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邂逅<1>

2015.04.02 (Thu)
裏切りEDのグレオニー、その後のお話。

どこかで見た設定、結末、になっておりますが、目をつぶっていただけるとありがたいです…。
勝手に創作して、グレオニーが「アンタどこのどなたー!?」状態になってますので、普段のグレオニーしか認めない!という方もご注意を。
いつものごとく、オリキャラが出まくります。


邂逅<1>


 筆を置いて、書き終えた手紙を何度も何度も読み返す。

「生きてます」

 粗末な紙に、たったひとことだけ。自分の名前も居場所も記していない。
 どれだけ時間をかけても、こんな短い言葉しか書けなかった。  
 何をどう書けばいいのか。長時間こうして紙と向き合っていても頭に浮かぶのは家族の顔ばかり。納得のいく言葉なんて出てきやしない。
 故郷での思い出が鮮明になるにつれ、筆先は行き場を見失って宙を彷徨い続ける。そのうちに書く行為を諦めて筆を置いてしまう。でもやっぱり、と再び持ち直す。その繰り返し。

 生きていることだけを知らせて何になるというのか。
 帰る気もないくせに。
 身勝手に姿を消しておいて、心配させたくないだなんて矛盾してる。

 いったい俺は何をどうしたいんだろう。
 踏ん切りをつけたいのか。
 こうやっていつまでも、不幸な自分に酔いしれていたいのか。

 ひとことだけ綴った手紙は、結局いつものように丸めて屑かごへと放り投げてしまった。


  ◇  ◇  ◇


 怖いことなんかない。
 いつも来ているお店なんだから。
 僕一人でも大丈夫。
 大丈夫、大丈夫。

 頭の中で「大丈夫」を何十回も繰り返した後、覚悟を決めて僕は店の扉に手をかけた。扉を開けた途端、安っぽい酒の匂い、クセのある香辛料の匂いが鼻に纏わりつく。続けざまに店内に響いた野太い豪快な笑い声で、僕の小さな小さな体が硬直してしまった。
 酒場の客たちは世間話に花を咲かせ、酔いに身を任せ、突如現れた闖入者のことなど誰も気にも留めていない様子だ。

 親と一緒に訪れた時には、こんな恐怖を感じる場所ではないのに。「一人」というだけで足が竦んでしまい、入口から一歩も動くことができない。

 やっぱり帰っちゃおうかな……。
 だけど……。

「ぼうす、どうした? 今日はおっ母さんと一緒じゃないのか」

 僕の存在に気付いた店主が奥から声をかけてくれた。聞き慣れたダミ声に安堵し、体に溜め込んでいた空気が鼻や口から勢いよく漏れ出す。
 ぎくしゃくした歩みで店主に近寄って、事情を説明した。

「母さん、昨日から腰を痛めちゃって」

「そりゃ大変だなあ。じゃあ一人でおつかいか? いつもの肉料理でいいのかい?」

「ううん、違うんだ。今日は……」

 なんとなく辺りを見回してから、意を決して言葉を口にする。

「ご、護衛の人を、雇いに、来ました……」

 自分でも呆れるくらいに消え入りそうな声。胸は心臓が早鐘を打って、今にも口から飛び出てしまいそうだ。

「護衛……? なんだってまた」

「父さんに追加の商品を届けに行くの。母さん動けないから、僕が代わりに」

「だからって、ぼうずが一人で行くことないだろうが。父ちゃんの居るところまで、どれだけ遠いかわかってるのか? おっ母さんはこのこと知ってるのか? 他の人に頼むことはできないのかい?」

「……僕、もう大人だもん。一人前なところ見せたいし。いずれは僕が店を継ぐんだし。少しでも役に立ちたいし……」

 ここ数年、僕がまだ小さかったために、父は遠くの街での商売を控えて近場で細々と店を営んでいた。
 昔はもっと遠くの町や村で行商をしていたらしい。父や母の作り上げる商品は、どこでも「質が良い」と評判だったそうだ。

「こんな小さな町に引っ込んでいるのはもったいないよ。また前のように、遠くの大きな町で売り歩いてみたらどうだい?」

 客からのそんな声に背中を押され、つい先日、僕が成人したのを機に父は遠出の商売を再開しようと決意したのだった。
 父の出発までに仕上げが間に合わなかった商品を、後から僕と母で持って行く。そして父と合流して三人で風呂敷広げて店開き。
 その予定だったのだが……。

「どうしてもどうしても父さんに届けたいんだ。お金ならあるし、母さんは隣のおばさんが看ててくれるし」

「うーん……」

「おじさん、お願い。腕が良くて、あんまり怖そうじゃなくて、でもあんまり高くない人を紹介して。いくら逃げ足が速い僕でも、悪い人に襲われたらひとたまりもないよ」

「うーん……」

 首を傾げた店主はしばらくのあいだ唸り声をあげていた。
 やがて根負けしたのか、店の隅に目を向け、

「グレオニー、仕事だよ。引き受けてやんなよ」

と、一人で飲んでいた男の人に声をかけた。
 気だるそうに振り向いたグレオニーと呼ばれた人は、僕の目には「あんまり怖そうじゃない人」にはとても見えなかった。


  ◇  ◇  ◇


「商品と? 君を守ればいいの?」

「はい」

「行き先は?」

「フィアカント……」

 父の居る町を口にした途端、グレオニーさんは片方の目だけを細めた。口は閉ざしたままで、むっつり黙りこんでいる。

 怖い。
 目つき悪いし。髪もボサボサだし。服もなんか汚いし。
 汚いって言えば、無精髭も汚いし。
 全然優しそうに見えないよ。おじさんのばかばか。怖い人をあてがえば僕が諦めると思ったんだろうか。ひどいやひどいや。

「悪いけど引き受けられないな。別の人を探してくれ」

 汚い髭がやっと動いた、と思ったら、そんな風にぶっきらぼうに言われてしまった。
 なんだよ、感じ悪い。こっちだって正直言えばあんたなんかお断りだ。お金を払うんだから、ちゃんと信用できる人を雇いたい。
 
 救いを求めて店主のおじさんに視線を移す。

「まあそう言うなよ、グレオニー。こんなに小さな子が親のために頑張ろうとしてるんだ。力になってやろうとは思わないのか?」

 どうやら店主は他の人を紹介してくれる気はないらしい。期待を裏切られて、僕の頭ががっくりと垂れ下がった。
 もう大人なのに「小さな子」扱いされたのも少し傷ついた。
 体が小さいのは僕のせいじゃないのに。

「フィアカントには近付きたくないんだ。おやっさん、別の人を紹介してやれよ」

「そういや、うちのツケ。だいぶ溜まってきてるんだけどね」

「……」

「最近、物価も高くなってきてさ。カミさんがガミガミうるさいんだ。この店が潰れたらあんたも困るだろう? なあ、グレオニー?」

「……わかったよ。いくら払える?」

 溜め息混じりにグレオニーさんが交渉を始める。腕を組んで、じろじろとこちらを見定めている目つきはやっぱり鋭くて怖い。
 払える金額を告げると、また不満そうにグレオニーさんの片目が細くなった。

 さっきから一体なんなんだよ、この人。こんなにやる気がなさそうな人、雇っちゃっても大丈夫なのかな。

「金額に不満そうですけど、あなたの腕はどうなんですか? テーブルに、そんなにたくさんゴロゴロゴロゴロ空の杯を転がして。だいぶ酒がお好きそうですけど、そんなんで僕を本当に守れるんですか? 僕だって酔っ払いを雇うのはごめんです。道中、酒がないから仕事ができないなんて言われたら、たまったもんじゃ……」

 無愛想な護衛に怒りをぶちまけた、その時。
 一瞬だけ、風が顔をかすった。

 何が起きたか把握できない僕の言葉が途中で止まる。
 足下で、ことん、と何かが落ちた音がした。

「商売人を目指してるなら、身なりには気を遣ったほうがいい」

 床に転がっていたボタンを拾いながらグレオニーさんが呟く。
 差し出されたボタンは、昨日から僕の胸元でぶらぶら取れかかっていた物だった。今、胸元にはスッパリと切れた糸のみが残っている。
 
 どこから刃を出したのか。
 グレオニーさんの体にも、どこにも武器は見当たらないのに。
 腕の動きなんて全然わからなかった。

「俺が紹介できる中じゃ、腕の良さはこいつがいちばんだと思うよ。性格はちょっとアレだけどな」

 店主の満足そうな声が耳に届いたが、呆気にとられた僕は、返してもらったボタンを握り締めることしかできなかった。

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