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邂逅<2>

2015.04.05 (Sun)
裏切りEDのグレオニー、その後のお話。

どこかで見た設定、結末、になっておりますが、目をつぶっていただけるとありがたいです…。
勝手に創作して、グレオニーが「アンタどこのどなたー!?」状態になってますので、普段のグレオニーしか認めない!という方もご注意を。
いつものごとく、オリキャラが出まくります。


邂逅〈2〉


 少し無口だけど、思ったほどグレオニーさんは怖い人じゃなかった。
 フィアカントまでの道にも詳しいし、旅慣れてるし。
 「こんな小さなぼうずが雇い主だなんてやってられるか」と、いい加減な仕事をされたらどうしよう。怖い人に襲われても、見て見ぬふりをされたらどうしよう。朝、起きたらお金と荷物だけ盗まれて置いていかれたらどうしよう。
 いろいろ悪い想像ばかりが頭を駆け巡ったが、それは全部僕の杞憂に過ぎなかったみたいだ。

「暑いからって、そんなに肌を露出した格好じゃ駄目だ」

「あの村はちょっと柄の悪い連中が多いから。避けて通ったほうがいい」

「お金はひとまとめにするな。何かあった時のためにバラバラに隠しておけ」

 無愛想だと思っていた護衛は、そんな風に事細かに助言をしてくれた。口を出さずにいられないぐらい僕があまりに無防備だったからかもしれないけど。
 父の元へと急ぐんだと意気込みだけは立派な僕だったが、「旅」というものを甘く見過ぎていたと何度も痛感させられた。

 都合よく宿が見つからない時は野宿することもあった。
 グレオニーさんは地面に横になろうとはせず、いつも木に背を預けて胡坐をかいていた。そう言えば、寝言やいびきを一度も聞いたことがない。

 ある日。夜中にトイレに行きたくなって護衛を起こさないよう側を離れようとしたことがあった。
 音をたてないように、静かに、静かに。
 起こしたら気の毒だし。と言うか、起こしてしまって「うるさい」だなんて怒鳴られたら嫌だし。
 でも本当はちょっと、いや、だいぶ怖い。どっちを向いても真っ暗闇。頭上から聞こえてくる鳥の変な鳴き声。ただの風の音すら獣の息遣いのようにも聞こえてくる。

 ちら、と隣の護衛の様子を窺う。グレオニーさんはいつもの胡坐に腕を組んだ姿勢で、ぴくりとも動かない。

 静かに、静かに。
 そーっと、そーっと。
 ゆっくり、ゆっくり。

 慎重に慎重を重ね、僕の膀胱は破裂寸前だった。それでも、とてつもない時間をかけて静寂を保ったまま立ち上がることができると、いきなりものすごい力で何かに手首を掴まれる。
 我慢していた恐怖が、一気に悲鳴となって僕の口から飛び出した。

「トイレに行くときは声をかけろといっただろ? ほら、ついてってやるから」

 そうして体の大きな護衛に付き添われて、僕は暗闇の中、無事に用を済ませることができたのだった。
 あんまり驚いたせいで、涙目で震えが止まらないままだったけど。
 実を言うと、もう既にほんの少しだけ出てしまっていたのだけど。
 翌朝、こっそり洗濯をしていた僕に、グレオニーさんは何も言わないでいてくれた。

 少しぶっきらぼうだけど、根は優しい人。旅が進むにつれ、僕の中でグレオニーさんの印象がだいぶ変わってきた。
 しんどいな、と思っていたら荷物を代わりに持ってくれたりする。無言で。
 それでもやっぱりしんどいな、と思っていたら、急に道を逸れて勝手に休憩を取り始める。無言で。
 鹿車が通りかかると、さりげなく僕を庇いながら位置を代わってくれる。これまた無言で。
 歩みの遅い僕に歩調を合わせるのは、さぞかし苛々する毎日だろうに。報酬が安いと不満そうだったくせに、仕事には手を抜かない真面目な人なのかもしれない。

 真面目そうな性格なのに、どうしてこんな収入の安定しない危険な仕事をしているんだろう。道中、グレオニーさんが剣を使ったところは未だ見たことがないが、店主のおじさんがあれだけ勧めてくるぐらいだ。きっと、本当に腕が良いに違いない。
 
「グレオニーさんは、なんでこの仕事をしてるの? もっと稼げそうな仕事に就こうとは思わなかったの?」

 一度、勇気を出して訊いてみたことがあったが、

「……」

予想通り、返ってきたのは沈黙のみだった。でも生まれてしまった好奇心を抑えることができず、僕は質問を続ける。

「たとえば偉い人の護衛とかさー。大きいお屋敷の警護とか。ああ、あと、お城の衛士とか? なりたいと思ったことないの?」

「……」

「でももうちょっと小奇麗な格好しないと、どれも無理か。人の格好を云々言う前に、グレオニーさんのほうこそ少し見た目を気にしなよ。髭ぐらい剃ったら? その手袋もボロボロじゃん。買い換えたほうがいいよ、僕が……」

「いいんだ、このままで」

 その声は、とても低く、厳しく、それ以上踏み込んでくるなという意図が含まれているように感じた。僕の先を歩く大きな背中が、心なしか強張っているようにも見える。いろいろ僕を気遣ってくれているから、優しそうだから、と思って、つい調子に乗りすぎてしまったようだ。
 それ以後、護衛自身のことをあれこれ言うのはやめておこう、と肝に銘じた。


  ◇  ◇  ◇


 フィアカントまで、半分の道のりを稼いだという頃。とある街で、一人の貴族夫人に話しかけられた。妙に馴れ馴れしい態度で接してきたが、もちろん僕には誰なのかさっぱりわからない。お偉い貴族様に知り合いなんか居ないし。こんなおばさん、どっかで会ったことがあったっけ?

 貴族夫人のお喋りは、こちらが口を挟む隙がないぐらいに勢いがあった。
 長く長く、周りくどい内容から要点だけを拾って纏めると、むかし僕の父の世話になったことがあるそうだ。僕が担いでいる荷物には店の印が刻まれている。それに見覚えがあって声をかけたらしい。

「まー! あの時の赤ちゃんが、こんなに大きくなって、立派になって! お父さんやお母さんは? 一緒じゃないの? んまー、お店のお手伝いなのね、偉いわあ!」

 何を言われてもこちらは愛想笑いを返すしかなく、そうして夫人のお喋りに長々と付き合わされていたら、話の方向が思いもよらないところへ行き始めた。

「宿は? まだ決めていないの? じゃあうちに泊まりなさいな。いえいえ遠慮せずに。大したおもてなしはできないけれど」

 思わず、ちらりと隣の護衛に視線を移す。僕はともかく、お貴族様がこんな汚い格好の輩を一緒に招くとは思えない。グレオニーさんも自分の立場を弁えているのか、「俺は適当に近くの宿をとるから」と小さく耳打ちしてきた。
 しかし夫人は、「そちらの方も是非ご一緒に。側に居ないと護衛になりませんものね」とグレオニーさんのことも誘ってきた。かなりおおらかな性格というか、警戒心が薄いというか。

 そんなこんなで、僕たち二人は大きな大きな邸宅に招かれ、無駄に広い部屋で夫人と夕食を共にすることになってしまった。

「遠慮しないでたくさん食べてちょうだいね。作法なんてお気になさらずに。さあさあ」

 夫人の言葉で僕の体が凍りつく。
 作法。
 どうしよう、そんなの何にもわからない。
 
 気にするなって言われても、知らずに変な食べ方をしてしまったらどうしよう。にこにこ優しく笑っている夫人の顔が、汚いものを見る目つきに変わってしまったらどうしよう。
 そもそも、なんでこんなにたくさんのスプーンやフォークが並んでるの? どれを使えばいいの? この小さい器に入っている水は何なの? 飲み物? 花が浮いてるけど一緒に飲み込むの? 花なんて飲み込んでも大丈夫なの?
 グレオニーさんだって、そんな作法を熟知しているようにはとても思えない。夫人はお喋りに夢中で食事になかなか手を付けようとせず、見よう見まねで食べることもできない。
 もう駄目だ。こんな汚い食べ方をする人たちを泊めるわけにはいかないって追い出されちゃうかもしれない。そして、店の名前にも傷がついてしまうかもしれない。父さん母さん、ごめんなさい。

 いろんな想像が頭を埋め尽くして、涙が今にも目からこぼれそうになった、その時。
 隣のグレオニーさんが、

「私にまでこのようなもてなし、大変有り難く存じます」

などと夫人と一言二言会話を交わしてから、一番外側のフォークを手に取って食事を始めた。
 その食べ方は間違っていないんだろうか。大丈夫なんだろうか。今のところ夫人の表情に変わった様子は見られない。どうやら正解だったみたいだ。

 豪華な装飾が施された部屋の雰囲気に臆することなく、自然な仕草で食事を口に運び、愛想良く夫人の話に相槌をうつグレオニーさんは、僕が今まで一度も見たことがないグレオニーさんだった。
 僕もぎこちない動きでグレオニーさんの真似をして、見たことも食べたこともない、よくわからない食材を口に運ぶ。

「あなたのお父さんには本当にお世話になって」
「手持ちの材料と道具で、ぱぱっと鹿車を直してくださってねえ。やっぱり職人さんは手先が器用なのねえ」
「安い車を買うからあんなことになるんですよ。旅先で知り合いもいないし、どうなることかと。まったく、うちの主人ときたら安物買いの銭失いで」

 夫人は勝手に一人で喋り続けていた。僕はというと、あまりの食事の美味しさに気を取られ、夫人の言葉が呪文の羅列にしか聞こえていなかった。
 こんなの食べたことないや。なにこれ、すごい。舌がとろけそう。
 グレオニーさんは普通の顔して食べてるけど、食べたことあるのかな。それとも我慢して平静を装っているのかな。

「主人は、明日城で行われる御前試合を見に行ってしまいましたのよ。私は血を見るのが苦手だから、あんなものはとてもとても……」

 ごぜんしあいって何だろ? 
 うわあ、このお肉、口に入れた途端に溶けちゃった。美味しい。美味しい美味しい!
 
 最初からずっと気になっていた花が浮いている水は、まだ二人とも手を付けていない。卓の上に放っておかれたままだ。
 ただの飾りなんだろうか。いつ飲むのか決まっている飲み物なのかな。
 まあいいや。他にも美味しいものがいっぱいあるし。

「舞踏会には私も息子を連れて顔を出すつもりなのですけど。うふふ。うちの息子、親の私が言うのもなんですけれど、私に似て器量良しで。私の若い頃にそっくり」
「王様もたいそう美男子でいらっしゃるでしょう? 未だに独身だなんて、本当にもったいないと思いませんこと? お似合いだと思うのよねえ、うちの息子と。正直言うと私がもっと若ければ……」
 
 そんなこと言われても、王様なんて見たことないし。
 王様は美男子なのか。でも夫人の顔からして、ご自慢の息子が器量良しというのはどうしても想像しづらい。
 僕には関係のないことだから、どうでもいいけどさ。もぐもぐもぐもぐ……。

 夫人の話す内容はぽんぽん飛びまくり、僕は追いつくことを早い段階で諦めてしまっていた。と言うのも、勧められたお酒を飲み過ぎて、少し酔いが回ってしまったからだ。
 顔が熱い。それにお腹が苦しい。はち切れそう。
 
 そして、今いちばん僕の頭を悩ませているのは、夫人の長い話でもなく、酔いからくる思考の低下でもなく、皿のすみっこに残っている野菜のかけらだった。
 さっき一口食べたら、それはもうその場に吐き出してしまいたいぐらいに僕の口に合わない食材だった。酒でなんとか流し込んだけど、もう二度と口の中に入れたくない。舌触りも喉越しも味も、思い出しただけで鳥肌が立ってくる。
 でも、出された食事を残すのがいけないことぐらい、作法に疎い僕にだってわかる。覚悟を決めて何とか食べるしか……。

 憎き野菜と睨めっこを続けていると、使用人が一人、少し慌てた様子で部屋に入ってきた。夫人に何かを耳打ちをしている。

「あらあら。ちょっと席をはずしますわね。ごめんなさいね、すぐに戻りますわね。どうぞ食事を続けてらして」

 そう言い残して、夫人は部屋を後にした。僕とグレオニーさん、そして給仕の人だけが取り残される。

「……食べてやろうか? 苦手なんだろ?」

 夫人が居なくなってすぐ、小さな声でグレオニーさんが話しかけてきた。
 人の皿に手を付ける行為が行儀の悪いことだって、グレオニーさんが知らないはずがない。夫人が居ないのを見計らって気遣ってくれたのだろう。

 でもその時の僕は、酔いのせいか何なのか、変な意地を張ってしまった。

「苦手じゃないもん。食べるよ。美味しいから残しておいたんだよ」

 言ったからには食べねばなるまい。少し大きめの塊を僕は一気に口に放り込んだ。味を感じる前に、酒で勢いよく流し込む。
 ……なんか、まだ舌に味が残ってる気がする。
 ごくごく。
 ごくごくごくごく。ごくごくごくごく……。

「お、おい。ちょっと、飲み過ぎじゃ……」

「まあまあ、お待たせしてごめんなさいね。……まあ! あなた顔が真っ赤よ、大丈夫!?」

「え?」

 戻ってきた夫人が、僕の顔を見て驚いている。隣のグレオニーさんも僕の顔を凝視してる。
 どうしたんだろ?
 僕の顔、何か変なのかな?

「だいじょーぶ、ですよ? ぜんっぜん、だいじょーぶです。あ、でも、ちょーっと暑いかなあ?」

 持っている杯はもう中身を飲み干して空の状態だ。
 おかわりくださーい、なんて恥ずかしくてとても言えない。でも喉が渇いた。すっごい渇いた。もうカラカラ。
 小さな器に入っている水が、再び目に入る。なんだか、ものすごく冷たそうで美味しそうな水に見えてきた。あの野菜以外はとても美味しいご飯だったし、この浮いている花もきっと美味しいに違いない。
 世の中には、僕の知らない食べ物がたくさんあるんだなあ。

「とーっても美味しい食事でした、ありがとーございます。もうお腹がいっぱいでーす」

 そう言いながら、僕は器を手にとって水で喉を潤した。残念ながら花の味はしなかった。喉にひっかかりそうになったし、やっぱりあの花は除けて飲むものだったのかもしれない。でも、もうどうでもいいや。なんか、頭が、よく回らない。

 グレオニーさんは、まだ僕を凝視したままだった。と言うか、さっきより驚いてる顔をしている。なんなんだろう。こんな顔をしたグレオニーさんを見るのも初めてだ。
 夫人はと言うと、これまた驚いたままで、「あ、あら、まあ、……ええと」と口に手をあてて、訳のわからない言葉をぶつぶつ呟いていた。

 僕を見ていたグレオニーさんの顔が、ふっと緩む。
 そして彼も器を手に取り、中の水を花ごと飲み干した。夫人の大きく開かれた目が、更に大きくなる。

「大変美味しいお食事でした。ご覧の通りですので、申し訳ありませんがお部屋に下がらせていただいてもよろしいでしょうか?」

 グレオニーさんの言葉で、夫人の顔が我に返った様子で笑顔になった。

「あっ、ええ、そ、そうね。急いで用意させますわね。こちらこそ大変楽しいお食事でしたよ」
 
 そう言い終えると、夫人も手を伸ばして器の水を飲み干した。花を喉に詰まらせたのだろうか。少しむせていた。

 そうか。ご飯の最後に水を飲み干す決まりなのかな。もう食べれません、これ以上お腹に入りませんっていう意味があるのかもしれない。たぶん二人の様子からして、そういうことなんだろう。じゃあ僕が取った行動は、ある意味間違っていなかったんだ。実によいタイミングだったとも言える。

 貴族の決まりってよくわからないことだらけだ。
 むせるくらいなら花を入れなきゃいいのに。
 
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