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報恩<2>

2013.10.21 (Mon)
とあるサブキャラの過去捏造話。
登場人物、リリアノ、タナッセ、レハトとくれば、誰の話かはすぐにわかるかと。
胸糞注意な、救いの無い結末になる予定です。いつもの如く死人も出ます。ご注意を。

報恩<2>


「ああ……あの時の子か。もう成人していたとはな」

 我も歳をとるはずだ、と書類を衛士長から受け取って思わず苦笑する。
 衛士の採用試験を受けた者たちの、出身地、年齢、志望理由などなど、事細かく記載された書類。その中に、かつて巡幸先で出会った子の名前があったらしい。当時、巡幸に同行していた護衛が今は衛士長となり、彼が最初にその名前に気付いたのだ。何が面白くないのか、その衛士長はこの部屋に入ってきた時から苦虫を潰したような顔を維持し続けている。

「志望理由を聞きましたところ、陛下に命を助けられた恩を生涯かけて返していきたいと。そう申しておりまして」

「ずいぶんと律義な性格なのだな。たまたま通りがかっただけだというのに」

「陛下がいなければ、あの時間違いなく自分も殺されていただろう、と」

「どうだ。我の気まぐれも、たまには役に立つであろう?」

 笑みを返すが、衛士長の仏頂面は崩れなかった。
 書類に目を通してみる。試験を受けに来るだけあって、件の人物は剣の腕も確かなようだった。成人して間もないというのに、城で衛士を長く務めている者達相手に、ひけを取らない戦いぶりであった、と綴られている。

「それで? 何が問題だと? 筋が良くて体格も申し分なし、と書いてあるが。我には理解できないような、何か重大な素質が欠けているとお主には見えたのか?」

「あの者は孤児でございます」

「それがどうした」

「……陛下。いくら人手不足とは申しましても、それなりに出自のしっかりした者でありませんと……」

 衛士長の顔が、ますます険しいものになる。
 長年の付き合いから、この者が自分に負けない頑固者だということは既に承知済みだ。これは長期戦で事を構えねば、と溜め息を吐いて言葉を返した。

「まったく……。そのような偏見を持って選別なぞするから、いつまで経っても使える手駒が増えぬのだ。もう少し視野を広げるべきではないか、と我は前々から何度も」

「その育ち故、性格に難があったらいかが致します。城に入った途端、陛下に牙を剥くやも」

「そうなれば、お主たちが身を呈して我を護ってくれるのであろう? それとも、ここに居る衛士らは、見てくればかりが立派なだけの役立たずの集団なのか? 成人したばかりの若造を抑え込む自信が無い、とは言わせぬぞ」

「孤児を引き入れたために、こんな事態に、と責任を取らされるのは私でございます」

「そして、実力はあるのに孤児であるが故に採用しなかった、と我は民に陰口を叩かれるのだな」

「陛下……」

「いつもいつも、手が足りないと泣きごとを口にしていたのはお主ではないか。使える人材を使って何が悪い。生まれが良いからと言って、性格も良いとは限らぬだろうて」

 そうやって、長時間に渡って衛士長への説得を続けた。互いに妥協せず、ただ時間だけが過ぎて行く。
 多少、強引な説き伏せ方であるとは自分でもわかっていた。あの時、何の手助けもしてやれなかったことへの罪滅ぼし。正直そんな気持ちも心の片隅にあったのは事実だ。

 別れ際にあの子が見せた、咎めるような縋ってくるような眼差し。しばらく忘れていたが、再びそれが頭の中に甦ってきた。思い出した途端に、既視感に襲われる。何か、似たようなものをつい最近どこかで見た気がする。
 ああ、そうか。いつも、息子が自分を見つめてくる目とよく似ているのだ、と少ししてから気付いた。 
 日々の忙しさに追われ、あまり触れ合う機会のない息子。あの両親を失った子供を衛士として雇い入れることで、そんな息子への罪悪感を誤魔化そうとしていたのかもしれない。
 衛士長が部屋を出て行ってから、そんな風に思った。
 

  ◇  ◇  ◇


 衛士長の心配をよそに、孤児の衛士は黙々と仕事に取り組む日々を送っているようだった。
 ただ、何の問題もなく、とはとても言い難い状況ではあったが。

 城にやってきてから数年が経つというのに、周りの者との交流が全くない。
 仕事で必要なやりとりはするものの、その口数の少なさ故、無口を通り越して病気なのではないかという噂まで流れる始末。
 
 あまり口を開かないのは、もしかしたら母を失った時の出来事が原因の一つなのではないか。
 想像の域を出ないが、密かにそんなことも考えていた。
 いくら仕事ができて腕が良いと言っても、このままでは周りの者がたまらない。再び衛士長がそう苦言を呈してきたのがつい先日のことだ。
 
「と、言うわけなのだが。お主はどうしたいと考えている? 周りの陰口なぞ気にせずに、自分を貫き通すか? それとも、衛士長の思惑どおりに城を去るか?」

 ふとした思いつきで、例の衛士を部屋に呼んでみた。言葉をかけるも、相手は項垂れた頭を上げようともしない。

 この者が衛士となってから、こんな風に間近で対面するのは初めてだ。直接話をする機会も今まで一度もなかった。
 あの頃の面影はもう全く残っていない。体格が良いとは聞いていたが、扉が開いて目に飛び込んできた巨躯は予想以上のものであった。育った家で何をどれだけ食べさせられていたのかは知らないが、よくもまあこれだけ大きく育ったものだ。

 この見かけのせいで、周囲との関係が余計にこじれてしまった部分もあるのでは。
 無口なら尚更、印象は良くない方向へと向かってしまったことだろう。

「もしかして、自分を恥じているのか? 周りとうまくやっていけない己の性格を」

「……」

「……我も、うんざりするほど大勢の護衛を側に侍らせているがな。側に置くのに、一番必要な条件は何だかわかるか?」

 問いを投げかけても、相手からの返事はなかった。
 構わずに言葉を続ける。

「お主のように口が堅いことだ。口は災いのもと、とはよく言ったものだな。その愚かさ故に、命を落とす羽目になった者を我は何人も知っている。……王に相応しい者でも例外なく」

「……」

「お主に、息子の護衛を頼みたい」

 その言葉で、相手がやっと顔を上げた。しかし動作はゆっくりで、表情は変わらないまま。頬の筋肉が麻痺しているのでは、と思うほどに。
 とてもそんな風には見えないが、恐らく驚いてはいるのだろう。黙って辛抱強く返事を待つが、ぴくりとも動こうとしない彼を眺めているうちに、我慢できずに吹き出してしまった。

「それだ。その動じない態度。護衛たる者、いつでも冷静に事を判断出来なければ使い物にはならぬ。案ずるな、お主ほど護衛という職に相応しい者はそうそう居らぬだろうよ。衛士長も、今でこそあのようにふてぶてしい態度を崩さずにいるが、昔は……」

「陛下」

 後ろで事の成り行きを黙って見ていた衛士長が、すかさず口を挟む。
 止む無く話題を変え、再び体格の良い衛士に声をかけた。 

「べらべらとよく口が回る息子には、それくらい無口なほうが丁度良いであろう。どうだ。引き受けてくれるか?」

 衛士は、真っ直ぐに自分を見つめて低い声で呟いた。

「……仰せのままに。謹んでお引き受け致します」


 ◇ ◇ ◇


 まったく、何だと言うのだ。
 急に護衛などつけてきて。目ざわりだから必要ない、という自分の言葉を今まで尊重してくれていたくせに、今になってどうして。
 母上はいったい何を考えているのだ。

 このまま部屋に居ては、そのうち物に当たってしまう愚かな行為に走ってしまいそうだ。苛々した気持ちを抑えきれず、勢いよく椅子から立ち上がって本を手に取った。
 少し外の風に当たろう。
 図書室に寄って、本を返して。中庭で新しく借りた本に目を通していれば、心が落ち着いてくるかもしれない。
 しかし護衛はどこまでもついてくる。走って振り切ろうとしても、凄みを利かせて睨みつけても全く動じることなく、その巨漢に似合わない素早い動きで自分の後を追ってくる。
 
「何度言えばわかるのだ!! 私に護衛など必要ない!!」

「……」

「ついて来るな!! 一人で城の中も歩けないほど軟弱者だと思われてはたまらん!!」

 怒鳴ったところで無駄だとわかってはいるが、自分を覆う大きな影に、いい加減嫌気がさしていた。
 どこへ行っても何をしても、何者かの目が常に自分を見ている。そういう生活にはとっくに慣れていたつもりでいた。だが、寄り添うように誰かがぴったりと側に居る、ということが、こんなにも苦痛なものであったとは。それが得体の知れない不気味な存在だと、余計に不快感が募る。
 
「いいか、母上が何を言ったかは知らないが、お前を護衛と認めた覚えはない。私は一人で中庭を歩きたいのだ。もう一度言うぞ。一人で、歩きたい、のだ。わかったか!?」

 新たに図書室から借りた本を手に、中庭に足を踏み入れる。
 無口な護衛の足音が聞こえてこなかったが、途中で振り向くと、衛士の白い服が周りの緑の隙間からちらりと見えた。

 ……あれで隠れているつもりなんだろうか。
 気にせずに本に集中しようと目を向けるも、やはり気になって落ち着かない。
 ああやって見張り続けて、私の行動を逐一母上に報告するつもりでいるのか。 

「タナッセ、なにしてんのー?」

 また邪魔な奴が現れた、と溜め息が漏れた。どうしてどいつもこいつも、自分を放っておいてくれないのだ。

「あのね。湖行こう、湖。なんか見たことない魚がいたんだよ」

「魚になど興味は無い」

「ねー、行こうよ行こうよ。絶対タナッセも見たことないってー。すっごい大きくてさー……」

 年下の従弟は、自分の言葉を無視してぐいぐいと腕を引っ張ってきた。
 もうこの状態になると、本を読む行為を続けさせてくれるとは思えない。仕方なく腰を上げ、はしゃぐ従弟について湖へと向かった。

「あれー……。いないなあ……。昨日はいたんだけど」

「そんなに大きい魚がいるわけがないだろう」

「ほんとだよー! いたんだってば!! おっかしいなあ……遠くに行っちゃったのかなあ……」

「おい、そんなに身を乗り出したら危ない……」

 ヴァイルの体を支えようとしたその時、予想以上に圧し掛かってきた重みに耐え切れずに体制を崩してしまった。
 一瞬、体が宙に浮いたような感覚。ごぼっ、という音が耳を襲うのと、鼻や喉に鋭い痛みが走るのが同時だった。二人で湖に落ちてしまったのだと、混乱した頭で気付く。
 だが、またすぐに力強い何かに引き上げられ、急に呼吸が楽になった。慌てて息を吸いこんだせいで咳が止まらなくなる。
 地面にへたり込み、そうだヴァイルは、と慌てて湖の方を振り向くと、既にモルが小さな体を抱えているところだった。

「……げほっげほげほ。タナッセ、ひどいよー。ごほごほっ。巻き添えにしないでよー……」

「なっ……!? わ、私は、げほげほっ、落ちそうになったお前を、支えようと……がはっごほごほっ」

「違うよ、タナッセが……げへごほっ……」

 ずぶ濡れのまま、ヴァイルとそんな言い争いをしていて、ふと気付いた。
 こいつは。モルは今、ヴァイルよりも私を先に湖から引き上げた。 

 いつだって、ヴァイルが最優先だった。何をするにも、どこへ行くにも。
 徴を持つ次期継承者なのだから当たり前だ。自分とは違い、国にとって大事な大事な代わりの居ない存在なのだから。
 そんな扱いで当たり前だと思っていた。自分はいつも二の次で仕方がないと思っていた。
 でもモルは、自分を真っ先に助け出してくれた。寵愛者である従弟よりも自分を。

 こんな浅い湖では、落ちたところで命の危険があるわけでもない。水の中で冷静でいられれば、自分で這い上がるのも可能だろう。
 どちらが先に、なんて考えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの些細な出来事ではあったが。
 それでも。
 自分にとっては生まれて初めての体験だったのだ。
 この年下の従弟ではなく、自分が優遇されるという行為が。
 
「あーあ……、また怒られちゃうな……。乾くまでここでごろごろしてよう。タナッセもそうしなよ。あ、えーと……名前わかんないや。タナッセの護衛さん、助けてくれてありがとね」

 自分の戸惑いには全く気付かない様子で、ヴァイルがモルに礼を述べた。モルは無表情だったが、ヴァイルはその無愛想な態度を気にした風でもなく、脱いだ上着を懸命に絞っている。
 大事な寵愛者をずぶ濡れにさせた失態を叱るわけでもなく。
 かと言って、私の体を労わる様子を見せるでもなく。

 よくわからない。
 こいつが、いったい何を考えているのかが。

 ヴァイルの提案に従い、服が乾くまでその場で寝転がっていた。
 口を開かない護衛は相変わらず側に寄り添ってはいたが、前ほどその存在が苦痛ではなくなっていた。 

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