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発端<4>

2014.03.20 (Thu)
とある人物の過去捏造話。
ネタバレになるので、登場人物は伏せます。
胸糞な展開になっております。ご注意を
完結しました。


発端<4>


「状況は? どんな感じだ?」

「今のところ、疑われることもなく順調に親しくなっているようで」

「どのくらい」

「いろいろと仄めかしているようですが、なかなか良い感触だそうですよ。あのヒゲ、思ったよりも使えますね」

「一人目と違い、育った環境のせいもあるだろう。人を疑うことを知らないのだな、きっと。愚かなことだ」

「本当に父親だと名乗り出るおつもりで?」

「まだ城の連中も、父親の居所を突き止めていない。これを使わない手はあるまい」

「でも、信じますかねえ……。証拠が何もないんですから」

「唯一の身内に突然死なれ、天涯孤独で城には知らない奴らばかり。まだ子どもだし、心細い身の上ならば藁にもすがる気になるだろう。……でも、そうだな。いずれ成長して美しくなったならば、私の後妻にするのも悪くない」

「……旦那様。自分の年、わかってます? どんだけ離れてると思ってるんですか?」

「まあ、とにかく。何もかも二人目の寵愛者殿を実際に手に入れてからだ。とりあえずは例の『メーレ侯爵』を使おう。折を見て、父と子の感動の再会という場を設けようじゃないか」

「では。引き続き、接近し続けるようにとヒゲ野郎に伝えておきます」


  ◇  ◇  ◇


 朝、目が覚めた時からいつにも増して体調が悪かった。お腹の感じがなんとなく違う、と感じた。
 無駄な行為とはわかりつつ、夫に「舞踏会には行かずに、側に居てくれないか」と一応懇願してみた。結果は予想どおりのものだったけれど。
 労わりの言葉ひとつ口にすることなく、夫が城へと向かう。見送りもせずに自分は寝台に寝転がっていたが、お腹の違和感はだんだん痛みへと変わり、夜になる頃には耐え切れない激痛となった。
 
 この地獄のような苦しみは、いったいいつまで続くのか。
 もし自分が死んだらこの子はどうなるのか。

「旦那様に戻られるよう、城に使いを出したほうが……」

「無駄よ……。……あの人は、こんなことでは……帰ってこないわ」

 何としても死ぬわけにはいかない。あんな権力と金しか頭にないような非情な夫に、この子を託すわけにはいかない。
 アネキウス、どうか私たちをお守りください。私とこの子に祝福を……。

「お、奥様……」

 子を取り上げた医者が、かすれた声を出す。側に居た侍従も、小さく悲鳴のような声を出していた。
 まさか。我が子は外の世界を見ることなく、山へ登ってしまったのでは。
 母である私の顔も見ずに、息絶えてしまったのか?

「……どうしたの。何か、あったの……?」

「そ、その。あの……」 

 差し出された我が子に視線を移す。
 普通よりも幾分小さい体つきだが、布に包まれた子の呼吸はしっかりしていた。弱々しい泣き声が時折口から洩れ出る。
 安堵して息をついたのもつかの間、額の鈍く光るものが目に入り、心臓が止まりそうになった。

「……おめでとう、ございます。寵愛者様の、ご誕生でございます……」

 とても祝福とは思えないような声で、医者が告げる。
 子の額には、間違いなく神に愛された徴が刻まれていた。

 どうして。
 どうして私の子が。
 
 体中が絶望感に襲われる。眩暈を感じて、目の前が真っ暗になった。

 ああ、アネキウス、貴女はなんて酷い運命をこの子に与えてしまったのか。
 あんな夫では、子はいいように利用されてしまう。愛情なんて言葉からは程遠い父親なのだ。私が妊娠した時から、いや、結婚した時からそれは嫌というほど思い知らされた。
 自分の思い通りに子を操り、既に居る寵愛者と命がけで争うことさえけしかけるかもしれない。あの人ならば何を企んでもおかしくない。
 そんなことをさせるものか。この子を不幸にさせてなるものか。
 
 重苦しい体に鞭打ち、寝台から身を起こした。
 侍従が慌てて側に駆け寄ってくる。

「あっ、なりません奥様。まだ横になっていないと……」

「あなた……」

「は、はい……?」

「すぐにここから逃げて。心配しないで。しばらくは困らないくらいにお金は持たせます」

「えっ……あの……? そ、それは解雇、ということでしょうか? 奥様、わたし、何か粗相をしてしまったのでしょうか……」

「お願い、あなたにしか頼めないの。この子を連れて、できるだけ早くできるだけ遠くへ。私もあの人と離縁して、なるべく早く後を追うから。それまでの間でいい。必要な物、お金は全て用意させるわ。だから……」

 私の言葉に、侍従も医者も絶句した。だがすぐに意味を理解したのだろう。許されない行為とわかりつつも、それも致し方ない、という表情を二人とも浮かべていた。
 この館の者は、皆が夫の性格を把握している。このままでは子が不幸な目に遭うのは容易に想像がついたに違いない。

「子は……死産だったことにしましょう。大丈夫、他の者はまだ子が産まれたことに気付いていない。今ならまだ間に合うの」

 しかし、侍従は泣きそうな顔で首を振った。
 そして意を決したように口を開く。

「奥様……。私、あの……それはなりません。私は……そんな大事なことを任されて良い立場ではないのです。私、あの、実は……」

「あなたと夫のことは知っています。それを承知の上でお願いしているの」

「……!」

「一生懸命に私のお世話をしてくれていたでしょう? 私の体を労わってくれて、具合が悪い時は寝る間も惜しんで看病してくれた。でも影でこっそり泣いていたのを、何度も見たわ。夜、あなたが罪に苛まれてうなされていたのも知ってる。繰り返し繰り返し、私に詫びの言葉を呟いていたのよ? ……ごめんなさい。本当はもっと早く、あなたをここから出すべきだったのに」

「いいえ!! 私が……私が悪いんです!! 申し訳、ありません……。何度も、辞めようと思いました。でも……」

「あの人がそれを許さなかったのでしょう?」

「……。……信じてください。奥様にお仕えするようになってから、本当にわたし……」

 それ以上、言葉にならずに侍従は泣き崩れた。
 その震える細い肩に手を置き、優しく言葉をかける。

「この子を、レハトをお願い。ほんの少しの間だけだから。引き受けてくれるわね? ……先生も、口裏を合わせてくださいますわね?」

 医者は口を開かずに、静かに頷いた。それを見て大きく息をつき、自分に喝を入れる。

 さあ、ぐずぐずはしていられない。主人は今夜中に戻ることはないだろうが、油断はできない。 
 鹿車の手配。荷造り。侍従と落ち合う場所の打ち合わせ。急な事態に陥った時の、連絡の取り方も考えなければ。不自然に思われないよう、一応、城にも使いをやったほうがいいだろう。夫が帰ってきても、子は既に埋葬したと告げればいい。悲しいことだが、あの男は墓を掘り返すような真似まではしないと断言できる。

 医者に抱かれている我が子を見つめた。まだ目が開いておらず、耳を近づけないとわからないくらいに細い泣き声をあげている。

「……抱いて、さしあげないのですか?」

「別れが、辛くなるから……。大丈夫。すぐに一緒に暮らせるようになるわ。そうしたら一日中抱いて、頭を撫でてあげるの」

 視界が涙でぼやけてくる。でも泣いている場合なんかじゃない。しっかりしなければ。夫が戻る前に考えなきゃいけないこと、やらなければいけないことが山ほどあるのだ。

 どうか。どうかアネキウスのご加護がありますように。
 この子をお守りください。

 祈るように子を見つめ、そして涙がこぼれる前に天井を見上げた。 
 

  ◇  ◇  ◇


 捕らえた二人目の寵愛者は女を選んだ。
 まあ、性別などはどうでもいい。額に徴さえあればそれでいいのだ。何を思って女を選択したのか。別に知りたいとも思わない。

 椅子に拘束されている寵愛者は、ありったけの憎悪を込めて自分を睨みつけていた。
 その表情が、かつて妻だった女の顔と重なる。

 以前はあわよくば後妻に、などと思っていたが。どういう運命のいたずらか、寵愛者の顔は日に日にあの女とそっくりになってきた。まるで元妻が乗り移り、自分に復讐を企んでいるかのような錯覚にさえ陥る。
 気味が悪い。
 顔を見る度に、不快感が募る。
 
 こちらの形勢があまり思わしくないことも、私の苛立ちを助長させていた。
 
「もう命乞いでもするしかないんじゃないの? お父さん。まあ、ヴァイルが許してくれるとはとても思えないけど」

 寵愛者が、馬鹿にしたような口ぶりでせせら笑う。
 声まで元妻に似ているような気がする。父と偽り接してきたが、平常心を装って顔を合わせるのにも最近はかなりの意志を要した。 

「……まだ負けたわけではない」

「じゃあ巻き込まれないうちに、私だけでも命乞いしてくるよ。だから、この縄ほどいて」

「私がお前の言うことなど聞くと思っているのか?」

「だよね。だから、私もいろいろ考えたんだ。で、やっぱりこうするしかないかなって」

 背後に気配を感じ、振り返る。
 何か光るものが目の前を掠った。その光の正体を掴む前に羽交い絞めにされ、首に冷たいものを押しつけられる。
 叫ぶ前に、その冷たい何かが横に引かれるのを感じた。

 床に倒れた私が最期に見たのは、ヒゲをはやした部下が無表情で私を見下ろしている姿だった。

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