄赤八日
無事に産まれてくれてよかった。途中で何度も意識が失いそうになったけど。
ちゃんと産まれてきてくれてありがとう。本当にありがとう。
産まれたこの子を見て、今、村中が大騒ぎだ。
明日にでも城からの使いが来てしまうだろうか。それよりも先に、彼の家の人がやって来て、この子を取り上げられてしまうかも。
でも、今の私にはそれに抵抗する力もない。
考えようによっては、彼の家に引き取ってもらったほうがこの子のためになるのかもしれない。ファダーの姓がこの子を護ってくれるかもしれない。
私も驚いたけれど、心のどこかで、ああやっぱり、という気持ちも少しあった。
やはり、私は四代目の王の忘れ形見だったのだろうか。今更、それを確かめる術はないけれど。
体がだるい。
顔が冷たくて眩暈がする。
出血がまだ止まっていないみたいだ。
この子の成長を見届けることは叶わないだろうが、でもきっと、この子なら立派に生き抜いてくれる。
あなたと私の子だもの。きっと、立派な王になって、立派にこの国を治めてくれる。
そう信じてる。

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