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邂逅<4>

2015.04.13 (Mon)
裏切りEDのグレオニー、その後のお話。

どこかで見た設定、結末、になっておりますが、目をつぶっていただけるとありがたいです…。
勝手に創作して、グレオニーが「アンタどこのどなたー!?」状態になってますので、普段のグレオニーしか認めない!という方もご注意を。
いつものごとく、オリキャラが出まくります。


邂逅〈4〉


 グレオニーさんはなるべく早く戻ると言っていた。
 じゃあやっぱり部屋は二人分で取っておくべきなんだろうと思い、宿の主人に、

「後からもう一人来ますから」

と伝えて、いつもと同じく粗末な寝台が二つある部屋を用意してもらった。

 でもさ。
 僕は食事の作法と同じくらい、そっちの知識にも疎いほうだけどさ。
 二人で仲良くお酒飲んで、

「なかなか良いお店だったね。楽しい夜をありがとう」
「こちらこそ、あなたのお喋りが面白くて素敵な夜だったわ。またどこかでお会いしましょうね」

だけでは終わらないってことぐらい、想像つくよ?
 久々に、その、そういうコトをしたら気持ちよすぎちゃってさ、この際だから時間の許す限り楽しんじゃおうってなっちゃってさ、朝まで帰ってこないってことも十分あり得るんじゃないだろうか。あの乳でか女も、やる気満々な様子だったし。

 最初は、怖い声で「他を当たってくれ」だなんて、仕事優先の俺カッコイイってな態度だったくせに。気が変わって仕事を放棄したくなるほど、相手が好みの顔だったんだろうか。結構長くジロジロ見てたもんなあ。
 そうか、わかったぞ。グレオニーさんはきっとでかい乳に弱いんだ。後々何かに利用できるかもしれない。覚えておこう。

 寝台に寝転がり、僕はそんなことを悶々と考え続けていた。大人しくグレオニーさんの言うことを聞くのは癪だったけれど、酒だって持ち込まなかったし、扉に鍵をかけてちゃんと締まっているか何度も何度も確認した。窓の鎧戸もぴっちり閉めた。護身用の短剣も枕の下に隠してある。

 ……本当に朝まで帰って来なかったらどうしよう。
 ずーっと朝まで、この部屋に一人。
 旅をしてから危ない目に遭ったことは一度もないけれど、やっぱり一人っていうのは怖い。怖くて、灯りを消すこともできない。
 
 掛け布にくるまってじっとしていると、いろいろ嫌な想像が思い浮かんでしまう。
 今日に限って、強盗が部屋に押し入ってきたら。
 酔っ払いが部屋を間違えて、わけのわからないことで絡んできたら。
 さっさと眠ってしまおうと頑張っているのに、視界が闇に包まれると恐怖でまた目を開けてしまう。

 一人で眠るのは昔から苦手だ。静かすぎて、余計ことを考えちゃうから。
 暗闇も昔から大っ嫌いだ。そもそも「眠る」という行為が、いつも本当は怖くてたまらない。
 だって、だって……。
 目をつぶって、朝が来て、再び目を開けた時に日の光を拝める保障がどこにある?
 ずっと暗闇に閉じ込められたままだったら。
 夜が明けたのだと、自分だけわからない状況になってしまったら……。

 その時、扉を叩く音が部屋に響いた。
 驚きと恐怖で心臓が激しく胸を打つ。掛け布を跳ね上げ、身構えつつ忍ばせていた短剣に手を伸ばした。

「俺だよ、開けてくれ」

 扉の向こうからグレオニーさんの声が聞こえて、持っていた短剣が手からこぼれ落ちた。硬直していた体がみるみるうちに緩んでいく。
 それでも一応警戒を怠らず、扉を少しだけ開けて外の様子を窺った。護衛が、「用心深いのは結構だけど、早く入れてくれよ」と愚痴をこぼす。

「ず、ずいぶん早かったね」

「ああ。思ったより早く片付いたから」

 片付いた。
 世の中の成人男性は、コトを成し遂げた後はそんな言い回しをするものなんだろうか。僕もいつか使う言葉かもしれない。覚えておいたほうがいいのかな。

「ほら。お前のも盗まれてたぞ」

 そう言って、グレオニーさんは小さな布袋を放り投げてきた。つぎはぎだらけの汚い布袋。これは間違いなく僕のお財布の一つだ。 
 何でグレオニーさんが持ってるの?
 盗まれてた? いつ? どこで?

「ちゃんと言われた通り、金を分けて持ってたんだな。偉い偉い」

 大きな手が僕の頭をぐしゃぐしゃと掻き乱す。褒められたところで何が何だかわからないし、そもそもグレオニーさんが僕を褒めること自体気持ち悪い。こんなに機嫌がよさそうなグレオニーさんも見たことなくて気持ち悪い。

 護衛は、そのまま何の説明もせずに寝台に横になろうとしている。冗談じゃない。何があったか教えてもらえないなんて、すっきりしなくてもやもやして、下手をしたら徹夜をしてしまい兼ねない。
 グレオニーさんの袖を掴んで引っ張り上げ、どういうことなのかと問い詰めた。 
 そして、ようやく聞き出せた話をまとめると。

 以前、グレオニーさんが羽振りの良い商人に旅の護衛として雇われた時のこと。
 旅の途中で、雇い主は酒場で見知らぬ女に誘われ、「邪魔だから今夜は護衛はいらない」とグレオニーさんを別の宿に泊まらせた。念のため、と宿の入口での見張りを申し出たが断られたそうだ。
 グレオニーさん曰く、

「女のほうも、甘ったるい声で『外で見張られてると思ったら気になっちゃって、その気になれな~い』とか言い出したんだ」

 主が朝起きたら財布も荷物も女も消え失せ、雇い主は一文無し。なので、報酬を貰うことができず、その場で仕事は中断。ただ働きをさせられた、とグレオニーさんはしかめ面で言葉を吐いていた。
 そして、さっきの酒場で乳でか女と偶然にも再会。女の体型、声にも聞き覚えがあって、グレオニーさんは女の誘いに乗ったそうだ。

「案の定、俺の財布もかすめ取ろうとしてきたよ。それで、あの時の女だって確信したから、この辺りを取り仕切ってるとかいう怖そうな人に引き渡してきた」

 一度会ってるはずなのに、髭がなかったから気付かなかったんだろうな、とグレオニーさんは言う。
 でも僕は、話を聞きながらイケナイ想像を頭の中で浮かべていた。

 財布を取られるように、わざと相手を油断させたってことは。やっぱり途中まではやることやってたんじゃないだろうか。
 どこかの宿に誘い込んで、そんな雰囲気に持って行って、ちゅーぐらいは絶対にしたに違いない、いやいやそれだけじゃなくて、抱きついたり、あのでっかい乳に……。うわあ、うわあああ。

「おい、なに真っ赤な顔して呆けてるんだよ。いやらしいことでも想像したか? ガキのくせに色気づいて。残念ながら、お前が想像してるようなことは何一つしてないよ」

 グレオニーさんの声で我に返る。
 考えを言い当てられて、僕は必要以上に声を荒げた。

「ち、違うよ!! ぼ、僕はそんな、あの女の人が、そんなことする人だって知って、び、びっくりして、それに僕、ガキじゃないし!」

「いい嫁さんが欲しいなら、今からでも女を見る目を養っておけよ。あんなのに騙されないようにな」

 話は終わりだ、と言わんばかりに、グレオニーさんが再び寝台に横になる。
 何となく、今の言い方に引っかかりを感じた。
 本当に何となくだけど。声がいつもと違う気がしたんだ。

 だから、僕は思わず訊き返してしまった。

「……騙されたことがあるの?」

 護衛は無言で寝がえりを打ち、背中を向けてしまう。
 やがて、しばらくしてから、

「……ないよ、別に。ほら、寝るから早く灯り消してくれ」

という気だるそうな声が返ってきた。
 それ以上追及せず、僕は言われた通りに灯りの火に息を吹きかける。

 途端に暗闇が部屋を包み込んだ。
 でももう一人じゃないから、恐怖は襲ってこない。先ほどまでは考えられなかった安堵感。
 すぐ側にいるであろう護衛の気配を感じつつ、枕に頭を埋めて目を閉じた。
 

  ◇  ◇  ◇


 騙されたわけじゃない。こっちが勝手に舞い上がって、浮かれていただけなんだ。
 レハト様は何も悪くない。

 護衛に任命された時は、下心とか邪な気持ちなんてまるで抱いていなかった。
 それなのに。

 俺は何であんな不相応な夢を見てしまったんだろう。
 どうして、もっと地に足をつけた考えができなかったのか。
 勝手に期待して、勝手に傷付いて、一人でじたばたして本当に馬鹿みたいだ。

 俺がもっと器用な性格だったら、仕事と私情は別だと護衛を続けている未来もあったのだろうか。
 あの方の盾となって。
 あの方の背中を見つめ続けて。

 ……考えても無駄だ。
 時間を戻すことなんてできないんだから。
 この不器用さは、そう簡単に変えられるもんじゃない。ここまで歳を取ってしまったら尚更だ。

 もういい。
 所詮、こういう生き方しかできない奴なんだ、俺は。
 薄汚れた雇われ護衛で結構。眩しいくらいに白く煌びやかな衛士服は、最初から俺には不釣り合いなものだった。

 つまりはそういうことだったんだ。

「手紙、書けよな」

 白い衛士服を思い出すと同時に、フェルツの姿が頭の中に蘇った。
 城を出る時、友人はそんな言葉で俺を見送ってくれたのだった。

 ハイラと違って仕事熱心だったあいつは、まだ城で衛士を続けているのかもしれない。
 まっとうな仕事で、まっとうな生き方をしているであろう、かつての友人。
 道を外さずまっすぐ歩んでいるあいつに、報告できるようなことなど何もあるわけがない。内容を偽って書いたところで虚しさが増すだけなのは目に見えている。フェルツだって、本当に送ってくると期待して言った言葉ではないだろう。あいつはそういう奴だ。

「お前、女に騙されやすそうな性格してるからな。いい感じに言い寄られたら、見惚れてぼけーっとして、財布から服から何もかもすっからかんに盗られそうだ。体に目が眩んでも、財布にはしっかり紐つけて首からぶら下げておけよ」

 むかし、お前から聞かされた忠告のおかげで、今日は色気に惑わされることなく盗人を捕まえることができたよ。
 そう手紙に書いて送ってみるか? 
 
 自嘲してから、己のあまりの卑屈っぷりに頭を掻き毟りたくなった。 
 俺はこの生活が性に合っているんだ、と普段から言いつつも、心の底では、まだ衛士でいるかもしれないあいつが羨ましくて、妬ましくて。何でも話せる友人だったはずなのに、そんな思いを抱いてしまっている自分が、見かけだけじゃなくて中身まで汚い物になり下がってしまったと感じた。

 見覚えのある盗人なんて、無視してしまえばよかった。
 長い間、奥底にしまい込んで思い出さないようにしていたのに。捕まえた女を引き渡した時に、衛士であった頃の気持ちが少しだけ蘇ってしまって、そのせいで今こうして虚脱感に押し潰されそうになっている。妙な正義感を振りかざしてあんなことをするんじゃなかった。
 
 今日もまた、眠れない夜になるかもしれない。
 眠れたとしても、嫌な夢を見てしまうかもしれない。

 暗闇をぼんやりと見つめ、雇い主に聞こえないよう小さく溜め息を吐いた。
 すると、隣の寝台から寝言のような訳のわからない唸り声が聞こえてくる。

「むにゃ……。ガキじゃないもん……ちゃんと篭りも終えた大人だもん……」

 ……でも、まあ。
 こいつの財布を取り戻せたのはよかったのかもな。

 小さな主の無邪気な寝言に、ほんの少しだけ心が軽くなった気がした。

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