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発端<2>

2014.03.04 (Tue)
とある人物の過去捏造話。
ネタバレになるので、登場人物は伏せます。
胸糞な展開になっております。ご注意を


発端<2>


 私の何が足りなかったのだ。どこがあの男に負けていたと言うのだ。
 大した家柄でもない、見てくれだけがまだましな部類に入るような男ではないか。陛下は一体、何を考えているのだ。
 王と言っても所詮は世間知らずの小娘だったというわけか。いくら教育熱心な祖父でも、男を見る目を養うことまでは気が回らなかったに違いない。
 あの男、王配になどちっとも興味は無いと言うような顔をして。裏でこっそりと何を仕掛けていたのやら。油断をしていたわけでは決してなかったが、まさか陛下があんな輩を選ぶとは予想だにしていなかった。
 
 まったく忌々しい。今までの努力が水の泡だ。
 私では駄目で、何故あの男ならいいのか。劣っているところなんて何一つとして思い当たらないというのに。

「そうねえ……。あれだけ陛下、陛下と付き纏っていた間も、相変わらず私のような女を自宅に引きずり込んでいたような節操の無さが原因じゃないのかしら」

 寝台に寝転がった娼婦が、呆れた声を出す。
 杯を片手に、こちらへ向けている視線は軽蔑の意を込められているように見えた。 

「別に珍しい話じゃないだろう。お前もそのおかげで食い扶持にありつけていたのだから、感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはないと思うが」

「そりゃ、貴族の殿方が金で女を買うのは珍しくありませんけどね。その手を付けた娼婦を、自分の奥方の侍従にするような人は滅多に居ないと思うわよ」

「それを拒みもしないお前も相当なものだけどな」

「だってお金はいくらでも欲しいもの。貴方に捨てられた時のために備えておかないと」

 王が婚姻を結んだと発表し、それからすぐに自分も他の女と婚約を決めた。そこそこ権力のある家柄の息子だ。
 王配になれる可能性が失われたのなら、独り身で居続ける理由もなくなる。どうせ結婚するならば、少しでも自分に美味い餌を持ってくる相手でなければならない。そういう点では、なかなか良い相手を見つけたと思う。

 まだ数回しか会ったことはないが、婚約者は美しい女だった。不満があるわけでは決してないが、この娼婦も手放す気などまったくなかった。
 欲しい物は全て手元に置いておきたい。
 人であろうが物であろうが、それは同じことだ。

「でも、まさかこんなに早く結婚を決めてくるとは思わなかったわ。陛下に振られて、自棄にでもなったの?」

「早めに後継ぎを作っておこうと思っただけだ。子供は多いに越したことはない。次の寵愛者がいつ現れるかもわからないし」
 
「これだけのお屋敷に住んで、遊んで暮らせるくらいのお金があって。まだ足りないの? どれだけ強欲なのかしら、貴方って人は」

 王を手に入れることができず、私はこれまで以上に権力や金に執着するようになっていた。
 私を選ばなかったことをあの女に後悔させてやる。無視できないくらいの存在になってやる。
 今に見ていろ。このままでは絶対に済まさない。

 杯を握り締め、一気に酒を煽る。
 上質な酒のはずなのに苦みだけが口に残り、ちっとも美味さを感じられなかった。


  ◇  ◇  ◇  


「ヴァイル様、とおっしゃるのですって。新しい寵愛者様のお名前」

「いやはや……。まさか、またランテから出てくるとはなあ」 

「息子ではなく、甥っ子に徴か。アネキウスも皮肉なことをなさる」

「でも身内なのですから。別に大した違いはないのじゃありませんこと?」

 舞踏会は新たな寵愛者の話題で持ちきりだった。
 数年前に陛下が子を身籠り、もしやその額には徴がと期待して肩すかしを食らった分、今回の継承者誕生は前以上に貴族連中を騒がせ続けていた。

 こうして当たり障りの無い会話をしていても、その腹の底で皆が何を考えているかなどわかったものではない。
 年の近い子をもつ者は、あわよくば、と考えている奴が大多数だろう。
 もちろん、自分も含めてだが。

「そう言えば。メーレ殿のところももうすぐでしたね。体調は? こんなところへ出てきて大丈夫なのですか?」

「ええ、おかげ様で。夫婦共々、体調は問題ありませんよ。一応大事を取って妻は館で休ませておりますが」

 無理をしてつくり笑いを浮かべる。本当は具合が悪くて、今にも倒れそうなのを必死に耐えていた。ここへ来たときから、食べ物の匂いで吐き気を催しっぱなしだ。杯を握ってはいるものの、飲む振りだけをして一度も喉を通していなかった。
 これくらいの不調で舞踏会を欠席するわけにはいかない。ここは大勢の貴族が集まる大事な場だ。妻の具合もあまり良いとは言えなかったが、私が側にいたところで何かできるわけでもなし。
 妻のために雇った腕の良い主治医もずっと付き添っている。何も心配はいらない。私は私のすべきことが山ほどあるのだ。

「医者には来月あたり、と言われているのですが。いやあ、産まれてくるまでは心配で心配で」

「初めてのお子様ですものね。楽しみでございますわねえ」
 
 正直、それほど子の誕生を楽しみにしているわけではなかった。ただ、ちょうど良い時期に授かって幸運だったな、という思いがあるだけだ。 
 うまくいけば新しい徴持ちの配偶者に。
 念には念を入れて、また二人目、三人目と作り続けたほうがいいだろう。
 新たな徴持ちは、どちらの性別を選ぶのか。どう転んでもいいように、万全を期して準備をしておかねば。

 額からにじみ出る脂汗をさりげなく拭いつつ、そんなことを考えながら、あまり中身の無い会話を続けていた。
 
「ええ、あんなにも腹が膨れるものなのだなあ、と驚きましてね。腰が痛くてたまらないと妻が……」

 突然、経験したことのない浮遊感に一瞬だけ包まれる。何が起こったのかわからず、思わず言葉を止めてしまった。
 ……なんだ? これは。
 急に胸のつかえがなくなった。頭の重さも嘘のように消えている。

「……? メーレ殿、どうされました? お加減でも悪いのですか?」

「い、いいえ……。なんでも、ありません。ちょっと酔ってしまったみたいで」

 なんとかその場を誤魔化して、壁際にある椅子に腰を下ろした。
 杯を鼻に近づけて匂いを嗅いでみる。途端に酒の味が口の中に甦り、我慢できずにそれを喉に流し込んだ。酒を美味いと感じたのはいつぶりだろう。香りが口いっぱいに広がり、喉の心地よい熱さを感じて大きく息を吐いた。
 多少の胃のむかつきを感じたが、これは今までのものとは違う。産みの繋がりではなく、空腹からくるものだとしばらくしてからようやく気付いた。  
 
 ……もしや。子が産まれたのだろうか。しかし予定よりも少し早いが。
 ここから退散して、館に戻るべきか。
 いや、急ぐ必要もないだろう。子が逃げるわけでもない。これから嫌という程、一緒に時を過ごすことになるのだし。
 今日は城に一泊して、明日帰ることにしよう。
 妻はまた不機嫌になるかもしれないが構うものか。私だって、ずっと体調が悪くてしんどい思いをしてきたのだ。少しくらい華やかな場所で心から食事や酒を楽しんでも、罰は当たらないだろう。

 気を取り直して、椅子から立ち上がる。食欲が沸いてくる感覚を久しぶりに思い出した。身体が軽やかで、自然と笑みがこぼれてくる。
 またすぐにでも間を置かずに、次の子を作らねばいけないのだ。今のこの時を大いに楽しんでおかないと。

「……今日はずいぶんと楽しそうですのね」

 一人の貴族女性が、意味ありげな笑みで近付いてきた。
 そう。 
 楽しめる時に、楽しんでおくべきだ。
 いつ何が起こるかなんてわからないのだから。

「メーレ様、今夜は館にお戻りになるの?」

「いいえ。ここに泊まるつもりですよ」

「そう……」

  ◇  ◇  ◇


 その日の深夜。寝ていたところを、扉を叩く音で起こされた。
 隣の女が不機嫌な声を出して寝返りを打つ。こんな時間にどこのどいつだ。まさか、この女の恋人ではあるまいな。
 面倒なことに巻き込まれるのは御免だと、しばらく音を放っておいた。しかし訪問者は諦めずに、それでいて遠慮がちに扉を叩き続けている。
 仕方なく溜め息を吐きながら扉を開けると、騒音の原因は自分の館からの使いの者だった。

「あ、あの……。旦那様。奥様からお言付けが……」

「わかっている。産まれたのだろう? こんな時間にわざわざ叩き起こすほどのことか? それとも奥方が愛してやまない夫を引き摺ってでも連れてこいと命令したのか?」

「……その……それが……」

 使いの男が目を伏せて、もごもごと口ごもる。
 苛立ちが頂点に達し、はっきり言えと怒鳴りつけてやった。
 やがて観念したように、男は消え入りそうな声で「死産で、ございました」と呟いた。

「……」

「すぐにお支度を。鹿車の準備も整っておりますので」

「……いや、帰るのは朝になってからでいい」

「……っ! 旦那様……!!」

「私が戻って子が生き返るのか? 私に何ができる? 医者が付いているし、気の利く侍従も側にいるだろう。いいか。これからもうひと眠りするから、また起こしたらただじゃおかないぞ。わかったな」

 乱暴に扉を閉め、きっちりと鍵を掛ける。
 寝台に潜り込むと、また女が不機嫌そうな声を出した。

 目を閉じても、なかなか眠気は襲ってこなかった。言いようの無い苛立ちが次第に募ってきて、ますます目が冴えてしまう。時間を有効利用しない手は無い、と女の肌に触れたが、途端にぴしゃりと手を叩かれた。
 悪態をつき、布を頭まで引き寄せる。

 どうしてこう何もかもうまくいかないのだ。
 一体、私が何をした。
 どこで何を間違えてしまったのだ。
 
 頭の中では、ずっと同じ言葉がぐるぐると回っていた。

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