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贖罪<9>

2014.06.30 (Mon)
タナッセ、その後のお話。

なんかもう今回いろいろとヒドイです。多少エロ入ってますので苦手な方はお気を付けください。

そういうつもりで書いてはいませんが、読む人によっては「アッー」な話に見えるかもしれません。同性愛が極端に駄目な方はご注意を。
いつものように胸糞展開です。タナッセ苦難の連続。酷い目に遭いまくりで可哀想な殿下を見たくない!という方もご注意ください。



贖罪<9>


 扉が開く音で目を覚ます。横たわったまま顔を傾けると、暗闇の中、何者かがこちらに近付いてくるのが見えた。

「先生、ご飯」

 どん、と何かを卓に叩きつけた音が耳に届く。あんなに乱暴に置いたら、器から食事がこぼれてしまったのではないだろうか。
 寝台側の明かりが灯され、膨れっ面の孫娘の顔が暗闇に浮かび上がった。モルのような迫力こそないものの、暗い部屋でいきなりそんな顔を見せつけられる身にもなって欲しい。身体の調子が悪くなければ、もしかしたら悲鳴を上げてしまっていたかもしれない。

「……モルは?」

「見回りの当番。先生の様子を見てきてくれって頼まれたの」

「ああ……そうだったな。ありがとう、食事は後でいただく」

 役目を終えてすぐに出て行くかと思いきや、孫娘は椅子を移動させて寝台の側に腰を下ろす。そして腕を伸ばして、私の額に触れてきた。

「熱は下がったみたいね。丈夫で何よりですこと」

「倒れても、もう面倒は見ないのではなかったのか?」

「私だって先生の面倒なんかみたくないよ。でもおじいちゃんは怒るし、モルさんに頼まれたら嫌とは言えないでしょー?」

 腕を組んで孫娘がぷりぷりと悪態を吐く。そんな表情を見て思わず苦笑してしまい、さらに孫娘の頬が大きく膨らんだ。 
 
 魔術師の忠告を忘れていたわけではないが、畑の修復に根を詰め過ぎてしまったらしい。数日前から、私は熱を出して起き上がれない日が続いていた。
 まったく情けない。少し無理をすると、すぐにこうだ。
 いや、それとも。今までの疲労が、ここにきて一気に表面化したのだろうか。何度か「仕事」をこなすたびに、眩暈を起こすほどの疲労は感じられなくなってきていた。手際が良くなってきたせいか、と思っていたが、身体が悲鳴を上げていることにも気付かないくらい消耗していたとも考えられる。
 こんなにも努力を続けているというのに、村の状態は相変わらずだった。保管されている金のおかげでなんとか皆の生活が保たれてはいるものの、村人たちは絶えず「やはり、土地を移ったほうが」という話し合いを続けていた。

 私は、いつまでこんなことを続けるつもりなのだろうか。
 「仕事」は、本当に村のためになっているのか。下手に手を差し伸べたせいで、村人たちに移住の決断を鈍らせてしまっているだけなのでは。
 毎日毎日、葛藤し続けた。葛藤しながらも、修復作業を止めることはできなかった。
 今回の金が尽きたら。次こそは「仕事」を断わろう。どこかで見切りをつけないと、いつまでもずるずると同じことの繰り返しだ。
 そう思いつつも、

「あの魔術師が現れても、私はきっぱりと断ることができるのだろうか」
「見切りをつける、ということは、この村を見捨てるということになるのではないだろうか」

と、意思の弱い私はぐらぐらと決心が揺らぐ。
 そんな風に悩み続けていたのも、熱を出して寝込んでしまった原因の一つかもしれない。

「……ねえ、先生」

 孫娘の声で我に返る。彼女はまだ不機嫌な顔をこれでもかと言うくらいに剥き出しにしていた。上目遣いで私を睨んでいる。

「なんだ」

「……最近、よく出かけてるみたいだけど。どこ行ってるの?」

「前にも言っただろう。知り合いのところだ」

 嘘をつくのは心苦しいが、まさか本当のことを言うわけにもいかない。
 しかし、私の言葉に納得していない様子の孫娘は、尚も追及の手を緩めなかった。

「知り合いって、どんな? ……もしかして、昔の恋人に会いに行ってる、とか?」

 思いもよらなかった問いかけに言葉を失う。
 何を言い出すのかと思えば。いったい、何をどうしたらそんな考えに辿り着くのか。
 呆れて黙り込む私に構わず、孫娘は焦ったように言葉を続ける。

「だ、だって、だってだって……。モルさんも何も知らないって言うし、モルさんにも隠したいような人なのかなって……。それに、いっつも帰ってきたら疲れてるみたいだし、そんなに遠出してまで会いたい人なのかなって思って……」

「違う。ただの知り合いだ」

「でも……でも、あたし聞いたんだもん……」

 そう呟き、孫娘は俯いて沈黙してしまった。しばらく待つも、相手はなかなか続きを語ろうとしない。
 焦れったくなり、こちらから話を促す。

「聞いたとは? 何をだ」

「……先生が、指輪、買ってたって」

 誰かに見られていたのか。それとも、お喋りな行商人が口を滑らせたのか。
 些細な行為が、そんな誤解を生んでいるとは予想もしていなかった。
 指輪を買っていたから。
 最近、よく出歩いているから。
 そんなことで、私に恋人がいるのではと結論づける短絡的な思考に、再び呆気に取られてしまう。

「……でも先生、指輪つけてないでしょう? だから、その、会いに行ってる恋人にあげたと思ったんだけど。違うの?」

「だから、私に恋人などいないと言っているだろうが。何度言えばわかるのだ」

「じゃあどうして指輪なんて買ったの? つけもしない指輪よりも、他に使えるものを買えばいいのに」

 執拗に問い詰めてくる孫娘に、だんだんと苛立ちが募ってくる。身体の調子が良くないことも加わり、私は少しきつい口調で言葉を返してしまっていた。

「いったい、さっきから何だと言うのだ、お前は。たかが指輪に、何故こんなにもうるさく言われねばならんのか、さっぱり理解できん。あれはだな、行商人に勧められて仕方なく購入したのであって、使い道もないから、今もそこの小物入れに……」

 孫娘の様子がおかしいことに気付き、私は途中で言葉を切らざるを得なかった。
 絶望したような、今にも泣き出しそうな顔。ぼんやりとした薄明かりでも、彼女の身体が硬直していることがはっきりとわかった。
 鈍感な私は、そこでようやく理解する。
 彼女が何を期待していたのか。何故こんなにも指輪の行方を気にしているのか、その理由を。

 自分の無神経さを詫びなければ、と身体を起こして孫娘の肩へと腕を伸ばす。しかし、それはぴしゃりと撥ね退けられてしまい、孫娘は唇を噛んで再び俯いてしまった。
 しばらくの間、気まずい雰囲気が部屋を包み込む。
 どうしたものか。こういうことの経験に疎い私は、かける言葉が見つからない。

 慕われている、とは思っていたが、そんな特別な思いを寄せられていたとは。言われてみれば、思い当たる言動が多々あった気がする。
 俯いている孫娘の肩が震えていた。声を押し殺して泣いているのかもしれない。
 ますますどうしてよいかわからなくなり、自分でも愚かしいほどにうろたえてしまう。やがて大きな溜め息が聞こえ、孫娘が言葉を紡ぎ始めた。

「……そうだよ。もしかしたらって、あたし期待してた。もしかしたら、あたしに買ってくれたんじゃないかって。そんなわけないのに、先生はそんなつもり全然ないってわかってるのに。馬鹿みたいでしょ。あたしだってそう思うもん」

「……」

「だって、先生優しいんだもん! こんなあたしにも、すごく優しくしてくれるんだもん!! うっかり変な期待しちゃったって仕方ないでしょう!? ……あたしの気持ちにも、とっくに気付いてると思ったのに……ここまで鈍いとは思わなかったよ」

 なんと罵られても仕方がない。決してそんなつもりではなかった、普通に接していたつもりだった、とは言い訳にもならないだろう。そんなことを言ってしまえば、火に油を注ぐ結果になるのは目に見えている。

「……返す言葉も無い。すまなかった、私は……」

 ぎしり、と古い寝台が軋んだ音を立てた。いつの間にか、孫娘は椅子から腰を浮かせ、寝台に手をついて顔を近付けている。
 涙が溜まっている瞳が、まっすぐにこちらを見つめていた。その瞳からは既に怒りは見られない。

「……謝ったりしないでよ。余計に惨めになる」

「……」

「でも、恋人がいるにしては様子が変だと思ってたんだ。いつも元気ないし。……前よりも深刻な悩みっぽいよね。いったい何があったの? よく家を空けることと、何か関係あるの?」

 こちらの様子を窺う孫娘から、目を逸らしてしまいたい衝動に駆られた。だが今そんなことをしたら、何かを隠していると言わんばかりの態度になってしまう。ぐっと堪え、かろうじて冷静を装う。

「……別に私は、何も……」

「隠してもわかるよ。ずっと見てきたんだから」

 彼女の手がゆっくりと動き、私の頬に軽く触れた。話を逸らそうにも何故か私の口は動いてくれない。ただ、孫娘を見つめ返すことしかできなかった。

「目がね、違うの。人って、生活が落ち着いてくると目が大きくなるんだって。前におじいちゃんが言ってた」

「……」

「みんなに文字を教えてる先生を見てて、『ああ、ほんとだなあ』って思ってたんだ。でも……、今の先生の目は、ここに来た頃の目に戻ってる」 

 彼女は、僅かに顔を歪ませて悲しげに語った。こんなにも長い時間、こんなにも近くで、人と視線を交わし続けることなど初めての経験かもしれない。
 熱が、また上がってきた気がする。頭に霞がかかったように考えが纏まらない。
 違う、熱のせいだけじゃない。最近の私は、何もかも投げやりになって思考を放棄してしまうことが多くなってしまっていた。

 許されない術を使って何が悪い。
 いや、駄目だ。このままだと、今に取り返しのつかないことになる。もし誰かに知られてしまったらどうするのか。
 しかし他に方法がないのだ。私だって、何も好き好んでこんなことを続けているわけじゃない。
 それは本当か? 心の底から、嘘偽りなくそれが本当の気持ちだと胸を張って言えるのか?
 
 考えても考えても答えなど出やしない。
 もう、全てがどうでもいい。
 なるようになればいい。
 そんな風に終いには自暴自棄になってしまい、そしてまたぐるぐると同じ問いを自分の中で繰り返す。
 
 なるほど。確かに、この村に来る前の思考に近いかもしれないな、と思った。

「……あたしじゃ慰めにならないかなあ」

 ぽつりと呟いた彼女の唇を、ぼんやり見つめている自分がいた。返事を口にする前に、彼女の唇が私の唇を塞ぐ。
 拒むこともできたはずなのに。
 彼女のことを考えれば、無理にでも引き剥がすべきだとわかっていたのに。
 私は抗いもせずに、彼女を受け止めた。

 私の動きに反応して寝台がまたぎしりと軋む。
 耳障りな不愉快な音は、心の悲鳴にも私には聞こえた。


  ◇  ◇  ◇

  
 首筋に舌を這わせる。女性特有の、甘い体臭がふわりと漂ってきた。
 強張っていた彼女の身体が次第に緩んでいく。微かな吐息が耳をくすぐり、それに応えるように更に私は唇を動かす。
 彼女の胸元の紐に手を掛けた時、

「明かり……」

と、懇願する小さな声が聞こえた。息を吹きかけて火を消し、部屋に暗闇を呼び寄せる。
 
 手探りで再び彼女の身体に触れる。暗くなって安心したのか、彼女の動きが幾らか滑らかになった気がした。私の背中に腕を回し、もう片方の手で優しく髪を撫で上げてくる。
 胸の膨らみに手を伸ばすと、切なげな溜め息まじりの声が彼女の口から漏れた。手の動きを止めないまま唇を重ねる。相手も力強く抱き返してきて、彼女の細い指が私の背中に爪を立てた。唇と唇の間から、どちらの息かわからない乱れた空気が絶えず吐き出される。

 結局、私は欲望にとことん弱い人間なのだ。それがよくわかった。年月を重ねたところで、何も成長していない。
 魔術師の誘いを断ることも出来ず。
 人から感謝される誘惑にも抗えず。
 そして、孫娘の好意に甘え、こうして一時の快楽に溺れようとしている。

 もちろん、一夜限りの戯れになどするつもりはなかった。私はそこまで非道な人間ではない。
 だが。身体を重ねるほどに彼女を好きなのか、と問われると答えに詰まる。いくらなんでも不誠実すぎるのでは、とも考えたが、相手も求めているのだからという狡い言い訳で、私は自分を誤魔化して行為に没頭した。

 自分の衣服を乱暴に脱ぎ捨て、彼女の服の紐に指を絡ませる。しかし急に手を握られ、その動きを阻まれた。
 戸惑いつつも、相手の要望通りに紐から手を離す。と、同時に、やはり少し性急すぎたか、と心のどこかで安堵している自分に気付いた。どうやら私は、意気地のないところもまるで昔と変わらないらしい。

「……どうした。やはり止めておくか?」

 彼女の髪に触れて問いかけると、戸惑いがちな声が暗闇から聞こえてきた。

「違うの。あの……」

「なんだ?」

「……先生の、名前。教えて」

 髪を撫でつけていた手が思わず止まる。私の動揺を感じ取ったのか、彼女が慌てて言葉を付け足した。

「あ、あの。今だけ。今だけだから。朝には忘れるから。……お願い。先生、じゃなくて、本当の名前で呼びたい……」

 最後のほうは、もうほとんど聞き取るのも困難なくらい小さな声だった。かなりの勇気を振り絞って言葉を告げたのかもしれない。それを想像すると、愛おしい気持ちが途端に胸を埋め尽くし、自分でも意外なほど抵抗なく返事を口にしていた。

「……タナッセ、だ」

 紐に手を掛けても、今度は彼女は抵抗しなかった。服を脱がせながら、頬に、瞼に、額に口づけを落とす。
 彼女の反応の一つ一つが嬉しかった。指に吸い付いてくるきめ細やかな肌、そして縋りついてくる小さな身体の持ち主に、事に及ぶ前とは違う愛情を確かに私は感じていた。

「タナッセ……」

 彼女の口から、その言葉が出るまでは。

 
  ◇  ◇  ◇


「タナッセ」

 私に微笑みかける顔。

「タナッセ」

 拗ねたような、しかめ面。

「タナッセ」

 どうして、こんなに時が経っても覚えているのか。忘れることができないのか。
 忘れたいのに。
 忘れなければならないのに。
 
 ああ、そうか。

 夢に出てきていたからだ。
 城を離れてからも、何度も何度も私の夢に出てきたから。
 だからこんなにも鮮明に思い出してしまうのだ。

 今はもう男性となって、姿も声も、私の知っているものとは違っているはずなのに。
 あいつは、成人になる前の姿で何度も私の夢に現れた。
 
 私に愛を告げた、あの時の姿で。
 

  ◇  ◇  ◇


 暗闇なのが余計に良くなかったのだろう。視界が遮られた状態は必要以上に想像を働かせ、私の名を呼ぶ孫娘の声が、かつてのレハトの声と重なって聞こえた。普段は似ているなどと一度も思ったことがないのに。

 胃液が逆流しそうになる。額から、脂汗が滲み出た。
 堪え切れなくなり、口を押さえて勢いよく身体を起こす。すぐさま孫娘と距離を置いた。
 尋常ではない様子に気付いたらしく、孫娘も身体を起こした物音が耳に届く。ぎしり、と響いた寝台の音が、更に私の神経を逆撫でした。

「……? どうしたの?」

「い、いや……」

 そう答えるのが精一杯だった。少しでも長く言葉を発すると、胃の中の物を戻してしまいそうだ。
 突然、部屋に明かりが灯される。不審に思った孫娘が火を付けたのだろう。
 息を乱し、蹲っている私を見て、驚いた孫娘が衣服を整えつつ近付いてくる。その気配を察し、咄嗟に後ずさってしまった。

「だ、大丈夫……!? 顔が真っ青……」

「すまない……。まだ調子が良くないみたいだ。……少し、一人にしてくれないか」

「でも」

「頼む……。横になっていれば、治る……」

 耐え切れず、その場に横たわる。
 襲い来る吐き気と闘う私は、孫娘を気遣うことすらできなかった。

「タナッセ」

「タナッセ」

「タナッセ」

 それは、孫娘が私に呼び掛けた声だったのか。
 夢の中でのレハトの声だったのか。
 わからないまま声は頭の中で鳴り響き、私はただひたすら、叫び出してしまいたい衝動に抗い続けた。

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