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邂逅<3>

2015.04.10 (Fri)
裏切りEDのグレオニー、その後のお話。

どこかで見た設定、結末、になっておりますが、目をつぶっていただけるとありがたいです…。
勝手に創作して、グレオニーが「アンタどこのどなたー!?」状態になってますので、普段のグレオニーしか認めない!という方もご注意を。
いつものごとく、オリキャラが出まくります。


邂逅〈3〉


 顔を真っ赤にして大人しく座っていた俺の雇い主は、部屋が用意されるのを待っているわずかな間に、酒の力を借りて暴君と化してしまった。

「まだ眠くないってばー! 下ろせよー、僕が雇い主なんだぞお、言うこときけよおー!」

 俺の肩の上で主がじたばた暴れ続け、周りの者が苦笑を漏らす。突然の醜態にこっちは冷や汗が止まらない。このままでは、寛大な屋敷の者たちの笑顔が、いつ呆れ果てた顔に変わってしまってもおかしくない。一刻も早く撤収しなければ。

「おーろーせーって言ってんのー! 一人で歩けるよぉ、子供扱いするなー! 体がちっちゃいのは、僕の、せいじゃ、ないんだじょー!!」

 言葉に耳を貸さず、小さな体を担いだまま用意された寝室に足を向けたものの、怒号はますます大きくなるばかり。猛獣のような主は手足を振り回し、鼻水を垂らし、かと思えば次の瞬間にはけたたましい笑い声をあげて、すれ違う使用人に挨拶をしている。

 ……まさか、こんなに酒癖が悪いと思わなかった。明日から酒は持たせないようにしよう。
 
 部屋へ案内してくれた執事に詫びと礼を告げる。彼はこちらの無礼に気分を害した様子もなく、「何かありましたら、遠慮せずにいつでもお呼びください」と、笑顔で自分の持ち場へ戻っていった。
 中に足を踏み入れると、一晩だけ泊まるには贅沢すぎる広い間取りに、これでもかというぐらい存在を主張している大きい寝台。卓の上にはご丁寧に果物の用意までしてある。
 
 主は相変わらず「下ろせ、下ろせ」と喚き続けていた。担いでいた雇い主を力任せに寝台へと放り投げる。着地と同時に、主は怒りを剥き出しにして睨みつけてきた。と言っても、酔いのせいで焦点が定まっていないのだが。

「なにするんだよお!」

「言われた通り下ろしてやったぞ、ご主人様」

「喉が渇いたー! グレオニーさん、お水、お水ちょーだい!」

「もう寝ちまえって。それ以上暴れると、明日になったら二日酔いで酷い目に……いてっ! 引っ掻くなよ、おい!」
 
 寝台から脱走しようと抵抗を続ける主をどうにか寝かしつけ、ここの貴族が広い心の持ち主でよかったと改めて安堵した。どっと疲れを感じて溜め息を吐いてしまう。

 まったく。
 子供扱いしたらすぐ機嫌が悪くなるくせに。こういうところはまだまだガキじゃないか。恥をかかせないようにと手洗い用の水まで飲んでやったってのに。明日になったら説教だな、説教。

 大人の苦労も知らずに、主は呑気な顔ですやすやと眠っている。今はこうして安眠をを貪っているものの、あれだけ酔っていたのだから、もしかすると夜中に気分が悪くなって戻してしまうかもしれない。
 今のうちに大きめの器か何かをもらっておこう。床や掛け布を汚してしまったら、なんて想像しただけで胃が痛くなりそうだ。……ということは、今日も寝ずの番か。やれやれ。まったく面倒な仕事を引き受けてしまったもんだ。

 ちょっとやそっとでは起きそうもない主を置いて、音を立てずに部屋を後にした。
 ちょうど近くに居た使用人の子に声をかける。

「器でございますか? すぐにお持ちいたしますね。それより……」

「?」

「顎、血が出てますよ。もしかして引っ掻かれました?」

 使用人が苦笑しながら問うてくる。この子も、先ほどまでの騒ぎをどこからか見ていたのだろう。
 顎に手を当てると、鈍い痛みを感じた。思ったよりも深く引っ掻かれたらしい。あいつめ。もう絶対に酒は飲ませないぞ。

「器は他の者に運ばせますから。すぐに手当てしたほうがいいですよ」

「いえ、大した傷じゃありませんし。お気遣いなく」

「駄目ですよー。そのままにしてたら、うちの奥様も気にしちゃいますし。おヒゲも剃りましょうね、手当てしにくいですから」

「えっ、ちょっと、いや」

「余計なお世話だと思いますけど、雇われてるのならもう少し身綺麗にならさないと。一緒に歩いている主さんの格を落としちゃうことにもなるんですよ? ほらほら」

 強引に腕を引っ張られ、使用人の命に従って俺は大人しく怪我の手当てを受けた。髭を剃ろうとした手つきが少し危なっかしい気がしたので、それだけは自分でやらせてくれ、と譲らなかったけれど。

 鼻歌を歌いながら薬の用意をし始める使用人。改めて観察してみると、俺よりもかなりの年下のように見える。
 そうか。どこか見覚えがあると思ったら、サニャちゃんに似ているんだ。
 先ほどぼんやりと感じた既視感は、以前、彼女に同じようなことを指摘されたから。
  
「グレオニーさんの身なりもレハト様の評価に影響してくるってことでしょ」
「ほら、鎧の中心はまっすぐ合わせて。それに上着の裾が汚れてるし、ボタンがとれかけてる」

 あの子はまだ城で仕事に励んでいるのだろうか。それとも、故郷に帰って平和な日々を過ごしているのだろうか。
 もしかすると、もう子供の一人や二人産んでいるのかもしれない。それくらい、かなりの年月が経ってしまった。

 一度思いを馳せると、堰き止めていた記憶が次々と溢れ出す。
 一緒に仕事をしていた衛士の面々。
 おしゃべり好きな下働きの者たち。
 しっかり者に見えていたサニャちゃんも側付きになってそんなに経っていない時期だったはずだ。ローニカさんがうまく指導していたのだろうか。あの人も、穏やかそうに見えて妙な貫禄が漂う老侍従だった。
 そして……。

「あら? 怪我をなさったの? あらあら、まあまあ、何てことでしょう」

 素っ頓狂な声で我に返った。振り向くと、手当てを受けている俺を見て夫人が慌てふためいている。

「い、いえ。大したことはないんです。少し引っ掻いてしまっただけで。それよりも、主が大騒ぎをしてご迷惑を……」

「いえいえ、いいんですのよ。そんなこと気になさらずに。あれくらい、うちの子が小さかった時の泣き声に比べたら大人しいものですよ。本当にあの子ったらいつまで経っても寝付きが悪くて、私がどれだけ苦労したか……あら」

「……なにか」

「あなた……。前にどこかでお会いしたことあったかしら? お食事中は気付きませんでしたけれど、何となくお顔に見覚えがあるような……」

 背中にぴりっとした痛みが走る。
 それと同時に、息が詰まるくらいに鼓動が大きく脈打った。
 まずい。
 もしかしたら城で顔を合わせたことがある人物だったのかもしれない。もちろん、俺の記憶には残っていないのだが。

「どこでお会いしたのかしら……。主人に付き合わされて、あちらこちらと出歩いているものだから、いろいろ記憶がごっちゃになってしまって……、あっ、そうだわ、あなたもしかして御前……」

「手当ても済みましたし、私も休ませていただきます。夜分にお騒がせして申し訳ありませんでした」

 強引に話を遮り、まだ話し足りない顔の夫人から逃げるようにしてその場を後にした。
 主のいびきが響き渡る部屋に戻っても、まだ心臓は胸の中で激しく暴れている。
 
 大丈夫。落ち着け。
 素性が知られたわけではない。
 一晩経てば、あの夫人も薄汚い護衛に疑問を抱いたことなど忘れてしまうだろう。いろいろと頭の中が忙しそうな方だったし。
 
 夕食の時には何を聞いても平然としていられたのに。髭を剃ってしまった途端に、長年かけて固めていた鎧を剥ぎ取られてしまった気分だ。

「王様もたいそう美男子でいらっしゃるでしょう?」

 食事中の夫人の言葉が頭に蘇ってきた。あの時も冷静を装っていたものの、本当は逃げ出してしまいたい気持ちでいっぱいだった。

「未だに独身だなんて、本当にもったいないと思いませんこと?」
 
 それが自分のせいだと自惚れるつもりはない。でももしかしたら、と一瞬でも期待を抱いてしまった自分が心底情けなくて嫌になる。

 あの方は、もう俺のことなんて覚えていないに違いない。
 未練たらしく、いつまでもこうして引きずっている俺のほうがおかしいんだ。

 もうどうにもならないとわかっているのに。
 それでも、ふとした時に何度も考えてしまう。
 どうすればよかったのか。どうしたら正解だったのかと。

 現実では何もできない臆病者の俺は、夢の中で幾度となくあの方に問いかけた。

 どうしてですか。
 何故そんな選択をされたんですか。
 本当に全部、俺の勘違いだったんですか。
 ……側にいてほしいと仰ったのは、あなたにとってどういう意味だったのですか。

 でも、あの方は何も答えてくれない。
 鈍く光る額の徴が見つめ返してくるだけ。表情もわからない。
 
「レハト様……」

 かつて愛した人の名を口にしても、長い年月のせいで、もう俺は顔も思い出せなくなってしまっていた。


  ◇  ◇  ◇


「ほんとに僕がつけた傷なの? グレオニーさん、自分がドジ踏んでつけちゃったんじゃないの?」

「俺がそんな嘘をついて、何の得があるんだよ」

「報酬を釣り上げようとしてる、とか」

「釣り上げるどころか、本音を言うと今すぐにでも仕事を放棄したいぐらいだ」

「髭がないだけで、だいぶ印象が変わるねー。どうしてそんなにフードを深くかぶるのさ。見た目が良くなって男前になったんだから隠すことないのに」

「おべんちゃらを言って、また酒を飲もうったってそうはいかないからな。もう金輪際、お前は酒を口にするな。少なくとも俺の仕事が終わるまでは」

「グレオニーさんは飲まないの?」

「仕事中は飲まないことにしてる。昨日だって飲んでなかっただろ? 気付いてなかったのか?」

 夫人の屋敷を出た後から、僕の護衛はすこぶる機嫌が悪い。丸一日たった今も、賑やかな酒場で食事中だと言うのに、むっつりした顔で食材を口に運んでいる。時折、傷の痛みに顔をしかめながら。

 さすがに王都が近くなってくると、街の大きさ、店の規模もだいぶ変わってくる。
 こんなに広くて人がたくさん入る酒場、生まれて初めてだから、ワクワクしながら店の扉を開けたのにさ。グレオニーさんってばいつまでもネチネチネチネチと説教ばっかりで。美味しいはずのご飯もちっとも味がしない。
 珍しい酒を頼もうとした僕の手から品書きを奪い取った素早さは、賞賛に値するものだったけれど。
 
 僕、本当にそんなに酒癖が悪かったのかなあ。
 一応、言われた通りに夫人には謝ったけど。でも信じられないなあ。そんなに飲んだ覚えもないんだけどなあ。

 髭が無くなって、見た目の印象も前より良くなったのに、グレオニーさんはずっと注意深くフードで顔を隠していた。少し気にしすぎじゃないかというぐらいだ。
 そういえばフィアカントには近付きたくないと最初の頃に言っていた。
 この街も、王都から近いと言えば近い場所だし。会いたくない人でもいるのかな。それとも、もしかしたら犯罪者なんじゃ。フィアカントで悪いことをして、遠くに逃げてきて、そんなもんだからまともな職にも就けずに薄汚い格好で……。

「今日の宿は、さっき見てきたところでいいのか?」

「えっ、あっ、うんいいよ。値段も手ごろだったし。食べ終わったらすぐ宿に向かおう? なんだかずっと頭が痛いんだ」

 でも、やっぱりそんな悪い人には見えないなあ。
 だからと言って、「なんでフィアカントに近付きたくないの?」なんて訊いたら、ますます機嫌が悪くなるんだろうなあ。
 ああ、やだやだ。余計なこと考えないで、美味しいご飯に集中しよう。せっかく滅多に食べられそうもない料理を目の前にしているんだから。

「だから、それが二日酔いって言うんだ。宿に向かう前に、薬を……」

 グレオニーさんの説教が、何の前触れもなく途中で止まった。
 怪訝に思い、食事の手を止めて護衛の様子を窺うと、グレオニーさんの背後に女の人が立っていた。ただ立ってるだけじゃない。グレオニーさんの首に手を回して、グレオニーさんに寄りかかって、グレオニーさんの耳に顔を近づけて、って言うか、何でこの女の人こんなに薄着なの? 寒くないの? 親しげな笑顔を見せてるけどグレオニーさんの知り合いなの?

「こんばんは。一緒に飲まない?」

 女の人は、甘ったるい声でグレオニーさんに囁いた。どうやら僕の存在は無視されたらしい。細い指先でグレオニーさんの頬を撫で、ものすごい大きな乳を護衛の鍛えられた腕にぐいぐい押し付けている。
 当の護衛はと言うと、いつもと変わらない表情だ。いや、眉間の皺が増えている。日中からまっすぐとは言い難かった機嫌が、ますます斜めに偏ったことは間違いない。

「他を当たってくれ。仕事中なんだ」

「仕事ってなあに? この坊やと食事をするのが仕事なのお?」

「……グレオニーさん、この人だれ? 知り合い?」

「うふふ、あなたグレオニーさんって言うの。一緒に飲みましょうよお、奢ってくれなんて言わないから」

 そう言いながら、女の人がグレオニーさんのフードに手をかけた。次の瞬間、護衛の大きな手が鋭い動きで細い手首を撥ね退ける。思わぬ反撃を受けて、女の人は小さな悲鳴で手の痛みを訴えていた。

「いたぁい。何よお、ちょっと触っただけじゃないのお」

「……」

 薄着女の馴れ馴れしさに激怒した様子のグレオニーさんだったが、そのまま女の人の顔を見つめてしばらく黙り込んでいた。顔から怒りは既に消えている。何が起こっているのか皆目見当もつかず、僕の頭は「?」の文字でいっぱいだ。女の人も同様に、「なあに?」「どうしたの?」と疑問を連発している。

 そして、混乱している僕に向かってグレオニーさんは言った。

「一人で宿に行けるよな? すぐそこだし。先に行っててくれ。部屋の鍵をかけるのを忘れるなよ」

「……え? ぐ、グレオニーさんは? どうするの?」

「野暮なこと聞くなよ。さ、行こう。もっと静かなところで飲み直したい」

 そう言って、護衛は立ち上がるなり薄着女を抱き寄せた。自分の食事の代金を卓に放り投げ、女の人と一緒に出口に足を向け始める。

 なにそれ。
 どういうこと。
 野暮なことって、それって、つまり、その。

「ちょ、ちょっと待ってよ! 仕事ほっぽって、無責任じゃないか!」

「少しぐらい息抜きさせろって。なるべく早く戻るから。ああ、一人になったからって酒は飲むなよ、また暴れたりしたら今度こそ仕事を下りるからな」

 薄ら笑いを浮かべ、グレオニーさんは乳でか女と肩を並べて出て行ってしまった。
 僕と荷物を置いて。
 しかも酒は飲むなと偉そうに釘を刺して。

「ぼうず、どした? 護衛に逃げられたのかい?」

「一杯ぐらい奢ってやろうか? さっき飲みたそうに品書きを見てたじゃないか」

 隣の卓の酔っ払いが、陽気な声で話しかけてきた。
 何だか急に恥ずかしくなってきて、いたたまれなくって、一人で見知らぬ街に居ることが怖くなって、僕は一目散に荷物を担いで宿屋へ向かった。

 グレオニーさんの無責任野郎。
 グレオニーさんのすけべ野郎。
 グレオニーさんの、グレオニーさんの……。

 頭の中で、たくさんの罵倒をぶちまけながら。

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