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報恩<3>

2013.10.25 (Fri)
とあるサブキャラの過去捏造話。
登場人物、リリアノ、タナッセ、レハトとくれば、誰の話かはすぐにわかるかと。完結しました。
胸糞な結末です。死にネタ注意。


報恩<3>


 瓶の蓋を外して懐から小さな包み紙を出す。卓の上で紙を広げ、しばし白い粉状の薬を見つめた。
 ……迷うな。もう後戻りはできない。
 あの魔術師は準備を進めてしまっているのだ。
 意を決して薬を手に取ろうとしたその時、背後から腕が伸びて来て、力強く手首を掴まれた。

「放せ、モル」

 振り向かずに命を口にする。返事は聞こえてこない。だが心なしか、自分を拘束する手の力が幾分強くなった気がした。

「聞こえないのか。放せと言っている」 

 再び命令するもモルは従わなかった。
 苛立ちが募り、乱暴に腕を振り払って背後の護衛を睨みつける。
 
「もう決めたのだ。止めるな」

 モルは相変わらず無表情のままだった。しかし、自分を射抜く眼差しが、だんだん咎めているようなものに見えてくる。
 やめろ。やめてくれ。ここで止められたら、決心が鈍りそうになってしまう。
 時間がないんだ。年明けが、すぐそこまで迫ってきている。
 やるしかないんだ。もう、私にはこれしか……。
 
 向けられた視線に耐え切れなくなり、顔を逸らして怒声をぶつけた。

「そんな目で私を見るな!! ……お前は、いつもいつもそうだ。何も言わずにそうやって……」

「……」

「言いたいことがあるなら、はっきりと言ったらどうだ!! それとも母上に報告するか? いいとも、どうしても私を止めたいのならば、お前の好きにすればいい。だが、その前に聞いておくぞ。お前の主は母上か? 私か!?」

 再び、目の前の護衛を睨みつけた。しばらく返答を待つも、モルが口を開く様子はない。

「……答えたくないのか、言いにくいのか知らないが。お前がどうしようとも、私は考えを変えるつもりはない」

 包みを手に取り、粉を瓶へと流し込む。モルは、今度は止めようとはしてこなかった。
 液体に触れた途端に、粉が跡形も無く消えていく。一応、軽く臭いを嗅いでみたが違和感はなかった。

「あいつも馬鹿ではなさそうだから、警戒して飲まないかもしれないな。その時は……お前の手を借りることになりそうだが」

「……」

「どうするのだ? 今から私は、あいつを呼びに行く。母上に報せに行くなら、早くしないと間に合わないぞ」

 扉に手をかけて部屋を出たが、モルは無言のまま自分の後をついてきた。
 不自然に見えないように、平静を装って廊下を歩く。長年、見慣れている風景のはずなのに、異世界に紛れこんだような錯覚に陥った。すれ違う者の皆が自分を見ているような気がする。
 しっかりしろ。だらしがない。
 いつものように、普通に歩けばいいだけだ。
 何度も自分に言い聞かせ、そして後ろからついてくる気配を確かめる。そんな行為を繰り返しているうちに、次第に心が落ち着いてきた。
 
「……心配するな。何があっても、責任を負うのは私一人だ。お前が罪に問われることはない。私に命令されて仕方なく、ということにしておけ。……実際、その通りだしな」

 そう小さく呟き、背後に顔を向けてみる。
 体の大きな護衛は、これ以上はないというくらいに不機嫌な形相をしていた。

「お前でも、そんな顔をするのだな」

 初めて見た表情に思わず笑みが漏れ、再び足を前に出す。
 もし、モルが土壇場で阻止してきたら。途中で人を呼んでくるような行為に及んだら。 
 そうなったらその時だ。今は何も考えるな。相手に動揺を悟られては元も子も無い。

 そんなことを思いながら、二人目の寵愛者の姿を探し続けた。


  ◇  ◇  ◇


 どうしても自分のものにしたかった。手に入れたかった。
 ひと目見た時から、その思いしかなかった。
 
 だから、王になろうと思った。
 王になれるなら手段は選ばない。どんな手を使ってでも、もう一人の寵愛者を蹴落としてやろうと思った。憎たらしい王息殿下と婚約を交わすことすら、そこに迷いはなかった。

「……体調が良くないと聞いたが。大丈夫か」

 息子を亡くしたばかりだと言うのに、リリアノは気丈な振る舞いを崩さなかった。寝台に寝転がる私を見舞う姿は、先ほどの惨状が夢だったのではないか、と思わせるほどに完璧なものだった。
 でも、私は気付いている。
 彼女の心の中に、私を憎む気持ちが渦巻いていることに。深く深く、とても深いところにその憎悪を押し込めていることに。

「これからますます忙しくなる身だ。しっかりと回復させておくのだぞ」

 本当は具合なんてちっとも悪くない。血を見て気持ちが悪くなった、とは言ったが、気分は爽快そのものだった。早く一人になって、この喜びを噛みしめたかっただけだ。
 今この部屋に、この城に誰も居なかったら。自分は露台に飛び出して、いつまでもいつまでも高らかな笑いを響かせていたことだろう。寝台の上で何度も飛び跳ね、浴びるほどの酒を口にしていたかもしれない。
 そんな馬鹿な妄想が頭に浮かぶくらい、私の心は浮かれていた。

 やっと邪魔な者が居なくなった。しかも、向こうからわざわざ馬鹿なことを企んで、勝手に自滅してくれた。
 リリアノの神妙な面持ちを見て、本当に元王息殿下が処刑されたのだ、という実感がじわじわと湧いてくる。込み上げてくる笑いを抑えるのに、かなりの集中を要した。

 タナッセは私の命まで奪うつもりはなかった。それは、彼自身が儀式を途中で中断させたことからも明らかだ。
 もしかしたら、私がそう証言していれば彼は処刑を免れたかもしれない。首を刎ねられることなく、牢の中で罪を償う日々を送っていたのかもしれない。
 わかっていて私は何も言わなかった。彼が処刑台へと導かれるのを、高鳴る胸を抑えつつ黙って見ていた。

 詰めが甘いから、こういうことになる。あれだけのことを企んでおいて途中で怖気づくとは。いつも偉そうに私を馬鹿にしていたくせに、所詮は口だけが達者の臆病者だったというわけだ。
 まあ、その意気地の無さのおかげで、こうして私は助かったのだけれど。

 そうそう。大事なことを聞いておかないと。
 うっかり彼まで処刑されては、なんにもならない。

「あの者は……タナッセの護衛はどうしていますか?」

 思いもよらない話題だったのか。リリアノが目を丸くして、珍しく一瞬だけ言葉に詰まる。
 
「……何も言わぬままだ。聴取をしつつ、まだ牢に入れてあるが」

 何故そんなことを、とでも言いたげに彼女が返答する。
 駄目だ。まだ笑っちゃ駄目だ。私は元王息殿下に殺されそうになった、哀れな寵愛者。飛び散る血を見て具合が悪くなってしまった、気が弱い新たな王。

「彼を、私の護衛にしたいのですが」

「……あやつを?」

「タナッセに命令されて、仕方なく従っていたのでしょう? ならば彼に罪はないはずじゃないですか」

「……確かに、息子はそう証言していたが。本人はまだ何も言っておらぬ」

「すぐに牢から出してあげてください。あの護衛は私を助けようとしてくれていました。本当です。私が助かったのも、彼がタナッセを止めてくれたおかげなんです」

「その話は、前にも聞いたが……」

「……このままでは、彼も普通の衛士の仕事には戻りづらいでしょう? 聞けば、身寄りも無いというし。こんなことに巻き込まれて、城から追い出すのも可哀想です」

 うまく演じきれただろうか。おかしなところはなかっただろうか。
 リリアノは、しばらく黙って私を見つめていた。何を考えているのだろう。表情からは何も読みとれない。

「お主……」

「なんですか?」

「いや……。なんでもない。誰を護衛にするかは、お主の考えひとつだ。我はもう王ではないし、口を出す権限もないのだからな」

「……そうかもしれませんけど」

「とにかく、今は体を休めておけ。これからは休みたくとも休めない日が続くのだからな」

 そう言って、リリアノは話を切り上げて部屋を出て行った。
 あの様子だと、私の思惑に彼女は気付いていたのかもしれない。
 それでも構うものか。今の王は私だ。彼女が何を言おうが疑おうが、モルを護衛にという希望を覆すつもりはない。

 やっとここまできた。
 やっと、彼を手に入れることができた。

 布団に潜り込み、声を出さないよう最大限の注意を払って、私は満面の笑みを浮かべた。


  ◇  ◇  ◇


 レハトが、ずっと息子を忌み嫌っていたことには気付いていた。そして、その理由も。
 だがまさか、それがこんな結果を生むとは思いもよらなかった。

 時間を戻すことなぞ不可能だとはわかっていても、どうしても考えてしまう。
 自分はどこで過ちを犯してしまったのか、と。

 孤児は相応しくない、という衛士長の言葉を聞き入れずに、強引な説得でモルを衛士にしてしまったのが、そもそもの誤りだったのか。
 それとも、息子の護衛にと提案してしまったことだろうか。
 レハトを始末することなく、城に招いてしまったことだろうか。

 ……あやつは、最初からヴァイルとレハトを争わせることに反対しておったな。
 見せしめに塔に張り付けてやるべきだ、と息巻いていた息子の姿を思い出す。
 今頃、だから言わないことはない、と我を罵っているだろうか。自分を死へと追いつめた、非情な母を恨んでいるだろうか。
 いくらでも、好きなだけ我を憎むがよい。何を言っても詫びにもならぬ。
 最後の最後まで、我は母親らしいことを何一つしてやれなかった。

 額に手を当て、そこに刻まれているであろう徴を指でなぞってみる。
 神に愛された証。神に選ばれた証。
 この徴のせいで、死を選択したところで息子の側に行くことすらできない。

 今、もしここに短剣があったら。
 かつての甥のように、額を抉り取る行為に及んでしまいそうな自分が居た。


  ◇  ◇  ◇ 


「そんな顔しても、無駄だよ。もう決めちゃったから」 

 体格の良い衛士は、自分をこれでもかというぐらいに睨んできた。
 油断していたら、今にも襲い掛かってきそうな勢いだ。

「明日から、私の側についてね。詳しいことは衛士長に聞いといて。何か質問はある? って聞いても、どうせあなたは何も言わないんでしょうね」

 ゆっくりとモルに近付き、指先でその顎に触れてみる。背が高いので、懸命に腕を伸ばしてやっと届くという距離だ。 
 モルは、身動きもせずにまだ自分を睨みつけていた。

「どうしたら、声が聞けるのかなあ……」 

 笑みを浮かべて、呟く。今まで一度としてこの男の声を聞いたことがない。
 どうやったらこの口から声を引き出せるのか。いろいろと考えを巡らせるだけで、胸が躍った。
 
「ねえねえ。そんなにすんごい顔をして私を睨んでくるのはなんで? タナッセの後を追おうとしたあなたを引き止めたから? 違うよね?」

 返事は最初から期待していない。相手に構わずに言葉を続けた。

「あんなにタナッセに従順だったのもさ。リリアノの息子だったから、でしょ? タナッセの暴走を止められなかった自分にも腹が立ってるんだろうけど、それよりも、リリアノを悲しませた私を憎んでるんだよね? 違う? ほんと、褒めてあげたいぐらい素晴らしい忠誠心だよね。まるで主人によく躾けられた犬みたい」

 部屋に、自分一人の声だけが響き渡る。一人でしゃべり続けていても、返事がなくても、ちっとも悲しくなかった。憎まれるのも全然平気。無関心よりはよっぽどまし。
 
「でーも、今日からはあなたの主は私。辞任なんて絶対認めないからね。解放されたいんなら、私を狙うぐらいしかないかなあ? いつでも待ってるよ? それはそれで本望だから」

 そう口にして、モルの大きな体に思い切り抱きついた。回した腕に力を込める。
 その途端、ものすごい力で突き飛ばされた。そのまま彼は背中を見せて部屋から去ってしまう。

 ……まだちょっと足りなかったかな。 
 もっともっと憎んでもらうには、どうしたらいいだろう。
 彼が自分を見てくれるには。無視できないくらいの存在になるためには。 
 そう。モルの心に住みついてる、あの人物を消せばいいだけのことだ。

「テエロ? 居るんでしょ? 誰も居ないから出てきてよ。すっごい大事な用があるんだ」

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