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護る剣、奪う剣 <2>

2013.03.08 (Fri)
女レハト衛士、グレオニーのその後の話。
他の登場人物はネタバレになるため伏せます。 こちら反転で他の登場人物→テエロ、トッズ


護る剣、奪う剣 <2>


 正門の夜間警護の日、自分の持ち場に向かうと先に来ていたフェルツの姿があった。

「あ、今日はレハト様でしたか」

 笑顔をこちらに向けながらも相変わらずの敬語で話しかけてくる。もういちいち気にするのは止めようと思いつつも、やはり少し心が痛んだ。

「夜に就くなんて珍しいですね」

「別にそう希望しているわけじゃないんだけどね。上の人が余計な気を回してるみたい。ほんと、困ってるんだ」

「いろいろあるんですよ。上の人たちも」

「それもわかってるんだけど」

 それ以上会話は続かず、二人とも無言のまま警備を続けた。幸い雨は降っていない。天気が悪ければもしかしたらまた自分は他の人と交代させらていたかもしれない。そう想像するとうんざりしてつい溜息が出てしまった。
 溜息に気付いたフェルツがこちらに顔を向けてくる。
 しまった。嫌々仕事をしていると思われてしまっただろうか。

「……レハト様、少しお話したい事があるのですがよろしいですか。仕事とは無関係な事なのですけど」

 自分の考えは取り越し苦労だったようで、そんな風に急に彼の方から話しかけてきた。仕事の内容ではなく、こんな風に個人的な話を彼から持ち出されるのは初めてではないだろうか、と少し驚いた。

「……うん、いいよ。なに?」

「グレオニーの事なんですが」

 ああそうか、とすぐに納得する。確かに私たち二人に共通する話題など彼の事ぐらいしかない。

「多分、あいつこのまま衛士長になります。本人は何も口にしませんけど。今すぐということはないと思いますが、いずれ近い将来そうなるでしょう。最近、頻繁に呼び出されているのを見かけます」

 特に驚きもしなかった。ユリリエには言わなかったが、私はいつそうなってもおかしくないと常々思っていたのだ。実力、人柄、人望、どれを取っても申し分ない。
 ただ彼は貴族ではない、という事だけが少し引っかかってはいたのだが……。

「……彼なら爵位を与えられてそうなっても誰も反対しないだろうし、皆が納得すると思うよ。私も含めてだけど」

 素直な気持ちでそう答えた。本当に本心からの言葉だった。貴族でなくても、それを補えるくらいの物を彼は持っていると断言できる。

「そう、あいつは死に物狂いで努力してきたんです。それを俺は側でずっと見てきた。それほどまでにあいつを奮い立たせてきた理由はもちろんおわかりですよね」

「……」

「失礼を承知で申し上げますが、今はただの平の衛士と言ってもやはり貴女は徴持ちなんです。貴女を選ぶとなると周りの目も相当厳しくなってくる。相応しい身分になるために、誰にも文句を言わせなくするために、あいつはひたすら上を目指してきたんです。そして、それがもう手に届きそうなところまで来ている」

「……うん」

「土壇場になって、いきなりあいつを突き放すなんてことはしませんよね?」

 彼は少し強い口調で、そう聞いてきた。
 咄嗟に言葉が出なかった。そんな自分から目を逸らさずに彼は答えを待っている。

「……そんな風に、見えた?」

 少しの沈黙の後、絞り出すような声で私は答えた。

「間違っていたら謝ります。ただ、なんだか昔の……成人されたばかりの頃のレハト様と雰囲気が変わってきている気がしたので……」

「心変わりしたと思った」

「いえ、そういうのとも少し違います。先日も訓練場であの戯れを見せつけられたばかりですし」

「戯れって……」

 思わず吹き出してしまった。つられて彼もやっと笑顔を見せる。

「すみません、なんだか自分でもよくわからないんです。……あやふやなまま失礼な事を言って申し訳ありませんでした」

「ううん。話してくれてありがとう。……不安にさせてごめん」

「いえ、俺の勝手な思い込みです。どうも長年の癖で過保護になりすぎていたみたいだ」

そう言って、彼は苦笑しながら頭を掻いた。

「本当に苛々してました、昔のあいつには。力があるくせにそれを発揮できない、すぐに弱気になる、卑屈になる。背中ばっか叩いてましたよ」

 彼の言葉で昔のグレオニーを思い出す。試合に勝てないと落ち込む彼。出ない方がましだと自棄になる彼。
 確かに衛士頭となった今のグレオニーからはとても想像もつかないような言動をしていた。フェルツは私がここに来る前からそんな彼をずっと見てきたのだ。

「そうかと思えば突然貴女を選ぶという暴挙に出る。……すみません。言葉が悪いですね」

「ううん、気にしてないよ」

「またすぐ弱音を吐く悪い癖が出るんじゃないかとひやひやしてました。貴女を巻き込む事にもなるというのに。でも……今回ばかりは違った。自分の心配をよそにあいつはどんどん上に昇って行った。……そしてようやくここまで来ました、貴女のおかげで」

「……私は何もしてないよ」

「自分が居なきゃこいつは駄目だ、と思っていたのは俺だけだったみたいです」

 そんなことは、と言おうとしたが、それを制するように彼は笑顔を見せて言葉をかぶせてきた。

「あいつのこと頼みます、レハト様」

 そう言われて何も言えず、その場をただ取り繕うような静かな笑みを返すことしかできなかった。
 それくらい彼の言葉は重かった。私よりも彼と長く時を過ごしてきた友人。何を言ってもうわべだけの言葉になってしまう気がした。
 彼も特に私の返事を期待していなかったようで、顔を正面へと戻して警備に就く体制に戻る。
 そのまま交代の者が来るまでお互い口を開くことなく警備を続けた。


  ◇  ◇  ◇


 グレオニーと休暇日が重なり、いつものように城下町に繰り出そうという話になった。
 しかし城を出ようとした時にまた彼に呼び出しが掛かり、待ち合わせ場所を決めて先に私だけで町へと向かった。もちろん、頭には額を隠すために布を巻いてきっちりと縛り上げている。人に見られないように、というよりは、一緒に居る彼に迷惑がかからないように、という意味合いの方が大きかった。

 今日は何か小さなお祭りがあるようだ。旅一座でも来ているのだろうか。遠くのほうで賑やかな太鼓の音が聞こえてくる。いつもより人手も多い気がした。彼と決めた店の前でそんな道行く人々の往来を眺め続ける。

 突然、少し離れた所で悲鳴や怒号があがる。何事だろう、と顔を向けると一人の男がこちらに向かってものすごい勢いで走ってきた。倒れている人や叫んでいる言葉から判断すると、どうやら物盗りやひったくりの類のようだ。
 やれやれ、と溜息をつきながら素早く辺りを見渡す。武器になるようなものは持って来ていない。周りにも何も使えそうな物は落ちていない。仕方なく頭に巻いていた布をほどいて捻じりあげ、自分の前を横切る男の足に向かって素早く投げつけた。男の足に布が絡まる。派手な音と砂煙をまきあげて男が地面に転がった。すぐに追いかけてきた人たちに押さえつけられ、手足を縛られ、そのまま男は連行されて行った。

 何人かに礼を言われたが、何も言わずに笑顔で軽く手を挙げるだけで答える。
 見過ごすことはできなかったがこれ以上目立つわけにはいかない。

「ごめん、だいぶ待っただろ」

 グレオニーがしばらくしてようやく姿を見せた。走ってきたようで、少し息が上がっている。

「いや大丈夫。なんかね、今日はお祭が……」

「お前、布は?」

 言葉を遮られ、頭に布を巻いていないのを指摘されてしまった。
 しまった。彼が来る前に適当な布を買って着けておけばよかった。

「城出る時はつけてたよな? どうした?」

「……落とした」

「落としたって……そのままじゃまずいだろ。どこかで適当に買おう」

 彼に引っ張られるようにして手を引かれ、布を扱う店に連れて行かれた。
 丁度良さそうな大きさの布を選び、手に取って買おうとするといきなり横から布を取り上げられてさっさと貨幣を出されてしまう。自分で払うと抗議するも全く相手にされず、店の外に出るなり自分の頭に布を巻きつけてきた。

「まったく、腕が立つくせに変に抜けてるところがあるよなあ」

「……抜けてる? どのへんが?」

 後ろで彼が布を縛り上げる。なんだかこそばゆい気がして、そんな自分の様子を悟られないよう誤魔化すために会話を続けた。

「この間みたく、壁に髪の毛が引っ掛かったり」

「それ抜けてるって言うの? 関係ないんじゃないの?」

「剣は片づけたくせに、盾はそのまま持って食堂に来て皆に笑われたり」

「あれは……ちょっとうっかりしてて……」

「筋力つきますよって騙されて散々酒飲んでひっくり返ったり。あの時、重かったな」

「……そんな昔の事持ちださないでよ。成人したての時でしょ」

「あと、頬に文字を……」

「もういいから。ごめんなさい。もうやめてください」

「ほら、できた」

 頭を軽く叩かれ、前を歩く彼について歩き出す。
 いろいろと細かい事まで覚えている彼に腹が立つような、それでいて嬉しさがこみ上げてくるような。なんだかよくわからない気持ちになった。
 いつもそうだ。彼の何気ない言葉で仕草で、自分はすぐに混乱する。冷静になれなくなる。

「あれ、やってみるか?」

 木彫りの小さな人形が棚の上に陳列され、手前に玩具のように小さい弓が用意されている。矢が当たると景品がもらえるらしい。こちらに聞いてきたくせに、彼はもう勝手に弓を構えて夢中になっている。まるで子供みたいだ。
 そんな彼の背中を見ながら、このままこんな穏やかな時がいつまでも続けばいいのにと不意に思った。そのうち彼が衛士長になって、私もこのまま城で衛士をずっと続けて。しかし、そんな事が本当に可能なんだろうか。あんなささいな事で冷静になれなくなってしまう私が、こんなにも気持ちが揺れ動いている不安定な私が、無事何事もなく務め上げるなんて夢物語のようにも思えてきた。

「うーん……当たるのに倒れないなあ……」

 彼が腰に手を当てて唸っている。
 笑いながら彼から弓を取りあげ、
 
「頭をちゃんと狙わなきゃ。下の方が重くなってるんだから」

そう言って矢をつがえて人形の頭を狙った。
 放物線を描いて放たれる周りの矢とは違い、自分が放った矢は真っ直ぐ人形に向かって行く。矢が人形の頭に当たり、そのまま勢いよく棚からぽとりと落ちた。店の人が鈴を鳴らてし景品のお菓子を自分に渡してくる。
 彼は横でぽかんと呆けた顔をして、お菓子を手にする自分を見つめていた。

「……どうしたの?」

「……すごいな、と思って」

「徴持ちはいろいろ器用なんだよ」

「いや、確かに昔から器用だったけど。お前弓なんか……」

 喋り続ける彼の口にお菓子を放りこんでやった。目を見開いて、彼はもぐもぐと口を動かしている。

「美味しい?」

「う、うん」

 続けざまにもう一つ、口の中に押し込んでやった。
 また一つ、さらに一つ。
 口いっぱいにお菓子を放りこまれ、喋ることができない彼が自分に向かって手を伸ばしてくるもそれをするりとかわし、私は笑ってその場から逃げ出した。

 いろいろ考えてもしょうがないのだ。今さら自分の生き方を変えることなんかできないのだから。
 思い悩んで結論が出せないくらいなら、今この時を大事にしよう。彼の側に居れる今の時間を大事に過ごそう。

 追いかけてくる彼を見つめながら、そんな風に思った。

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