スポンサーサイト

--.--.-- (--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

贖罪<12>

2014.07.26 (Sat)
タナッセ、その後のお話。

そういうつもりで書いてはいませんが、読む人によっては「アッー」な話に見えるかもしれません。同性愛が極端に駄目な方はご注意を。いつものように胸糞展開です。タナッセ苦難の連続。酷い目に遭いまくりで可哀想な殿下を見たくない!という方もご注意ください。

完結しました。


贖罪<12>


 身の丈に合わない力を手に入れると、碌なことにならない。
 以前、私にそんなことを言ったのは誰だっただろう。母上だったような、長く会っていない父親だったような気もする。
 
 あの魔術師を少しでも信用した私が馬鹿だった。母上は私が殺したも同然だ。
 甘い言葉に耳を貸さずに、城に行っていればこんなことにはならなかったのに。
 レハトに会いたくないだと? 罵られるのが怖いだと?
 今の状況に比べれば、それくらいなんだと言うのだ。楽な方へ楽な方へと逃げ続けた結果がこれだ。何度も同じ過ちを繰り返して、周りの人間を巻き込んで、こうしてまた取り返しのつかない事態を引き起こす。
 
 胸の底から、説明のできない何かが込み上げて来る。喉が押し潰される感覚。それが繰り返し押し寄せてきて、でも涙は出てこなかった。私に涙を流す資格などない。そんな思いが心のどこかにあったからかもしれない。

 休憩も取らずに、ただひたすら村へと戻る道を歩き続けた。
 村に辿り着くまで、ここからどのくらいかかってしまうのか。

 歩きながら頭に思い浮かぶのは母の最期の姿ばかりだった。
 椅子にもたれている彼女の頬は、まだ温かかった。
 あんなに近くで母の顔を見たのは、いつぶりのことだっただろう。こちらから母に触れることなど成人してから一度もなかった気がする。
 護衛らの慌てた声が部屋に近付いてきて、一瞬の躊躇の後、私は露台から飛び出した。眠っているように目を閉じている母を残して。私を欺いた魔術師をそのままにして。
 留まって、何があったのかを語るべきだったかもしれない。到底、信じてはもらえないだろうが。
 だが、母の言葉を思い出して私は部屋から去ることを選択した。まずはモルの元に戻らねば。その時はそう思っていた。

 戻ったところでどうなるのか。モルはもう、助からない。今から城に向かっても手遅れだ。
 ずっと私に付いてくれた従順な護衛を看取ることすら出来ず。
 突然旅立ってしまった母に付き添うこともせず。
 私はいったい何をしているのだろう。この期に及んで、まだ自分が楽になる方法を探しているのだろうか。

 それでも、私は足を前に出し続けた。
 足元がふわふわとして地面を踏み締めている感覚が無い。魔術師に負わされた傷も、固まった血がひきつれるだけで痛みは感じなかった。時折、すれ違う人が怪訝な顔で私を見る。傍から見れば病人のような足取りだったかもしれない。

「この国の、いっちばん偉い人」

 魔術師の言葉が、ふと頭を過る。
 確かに、私はレハトにそれくらい恨まれていてもおかしくはない。あの時は咄嗟に否定の言葉を口にしてしまったが、時間が経てば経つほど、疑いようもない事実な気がしてきた。
 レハトは私の居所など、疾うの昔から把握していたのではないだろうか。
 そうして、私に復讐する機会を虎視眈眈と狙っていたのでは。

「まだまだ辛い目にたくさん遭ってもらわなきゃ」

 耳元で、あの声が再び聞こえた気がした。 


  ◇  ◇  ◇


 村に着いた途端、大勢の人が奇声を喚き散らして私に駆け寄ってきた。皆が同時に騒ぐので何を言っているのかが全く聞きとれない。
 ぐいぐいと背中を押され、腕を引っ張られ、突き飛ばされるように借家に放り込まれる。そこで目に飛び込んできたのは、寝台から身を起こしているモルの姿だった。

「も、モル……。え?」

 何が起きているのか理解ができず、呆然と立ち竦む。そこへ、目が覚める強烈な一撃が私の頬にぶち込まれた。

「先生、どこ行ってたのよ!! モルさん放っておいて、何考えてんの!?」

 踏み留まる体力が残っているはずもない。衝撃に耐え切れず、私は床に尻餅をついた。間髪容れずに孫娘が私の胸倉を掴んで立ち上がらせる。

「ほら!! どこで何してたか言ってみなさいよ!!」

「いや、そ、の……」

「呆けてる場合じゃないでしょう!? モルさんに謝りなさいよ!! モルさんがいいって言っても、あたしが許さないからね!!」

 私の頭が、これでもかと言うくらい寝台に押し付けられる。まあまあ落ち着いて、と村人たちが孫娘を引き離し、私はようやく顔を上げることができた。
 モルが、私を見ている。
 目を開けて、私の顔を見ている。

 道中、ずっと出てこなかった涙が、その時になってやっと私の目から零れ落ちた。


  ◇  ◇  ◇ 


 前に、先生が熱を出して寝込んだことがあったでしょう? そう、あたしが怒って、びっしょびしょに濡れた布を先生に叩きつけた時のこと。あの後、夜中にね。こっそり様子を見に来て聞いちゃったんだ。先生がモルさんと話してるの。

「城に連絡を取るのは許さんぞ」

 先生の言葉を聞いて、ああ、やっぱり普通の人じゃなかったんだなあって。物腰とか、喋り方とか。前から薄々は感じてたけど。何か事情があって、お城から来た人だったんだ、って。
 
 それで、先生がモルさんを置いて急に居なくなっちゃったから、きっと城に向かったんだと思ったの。モルさんのために、お城に薬を譲ってもらいに行ったんだって。でもおじいちゃんが、「ちょっと様子がおかしかった」なんて言うし。先生一人で大丈夫か心配になって。あたしも急いで後を追い駆けた。
 お医者様にモルさんの詳しい症状を紙に書いてもらって、それをお城のお医者様に見せたほうが確実だとも思ったし。
 大丈夫だよ、村の人は何も知らない。おじいちゃんにだけ事情を話して、モルさんの看病をお願いしたから。

 急がなきゃ急がなきゃって、死に物狂いでお城に向かったの。でも途中で先生にも会えずに、お城に着いちゃって。
 もしかしたら先に着いてるのかもしれない。ぐずぐずしてたらモルさんが手遅れになっちゃう。
 すっごい怖かったけど、勇気を出して門番の人に訊いてみたの。
 そうしたら、門番の人、目を丸くして何度も何度もあたしに訊き返してきた。


  ◇  ◇  ◇


「……もう一回、言ってみて? なんて名前の人だって?」

「だから。タナッセっていう人が、ここに来てませんか。あたしより先に出たから、もう着いてるはずなんです」

「タナッセって……。いや、あの方は、もうここには……」

「来てないの!? うそ!! なんで!?」

「なんでって言われても……」 

「だって、モルさんが、やだどうしよう。あたし一人じゃ、もう、どうしたら。モルさんが、急がなきゃいけないのに、モルさんが死んじゃう。ねえ、どうしよう!! なんで先生来てないの!? どこで何してるのよ!! やだあ!! どうしよう!! モルさんが、モルさん……」

「……誰だって?」
 
「も、モルさんが……死にそうなの。薬が、高くて、苦しそうで、無いと、死んじゃう、ううう、先生のばかぁ……」

「モルさんって、身体が大きくて、無口な?」

「そ、そう。モルさんが、病気で、で、でも薬が、傷があると、かかる病気で、お医者様が、急いでて、あたし」

「おいフェルツ。なんだ、その子? お前の彼女か? 仕事中に別れ話か? 女の子を泣かせるんじゃないよ、可哀想に」

「……ちょっと頼む。この子見てて」

「えっ、ちょっ……」


  ◇  ◇  ◇


 それから、すっごい時間がかかったんだけど。何人もの人に交代で案内されて、城の中の小さい部屋に通されたの。
 椅子に座って、緊張して固まってた。誰も何も説明してくれなくて、ただここで待ってろってだけ言われて。
 あたしの話を聞いてくれた門番のお兄さんは、どっか行っちゃって姿を見せないし。お兄さんと同じ服の人はたくさん居たけど、みんな怖そうな顔してあたしを睨んでるし。
 美味しそうなお茶とかお菓子を出されても、手をつける余裕もなかった。

 しばらくしてから、ほっそりした男の人と、目つきの鋭い男の人、二人が部屋に入ってきたの。

「タナッセと知り合いなんだね? モルが死にそうって、どういうことなのかな? 詳しく聞かせて?」

 ほっそりした男の人が、優しくあたしに訊いてきて。その人、顔がすごい白かった。腕も足も折れちゃいそうなくらいに細かった。おでこにね、変わった痣みたいのがあるの。周りの人の態度から、その男の人が偉い立場の人なんだっていうのはわかった。手を軽く払っただけでこっちを睨んでた怖い顔の人たちがみんな一斉に部屋を出て行ったんだもの。

 詳しく聞かせてって言われても、あたし急いでたし、怖かったし、うまく喋れなくて。でもその人、辛抱強く話を聞いてくれた。少しだけ微笑んで、「ちゃんと聞いてるよ、焦らないで」って言ってくれて。後ろに控えてた目つきの鋭い人は、かなり苛々してたみたいだけど。

「わかった、薬が必要なんだね」

 あたしがお医者様から預かった紙を恐る恐る出したら、痣の人が目つきの悪い人を呼んだの。
 その人、むっつりしたままあたしから紙を受け取った。で、ずーっと紙を見たまま黙り込んでるの。しびれを切らして、痣の人が少し強めに、

「テエロ」

って、また呼んだら、テエロって呼ばれた人がすっごい大きい溜め息をついた。

「……陛下。先ほど、何度も何度も申しましたように。この薬に使われる材料はとても貴重なもので……」

「いいから。渡してあげて」

 陛下ってことは王様ってことで。
 この痣の人、この国の王様なんだってわかってびっくりしちゃった。
 そうだった、おでこに痣がある人が王様になるんだって前におじいちゃんが言ってた。あたし、その時になってやっと思い出したの。
 目の前に居る人が王様だなんて、あたしが王様と直に喋ってるなんてとても信じられなかった。目をまん丸にして驚いてたら、テエロって人が、さっきよりおっきい溜め息をまたついたの。

「たかが元衛士一人のために、命を投げ出すとでも仰るのですか。この際ですから、正直に言わせていただきますがね。私は貴方が自ら死期を早めようがどうなろうが、知ったこっちゃありません。ですが、貴方が亡くなられることで、ここの医士、皆が責任を問われるんですよ」

「……僕が死んでも、誰も責任を問われないように手を尽くしておくから」

「どちらにせよ、管理を任されている者として、貴重な薬を見ず知らずの者に渡すことなどに同意はできません」

「……」

「それに。その元衛士、前王陛下殺害に加担していたかもしれないじゃありませんか。元殿下の護衛だったのでしょう? 陛下は罪人に貴重な薬を融通すると仰るのですか。放っておけば、処刑する手間も省けるというものではありませんか?」

「あれはタナッセがやったんじゃない!! タナッセはそんなことしない!! ……まだ調査中の段階だ。滅多なことは口にするな」

 あたしにはよくわからないことばかりを、結構長く二人は言い合ってた。
 これがないと陛下の薬が、とか。
 償うためには仕方がない、とか。
 これぐらいしか僕にはできることがない、とか。
 
 そのうちに、とうとうテエロっていう人が折れて、「どうなっても知りませんからね」って捨て台詞を残して部屋を出て行った。

「すぐに薬を用意させるから。鹿車も。受け取ったら、急いで村に戻ってモルに飲ませてあげて。処置の仕方も詳しく紙に書かせるね」

 王様があたしに向かって、静かに微笑んでそう言ったの。
 薬が貰える。それがわかって、あたし飛び上がりそうなくらい嬉しかった。これでモルさんが助かる。何が何だかわからないことだらけだけど、とりあえず薬は貰えるんだ。
 ここに来てみてよかった。王様も優しそうな人で、本当によかった。

 慌ててお礼を言おうとしたんだけど、突然、手をぎゅって握られて。両手でしっかり。王様が、あたしの手を。
 だって、王様だよ? この国の王様が、あたしの手をぎゅーって握ってるんだよ? 誰に言っても信じてくれないよ、こんなこと。
 それで、こっちをまっすぐに見つめて、王様が悲しそうに言ったんだ。

「貴女からタナッセに伝えて。直接会って言えないのは、卑怯だってわかってるんだけど」


  ◇  ◇  ◇


「……なんと、言っていたんだ」

 話を長く聞き続けて黙っていたせいか、発した声が自分のものではないように聞こえた。 
 孫娘が私を見つめて、ゆっくりと口を開く。
 
「本当にごめん、って。ずっとずっと、どうしても謝りたかったって」

 王様、泣いてた。と、孫娘は言葉を付け加えて私に言った。


  ◇  ◇  ◇


 モルが回復してからも、私たちはしばらく村に留まった。前王陛下の殺害に元殿下が関わっているという噂が広まっている以上、城から衛士が私を捕えにやってくると思ったからだ。逃げて身を隠す必要はない。事情を訊かれたら、私は何もかも包み隠さずに話すつもりでいた。
 しかし待てど暮らせど、城からは誰もやってこなかった。

「タナッセはそんなことしない」

 孫娘が話していた内容を思い出す。もしかしたら、レハトが私を庇ってくれていたのかもしれない。
 そうしているうちに、とある貴族が母の暗殺を企んでいたことが明らかになり、城に連行されたという話を耳にする。恐らく、その貴族が魔術師の雇い主に違いない。
 
 村ではいつもどおりの平穏な日々が続いていた。畑も以前と同じとまではいかないが、かなり持ち直してきた、と聞いたのがつい先日のこと。

「はい、先生。味見してみてよ。やっとここまで育つようになってきたんだ」

 村人が、収穫した野菜を差し出してくる。瑞々しい採れたての野菜は、見かけこそ貧弱なものの、中身がずっしりと詰まっているように感じられる重さがあった。

「俺がアネキウスに毎日お祈りしてたおかげかねえ」

「違うだろ。やっぱり新しい肥料が……」

「先生が文字を教えてくれたおかげで、あちこちの資料を参考にできたんだ。本当に助かったよ」

 私の地道な修復作業がやっと成果を見せ始めたのか。それとも、村人たちの努力が実を結んだのか。今となってはもうわからない。とにかく、私が魔術を使う必要がなくなったことだけは確かだ。
 たった一つのことを除いては。

「……明日、出発するんだって?」

「寂しくなるねえ」

「またいつでも寄ってくれよ。ご馳走たくさん作っておくからさ」

 モルと話し合って、この村を出て行くことに決めた。行く先は決めていない。一つだけやり残したことを果たしてから、それからまた当ての無い旅を続けることになるのだろう。優しい村人たちの言葉に後ろ髪を引かれる思いがしたが、このまま村にずっと留まるわけにはいかなかった。
 それはもちろん、孫娘のことがあったからだ。
 
 村を去ると告げても、孫娘は何も言わなかった。何も言わない代わりに、また盛大な平手打ちを私にかましてきた。
 脳が揺さぶられる激しい衝撃。眩暈がしてふらついたが、なんとか言葉を返す。

「……いくらでも、気の済むまで叩いてくれ。今日は、顔が別人になるくらいまで腫れるのを覚悟で来た」

「あたしの手のほうが痛くなるからやだ」

「何を言っても、言い訳にしかならない。本当にすまなかった」

「好きな人がいるのに、あんなことするなんてサイテー。先生、ほんっとサイテー」

「……返す言葉もない」

「申し訳ないと思ってるなら、先生の好きな人がどんな人か教えてよ。綺麗な人? どんな声?」

 根掘り葉掘り聞かれても、答えることができるはずもない。
 黙り込んでいると、先ほどより更に強烈な平手打ちがもう一発飛んできた。

「ここを出たら、その人に会いに行くの?」

「……いや。このままずっと、私の一方的な片思いだ」

 二度と会うことは叶わないから。
 成人前のレハトは、もうどこにも居ない。
 どこを探しても居ない。

「なにそれ。意気地なし。意気地の無い男の人って、あたし大嫌い。先生がどっかのお偉い人だろうが何だろうが全然気にしないけど、意気地の無い人だけはまっぴらごめん」

 最後にまた頬を叩かれ、孫娘は部屋に閉じこもってしまった。
 村を出る日も、とうとう彼女は顔を見せなかった。
 

  ◇  ◇  ◇


 茂みを掻き分け、足音を立てずに慎重に進む。ここに辿り着くまではうまく行った。帰りも同じように何とかなると良いのだが。
 長年、暮らしていた場所だ。人気のないところもだいたいは見当がつく。
 久々に目にする懐かしい風景に、胸が詰まりそうになった。どこも変わっていない。私が記憶している風景のままだ。
 しかし思い出に浸っている暇はなかった。今誰かに見付かれば、間違いなく私たちは不審者扱いされてしまう。早くやるべきことをやってしまわねば。

 目当ての場所に到着し、高い高い建物を見上げると窓から薄く明かりが漏れていた。
 部屋の主は、何をしているのか。もう眠りについてしまっているのか。

 身体のほうは大丈夫なのだろうか。
 貴重な薬をモルに渡してしまったことで、さらに病状が悪化してしまったのでは。
 
 折りたたんだ手紙と、指輪の入った紙包みを取り出し、掌に乗せる。少し集中するだけで、それらは音も無くふわりと宙に浮いた。横目で隣の様子を窺うと、モルが僅かに驚いた表情を浮かべている。苦笑しつつ、浮いている物体に更に念を込めた。見えない糸に吊られているように、手紙と紙包みが勢いよく舞い上がり、そしてそれらは窓に軽く当たってから露台に着地する。

「……こんな力を使うのは、これで最後だ」

 ちらと窓を見上げ、すぐに踵を返した。
 あの指輪が、本当に効き目があるのかはわからない。露台に置いたところで、もしかしたらあいつは気が付かないかもしれない。自己満足に過ぎないと言えばそれまでだ。
 やはり直接渡すべきだったか……、と思ってから、すぐにその考えを振り払った。
 
 私は、私の知らないレハトを見たくない。私の知らない声を発するレハトを見たくはない。
 そうだ。
 私たちは、会わないほうがいい。
 お互いのためにも、きっとそのほうがいいのだ。

 足を踏み出し、茂みに入った時。背後から窓の扉が開く音が聞こえてきた。部屋の主が露台の異変に気付いたのだ。

 途端に心臓が大きく高鳴る。
 振り向けば、きっと居る。
 成人したレハトが、すぐそこに。

 動くことができず、その場でじっと耳をそばだてた。
 風に揺られる葉の音。湖から聞こえてくるさざめき。
 だが、背後からはもう何も聞こえてこなかった。

「モル、行くぞ」

 そのまま、一度も振り返ることなく私たちは場を後にした。

 どうか、元気で。
 あの時と同じ言葉を、心の中で呟きながら。

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。