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嫉妬<偽言 後編>

2013.08.31 (Sat)
女レハト王様、グレオニー側付き護衛のその後の話。
<謀反>の設定をちょっと変えて書いてみました。
大変胸糞な結末です。ご注意を。

嫉妬<偽言:後編>


「なんなんだよ、いきなりぎゃんぎゃんと喚き立ててきて。だいたい、お前みたいな身分の分際で私に説教かますなんて、いったいどういう了見だ?」

 王配殿下の体調は一向に回復の兆しを見せなかった。当たり前だ。最初からどこかを患っているわけではないのだから。頭が痛い、胃がひきつれる、とほざきながら、夜にはいそいそと城を抜け出すことができる都合の良い病があるのなら、是非とも病名を教えてもらいたいぐらいだ。

 寝台に一人横たわる王配殿下を問い詰めてはみたものの、返ってきたのは不貞腐れた態度と開き直ったような言葉のみ。少しも悪びれた様子がなく、いちいちそんな些細なことに口を出すなと言いたそうな顔をこちらに向けてくる。だが、負けじと自分も言葉を返した。

「……身分を弁えず、出過ぎた行為だとは十分承知しております。ですが」

「うるさいなあ。どっちみちお互い様だろ。こっちだってお前のお下がりの傷物女を拾ってやったんだ。感謝されてもいいくらいなのに、文句言われる筋合いなんてないよ」

「な……っ!? き、傷って……。どういう意味ですか。殿下と言えども、陛下のことをそのように……」

「お前が護衛に指名されたのだって、つまりはそういうことなんだろ? 今だって私に隠れて、二人で何をしているかわかったものじゃない」

「誤解です!! 私は決してそんな……!!」

「仮に彼女がお前の子を身籠ったとしても、私は心が広いから自分の子として育ててやるよ。産みの繋がり? ああ、皆が信じて疑わないくらいに上手く演じてみせるさ。それで徴持ちが産まれでもしたら儲けものだ。次期継承者の親として、お前の子に最高の教育を受けさせてやろうじゃないか。どうだ、これで満足か?」

「……っ。殿下、ですから私は」

「ちゃんと王配の役目は果たすよ。彼女のご機嫌取りだっていくらでもしてやる。だから少しくらい、羽目を外すのを多めに見てくれてもいいだろう?」

 ご機嫌取り? あれで?
 じゃあ、貴方を見舞うたびに泣きそうな顔をして彼女が寝室から出てくるのは何故だ。医士を呼ぼうとした彼女を怒鳴りつけている行為の、いったいどこがご機嫌取りだと言うのだ。
 名門である自分の家の力が、権力が、彼女がこの国を治めるためには必要不可欠だとこの男もわかっているのだ。わかっていて、頼らざるを得ない彼女が何も言えないのをいいことにこんな行為を繰り返している。少しでも夫婦らしくなろうとしている彼女の努力を踏みにじっている。

「ほら、話はもうおしまいおしまい。邪魔だから早く出て行けよ。具合が悪いと言っているだろう?」

「……まだお話ししたいことがございます」

「なんだよ、しつこいな」

「これは何の薬ですか?」

 懐に隠し持っていた小さな器を出した瞬間、相手の顔色が変わった。だが敵も然る者で、すぐにいつものふてぶてしい表情に戻る。

「この部屋を漁ったのか? なに勝手なことしてんだよ。もうお前、解任ね、解任。あとで衛士長に言っておくから」

「何の薬か、と訊いているんです」

「……医士に貰った、私の頭痛の薬だ」

「その都度、医士に貰えば済む話じゃないですか。何故こんなに溜めて置く必要があるんです?」

「そんなもの私の勝手だろうが!!」

 その言葉が言い終わらないうちに、寝台に横たわる殿下に近づいて胸ぐらを掴み上げた。突然の無礼な行為に、相手が怒りをあらわにして睨みつけてくる。

「貴様、何をしているかわかっているのか? さっさとこの手を放せ」

「今、ここでこれを飲んでいただけませんか」

「な……」

「頭痛の薬なのでしょう?」
 
「放せと言っている!!」

 束縛を解こうと相手が必死に自分の腕を掴んでもがく。だがもちろん自分は、力を緩める気なんてさらさらなかった。
 
 先刻、殿下に進言しようとこの寝室を訪れた時のことだ。訪問を告げる鈴を鳴らすも、いつまで経っても何も返事が返ってこない。
 何気なく扉に手を触れると鍵がかかっていなかった。鈴が聞こえなかったのだろうか、扉を開けて侍従を呼べば出てくるだろうか、と無礼な行為とわかりつつも寝室に足を踏み入れた。奥の方へ声をかけながら恐る恐る歩を進めていると、壁際に置いてある棚に体をぶつけてしまい、何かが床に落ちた音が響いて思わず体が強張る。それは白い粉の入っている小さな器だった。見た目からして何かの薬のようだ。
 落ちた衝撃で、中身が半分近く床にこぼれてしまった。慌てて粉を器へと戻すが、さすがにこのまま何もなかったように棚に戻すわけにはいかない。
 とりあえずこっそりと器を持ち出し、急いで医務室へと足を向けた。落としてしまったので同じ薬を補充して欲しい、と医士に器を差し出すと、器を受け取った医士が途端に顔を曇らせる。

「……貴方、自決でもなさるおつもりですか?」

「はっ? え? じ、自決って……。いえ、自分は……」

「まったく、こんなに睡眠薬を溜め込んで。どれだけ世を儚んでいるのか知りませんが、致死量を超えているどころの話じゃありませんよ。量の加減が難しい薬物なんですから、ちゃんと私どもの指示の元で服用して頂かないと……」

 説教を続ける医士の声が次第に耳から遠のいていく。顔の、血の気が引くのを感じた。
 混乱しつつも、殿下に頼まれたので、と半ば強引に医士から器を取り返した。殿下の名前を出すと医士も渋々ではあるが納得したようで、薬を奪い返そうとはしてこなかった。

 殿下が自ら命を絶つことを考えていた? 
 普段の殿下の言動を思い返してみても、彼とその行為を結び付けることがどうしてもできない。
 加減が難しい薬、と医士は言っていた。自分で量を調節して服用しているのだろうか。だがこんなに溜め込んでおく必要がどこにある? 夜中だろうが早朝だろうが、呼べばすぐにでも医士が駆け付ける身分だというのに。

 そこで、日に日に元気がなくなっていく彼女の姿を思い出す。
 冴えない顔色。おぼつかない足取り。
 まさか。
 いや、そんな。でも。

 浮かんでしまった疑念は、そう簡単に頭から離れてはくれなかった。
 確かめる必要がある。今すぐに。杞憂であったなら、それはそれでいい。先走って王配たる人物に無礼な疑いをかけた、と自分が処罰を受けるだけの話だ。
 
「わかった!! わかったから!! そうだよ、お前が考えてる通りだよ!! 少し前から、彼女にこれを飲ませていた!!」

「……」

「彼女が居なくなれば、自分が、私がこの国を治めることができると思ったんだ!! 今よりももっと贅沢ができると思った!! これでいいか!? 全部言ったぞ!? おい、頼むから早くその器を遠ざけてくれ!!」

 今現在、まだ徴を持った次期継承者は現れていない。
 新たな寵愛者が現れるまでの場つなぎに。そんな軽い考えで事を企てた、と王配殿下は情けない涙声で叫び続けた。

「もうしない!! こんな馬鹿なこと二度と考えない!! な? ほら、早く腕を……」
 
 そんなもの信用できるわけがない。
 こういう輩は、喉元過ぎれば、という言葉通り、時が経てばまた何度でもこのような愚かな行為を企てるのは目に見えている。
 これ以上、彼女を危険に晒すわけにはいかない。この男は彼女にとって危険な人物でしかない。
 
 相手の顔に押し付けていた器を離し、露台に移動して彼女を苦しめていた忌々しい薬を外に向けて思い切り投げつけた。
 殿下は寝台にへたり込み、反吐が出そうな媚びへつらう笑みを浮かべている。

「わ、わかってくれたか。よかった。うん、そうだよな。お前の言うとおりだ。わ、私も考えを改める。これからは彼女に対してもっと……」

 相手の言葉に耳を貸さず、俺は腰に下げていた剣の柄に手をかけた。


  ◇  ◇  ◇


 湿った空気に混じって、こちらへ近づいてくる足音が地下牢に響く。
 もうこの牢屋に入れられてから何日ぐらい経ったのだろうか。ひんやりとした石壁の感触にも、ぎしぎしと不快な音をたてる粗末な寝台にも慣れてしまったくらいに時間が経過したことだけはわかる。
 聞こえてくる音からして、歩いている者は数人のようだ。やがて、嗅ぎ慣れた上品な香油の匂いを漂わせて彼女が牢の前に姿を現わした。目線で背後に付いていた護衛らを遠くへと追いやる。
 鉄格子を挟んで彼女と向かい合わせになるが、相変わらず彼女は溜息が出るほど美しい顔立ちをしていた。無精ひげが伸びて、貧相な衣服を身に纏っている自分を視界に入れさせてしまうのが申し訳なくなるぐらいに。

「……どうしてなの」

 絞り出すような声で彼女が問う。
 昨日も、一昨日も、自分がここに入れられてから、毎日同じ質問をされていた。自分の返答に納得がいかない彼女は、諦めることなく何度もここに足を運ぶ。

「嫉妬に駆られました。貴女を取られて我慢ができなかった」

「うそ」

「嘘じゃありません」

 いつもと同じ内容、同じ会話。
 今日も新たな言葉を得られないと悟ったのか、彼女が深い深い溜息を吐く。

「お願いだから本当のことを言って。でないと貴方を……」

「何度も申しましたように。処刑されるのは覚悟の上でしたことです。王配殿下を殺めた大罪人として、どうぞ適切な処罰をお与えください」

「グレオニー!!」

「全ては自分の身勝手さ故の行動です。貴女の大事な伴侶を奪ってしまって……申し訳ありませんでした」

 何度訊かれようとも同じだ。何のために王配殿下を刃にかけたのか、決して口にするまい。
 自分が処刑されることに反対の意を唱え続けているのは、城の中ではもはや彼女一人だけだと耳にしていた。罪を免れてここから出ることはほぼ不可能だ。処刑が実行されるのも時間の問題だろう。
 
 それでいいんだ。そうやって、何が真実だったかなんてあやふやになってしまえばいい。伴侶に裏切られていたことに、心から信じていた者が謀反を企んでいたことに、彼女がいつまでもずっと気付かなければいい。
 
 自分を見つめている彼女の瞳から涙がこぼれる。
 手を伸ばしてそれを拭ってやりたい。力強く抱き締めてやりたい。だがその役目は、やがて現れるであろう彼女の新しい伴侶に任せることにしよう。こんな乱暴な方法しか思いつかなかった自分には、こういう結末がお似合いだ。
 
「お話しすることは何もありません。何度来られても同じです」

「何か理由があるんでしょう? でなきゃ、貴方がこんな馬鹿なことをするわけが……」

「……」

「ねえ、グレオニー……こっち……向いてよ……」

 彼女が涙声で懇願を呟く。
 歯を食いしばり、それに耳を貸さずに顔を背けて会話を拒否する意思を示した。
 
 早く。お願いだから、早くここから去ってくれ。
 意思の弱い自分は、貴女の声を聞き続けていると決心が鈍りそうになる。何もかも打ち明けてしまいたくなる。真実を知って傷ついた貴女を気遣うこともせず、自分の想いだけをぶつける愚かな行為に走ってしまいそうになる。

 やがて護衛が近づいてきて彼女に退去を促した。しばらく反抗を続けた彼女だったが屈強な力に敵うわけもなく、引きずられるようにして牢から去って行く。

 彼女の泣き顔が脳裏に浮かんで、胸が抉られる思いがした。だが、ただの護衛が一人居なくなったところで、彼女ならばすぐに立ち直ることができるだろう。こんな大罪を犯した馬鹿な護衛が居たことなど、きっとそのうち思い出しもしなくなる。

 鉄格子に手を掛けて項垂れる。
 彼女のこれからが、どうか心安らかなものでありますように、と祈りながら。
 
 陰湿な牢屋に相応しくない、彼女の香油の匂いだけがいつまでもその場に残り続けた。
 
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