スポンサーサイト

--.--.-- (--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

誅罰<3>

2013.08.08 (Thu)
男ヴァイル王様、テエロのその後の話。
他の登場人物はネタバレのため伏せます。完結しました。

誅罰<3>


 最初の記憶は、父と母の声。とある村の目立たない小さな宿の一室だった。
 自分が眠っていると思いこみ、二人は声をひそめて会話を続ける。耳をそばだてていることにもまったく気付かずに。

「ぐっすり寝てるな。ちょっと今日は無理させちゃったからなあ」

「思ったより道が悪かったね。歩きづらくて時間がかかっちゃったから……」

「よっぽど疲れたんだな。……ほんと、こうやって見ると寝顔がレハトにそっくり」

「……そう?」

 自分の顔を覗き込んでいるであろう両親の視線を感じつつ、目を閉じて眠っている振りをする。
 確かに今日の移動は長いのものであったが、さほど疲労は感じていなかった。長距離移動はもう既に日常と化しているので、足の痛みもほとんど無く猛烈な眠気が襲ってくるわけでもなかった。
 何故か理由はわからないが、ひとつのところに留ったりせず、いつも自分たち家族は旅を繰り返していた。
 そう。まるで、何かから逃げているかのように。

「本格的に遠くに向かうのは、もうちょっと大きくなってからかなあ……。無理させて病気にでもなったら大変だし」

「……うん」

「その前にレハトの村に寄っておこうか。下手したら、もう二度と行けないかもしれないしね」

「……」

「大丈夫だって。もう何年も経ってんだよ? 怪しい奴らの姿ももうここずっと見かけないだろ? きっと諦めたんだよ、あちらさんも」

「そうかな」

「心配し過ぎなのはレハトの悪いところ。ほら、笑って笑って。何があったってこの頼もしい俺がすぐに蹴散らしてやるから。……行っておきたいだろ? お母さんのお墓に」

「……ありがとう。トッズ」

 二人の言う、追手、というのが、どこから来る者たちのことなのか。一体何故、自分ら家族はその何者かに追われる身であるのか。
 それからも毎夜のように寝た振りをして二人の会話を盗み聞きするうちに、だんだんとその全てが明らかとなっていった。
 
 追われているのは、父が母をある場所から連れ去ってしまったためということ。
 母は以前、この国の王に見張られていた生活を送っていたということ。

 そして、父と自分は、血が繋がっていないということ。


  ◇  ◇  ◇


「どうして? どうして僕一人だけお留守番なの?」

「すぐ戻るからね。大丈夫。宿のおじさんにちゃんと頼んでおいたから。何かあったら、すぐにおじさんに言うんだよ」

「やだやだ、僕も行く」

「熱が高いから駄目。ごめんね」

 いつものように旅の途中で寄った宿でのことだった。病気らしい病気をしたことがなかった自分は珍しく昨晩から高熱を出してしまい、母も父も付きっきりで寝ずの看病をしてくれた。だがもうすぐ夜が明けるという頃、寝ているところを起こされると同時に、母は言い出しにくそうに自分に言葉をかけた。
 
 この宿からそう遠くないところにある母の故郷。そこにある墓をひと目見たらすぐに帰ってくる、と。熱が高い自分を動かすわけにはいかない。だから、戻ってくるまで大人しくここで休んでいて、と母は自分の頭を撫でながら、そう言った。

「明るくなる頃までには戻るから。ね、いい子だから大人しく休んでて」

「一人で残るのやだ。つれてってつれてって」

「明日になったら、また長く移動しなきゃいけないの。今のうちに熱を下げておかないと……」

「やだったらやだ!! やだやだやだ!!」

 母の袖をしっかりと掴んで、決して放すものかと服が破けそうなくらいの力を込める。困った表情を浮かべる母の背後から、父が部屋の扉を開けて姿を現した。母が駄目なら、父だ。縋りつくようにして父に飛びかかって懇願した。

「おとうさん、つれてってつれてって。大丈夫だから。僕、歩けるから」

「言う事聞かなきゃ、お尻ぺんぺんするぞ。なんだ、一人で寝るのが怖いのか?」

「……怖くないもん」

「じゃあちゃんと寝て、食べて、熱を下げておくんだ。戻った時にちゃんと寝てなかったら、それでもお尻ぺんぺんだぞ」

「やだやだやだやだ。お尻ぺんぺんも置いて行かれるのも、やだったらやだ」

 喚いて必死に抵抗するが、熱でしんどい体で暴れ続けるうちにとうとう寝台に倒れ込んでしまった。ほら言わんこっちゃない、と父が優しく布をかけてくる。今まで経験したことがない体のだるさに抗うことができず、そのまま扉を開けて連れ立って歩く二人の背中を大人しく寝台から見送った。
 あの時、どうしてあんなに置いて行かれることに反抗を示したのか自分でもよくわからない。あんな風に大好きな母を困惑させるような態度を取ったのは初めてのことだった。今思えば、小さいなりに何か嫌な予感がしていたのだろう。

 扉が閉まる瞬間に、振り向いて心配そうに自分を見つめる母。
 同じように振り向いて、優しい笑顔を向けてきた父。
 それが二人を見た最期の姿だった。

 その後、母の故郷で待ち伏せされていた城からの追手の手にかかり、自分の家族は皆、二度と帰らぬ人となった。
 母が城から逃げ出してからもうかなりの年月が経っていたし、今まで一度も危ない目に遭ったことがなかったのが二人の油断を招いたのだと思う。王の執拗さは二人の予想のはるか上を行っていた。数年やそこらで諦めるような、そんな軽い気持ちで母を城で隔離し続けていたわけではなかったということだ。


  ◇  ◇  ◇


「つまり……、お前は陛下の……?」

「確証はありません。自分が盗み聞いた両親の話が真実ならば、という仮定でしかありませんが。陛下は気付いていなかったんですね、母が身籠っていたことに。お腹が目立つ前に父が母を連れ去ってしまったんですから無理もないでしょうけど。……母も、城を出てしばらくしてから気付いたみたいです。それでも父は母の全て受け入れた。産まれた子も含めて全部」

「……馬鹿な。あの村で、子供一人と男女一人ずつ確かに仕留めたと報告が」
 
「双子だったんですよ。徴を持つ女と、その側に居た男、子供を一人始末したということだけで、貴方がたはひと仕事終えた気でいたんでしょうけど」 
 
「双、子……」 

「村の周辺の宿を、もう少し念入りに詳しく調べるべきでしたね。まあ、そうなっても大丈夫なように、僕が早々に焼き払っておきましたが」


  ◇  ◇  ◇


 夜が明けても、父も母も、もう一人の同じ顔を持つ兄も宿には戻ってこなかった。
 熱のせいで喉の渇きがひどく、水を貰いに階下に向かおうとした時に、宿を営んでいる夫婦の会話が漏れ聞こえてきた。近くの村で男一人と子供一人の死体が見つかり、朝からちょっとした騒ぎになっているという。その夫婦も通りすがりの商人に話を聞いただけのようだったが、それを聞いてすぐに自分にはわかった。父と兄に違いないと。
 間違いなく徴持ちの遺体だという確認のために、母の遺体は城へと持ち去られてしまったのだろう。身重の体で、やっとのことで城から逃げ出したというのに。父が決死の思いで母を救い出したというのに。母はまた、あの現王のもとへと連れ戻されてしまった。

 自分が存在していることが城の連中に知られてしまったら。どうなってしまうかなんて容易に想像がつく。ぐずぐずしている暇はない。ここにもすぐに追手が来るかもしれない。宿帳や荷物を早急に始末する必要がある。自分たち家族を見ているここの夫婦の口も封じねばならない。
 熱で重い体に鞭打って慌てて部屋へと戻り、自分で持ち運びできる量だけの荷物をまとめてすぐに宿に火をつけた。この方法がいちばん手っ取り早いと咄嗟に判断したからだ。

 簡素な造りの宿はあっという間に火に包まれ、それを遠くから見届けて自分はその場を去った。 


  ◇  ◇  ◇


「最初から復讐のために従順な態度を見せていたということか。実の父親である陛下を、その手で……」

「父親だなんて思ったことはありません。僕の父は、貴方がたに殺されたあの人だけだ。……いい人でしたよ。血が繋がらないのに、そんなそぶりは全く見せずに、いつも笑顔で僕たちを可愛がってくれて」

「……」

「母とも、それはそれは仲睦まじくてね。両親の会話を聞くまでは、まさか自分がよその男との間に出来た子だなんて思いもしませんでした。僕も兄も小さい頃は母親似でしたし。昔、ここで何があったか詳しくは知りませんけど、母は陛下に相当恨まれていたんでしょうね。それとも執着されていた、と言うべきかな。陛下が今も独身なことからも、それが伺えますし」

 やはり自分の勘は間違っていなかった。
 こいつは愛想を振りまきながら、その裏で虎視眈々と復讐の機会を狙っていた。憎んでいる陛下の前ですらその態度を決して崩すことなく、取り入るような振る舞いさえ見せていた。長年かけて周囲を信用させ、医士という立場、裏の護衛をいう立場をいいことに、恵まれた環境を最大限に利用して確実に効果の表れる薬を探求し続けた。
 医士にさせたのは間違いだった。行動を見張るため、と思って判断したことだったが、こいつは城から最も遠ざけておくべき人物だったのだ。

「僕ら家族は何もするつもりはなかったんだから、逃げた時点で放って置いてくれればよかったんだ。そうすれば、こんなことにはならなかった。逃げられた女をいつまでもしつこく追い続けて、ほんとに女々しいったらありゃしない」

「……口を慎め」

「この額に母のような徴があればね。もっと簡単に城に潜り込むことができて、いろいろと好きに動けたんでしょうけど。幸か不幸か、僕たち兄弟に徴は現れなかった。父も母も、産まれた僕たちの額を見てほっとしたことでしょうね。徴持ちが二人も三人もぞろぞろと頭を隠しながら逃亡するなんて、目立ちまくってどうぞ捕まえてくださいと言わんばかりだ。ところがアネキウスのお導きかなんなのか、貴方がたが僕を捕えて城への道を作ってくれた。感謝してますよ、本当に」

 改めて目の前の人物の顔を見つめるが、王と似ているようなところは何一つ見受けられなかった。しいて言えば、その言動、相手を懐柔させてしまうような人懐こい振る舞いが、かつての陛下を思い起こさせるくらいだろうか。
 だが、彼が本当に現王の実の子であるか証明することができるはずもない。いったい、どこまでが真実で、どこまででっちあげたつくり話なのか。
 今わかるのは、奴にしか作り出せない毒に王は蝕まれ、そして解毒剤も奴にしか調合できないという事実だけだ。

「もう一度聞く。解毒剤の調合法は」

「解毒剤ね。ありますよ、ここに」

 そう言いながら、彼が笑顔で頭を指差す。
 その人を小馬鹿にしたような態度が、話を聞いてしまったせいもあるのかもしれないが若い頃の王の姿とだぶついた。

「さっさと吐け。でないと……」

「殺されたって別に構いませんけど。でも陛下がこのまま弱っていってもいいんですか? 服用を止めたからって、そんな簡単に体から抜け出るような薬を僕が作るとでも? テエロさんが頑張って解毒剤を作ってみたらどうですか。到底不可能だと思いますが」

「……っ」

「何をされても、僕は絶対に吐きませんから。陛下の体力が尽きるのと貴方が解毒剤を作り上げるのと、どちらが先でしょうね。さあて、僕はどこに監禁されるんです? 薄汚い牢屋でも小屋でもどこでも構いませんよ。それとも、あれかな。陛下に何もかも打ち明けたら、母が閉じ込められていた部屋に連れて行かれるんでしょうかね。その部屋を見てみたい気もするし、どうしようかなあ」

 こんな状況だと言うのに彼は楽しんでさえいるような表情を浮かべていた。目的を遂げた達成感からなのか、それとももう逃げ場がないことで何もかも投げやりな気持ちでいるのか。
 
 ぐずぐずしている暇はない、とわかっていながら、自分はどうするべきか判断できないでいた。
 睨む自分に構うことなく彼は飄々とした態度を一向に崩さない。やがて彼が懐から青い石のピアスを一つ取り出し、それを手で弄び始めた。
 窓から差し込む光が石に反射し、彼の顔を不気味に照らし続けていた。

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。