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邂逅<5>

2015.04.21 (Tue)
裏切りEDのグレオニー、その後のお話。

どこかで見た設定、結末、になっておりますが、目をつぶっていただけるとありがたいです…。
勝手に創作して、グレオニーが「アンタどこのどなたー!?」状態になってますので、普段のグレオニーしか認めない!という方もご注意を。
いつものごとく、オリキャラが出まくります。


邂逅〈5〉


 心が軽くなった分、少しは安眠できそうだと思ったのも束の間。妙な音が聞こえた気がして浅い眠りから目覚めてしまった。
 そのまま、寝台の中でじっと動かずに耳をそばだてる。

 そんなに近くからではない。おそらく屋外から聞こえてきた音。
 ……普通の歩き方じゃない足音だ。なるべく音を立てないよう、慎重に移動してる。砂利を踏み潰してる音。枯れ葉を踏み潰している音。三人? いや、四人か?
 こんな夜中に、こんな不自然な歩き方。窓の鎧戸をほんの少しだけ開けて外の様子を窺ってみた。人影は確認できなかったが、灯りを見つけることもできなかった。

 夜道を灯りも持たずに出歩く奴らなんて、どう考えても普通の者とは考えにくい。
 自分たちとは無関係な輩かもしれない。だが確認しておくに越したことはない。
 
 隣に視線を移すと、小さな主は掛け布を蹴飛ばした状態で芸術的な寝相を披露していた。
 起こさないよう、そっと部屋を後にして鍵をかける。廊下の灯りは既に消されており、廊下も階段も暗闇に包まれていた。ここに足を運ぶ途中、念のために間取りは頭に叩き込んである。灯りなしでも何とか手さぐりで移動はできる。

 階下に辿り着くと、入口付近だけにぼんやりと灯りがついていた。そのすぐ側で宿屋の主が真っ青な顔で震えている。
 俺の存在に気付いた途端、宿屋のおやじは助けを求めるように口をぱくぱく開け閉めし始めた。しかし声は出ていない。恐怖で出ないのか、何者かに脅されて出せないでいるのか。どちらにせよ、あまり良い状況とは言い難い。
 
 嫌な予感が的中してしまって、思わず舌打ちする。
 あの女。単独犯だと思い込んでいたが、他にも仲間がいたのか。よくよく考えればこうなることも予想できたはずだ。
 調子に乗って身の丈に合わないことをするから、こういう羽目になる。やっぱり首を突っ込むべきじゃなかったんだ。

 溜め息を吐いて、出入り口へと歩を進めた。宿屋のおやじがこけつまろびつ俺の足下に縋りついてくる。そして無言で、しきりに外へと指をさして声にならない悲鳴を喉から発していた。曲者どもは外で待ち構えているということらしい。とにかく、宿に被害がなくて良かった。

「ご迷惑をかけて申し訳ありません。手早く片づけてきますから。俺が出たら、すぐに鍵をかけてください」

 宿主に小さく囁き、提げている鞘の位置を確認してから外へ出た。
 宿の周りもほのかな灯りで照らされていたが、やはり人影は見当たらない。しかし一歩足を踏み出すと同時に、何かの衝撃音が頭上から降ってきた。途端に闇が襲いかかる。どうやら灯りを壊されたらしい。

 敵には自分の位置が知られているとわかっていても、下手に動かないほうがいいと判断した。
 耳に神経を集中する。 
 手に馴染んだ柄の感触。
 抜くにはまだ早い。まだだ、まだぎりぎりまで抜くな。
 生ぬるい風が頬を撫でた。
 こめかみから、気持ち悪い汗が伝ってくる。
 右手に人の気配。
 息遣いらしきものが聞こえてくる。 
 空気が動いた。
 踏み込んでくる足音。
 左側からも。
 右のほうが早い。こっちが先だ。

 次の瞬間、闇の中で断末魔が響き渡った。


  ◇  ◇  ◇


「うっわ……眩しいって。起きるよ、起きるってば。もう少し窓を閉めてくれ」

「グレオニーさんが寝坊なんて珍しいね」

「まだ寝坊って時間じゃないだろ?」

 護衛はぶつくさ言いながら、しかめ面を浮かべ、指でこめかみを押さえていた。
 寝坊するのも珍しいけど、こんな仕草をするのも珍しい。もしかして具合が悪いんだろうか。昨夜、寝る前はいつもと変わらない感じに見えたけど……。

「……どうしたの? 頭、痛いの?」

「いや、大したことない。ちょっと眩しくてくらくらしただけだ」

「……ほんと?」

「本当だって。ほら、もう出るぞ。さっさと顔洗って、荷物まとめて」

「寝坊しといて、何が『もう出るぞ』だよ。ご飯ぐらい食べさせてよ。お腹ぺこぺこだよ」

「宿のおやじさんに言えば用意してもらえるだろ。もらってこいよ」

「グレオニーさんは? 食べないの?」

「俺の分ももらってきてくれ」

 そう言って、機嫌の悪そうな護衛は再び寝台にゴロリと横になってしまった。
 雇われのくせに、しかも寝坊をしておきながら主をこき使うなんて。まったく、なんてふてぶてしい。
 でも、もしかしたら本当に具合が悪くて、それを隠しているのかもしれない。僕が問い詰めたところで、この護衛は決して本心を明かさないだろう。グレオニーさんって変に意地っ張りだし。頑固だし。大人げないったらありゃしない。
  
 横になっている護衛を置いて、僕は仕方なく朝食を求めに部屋を出た。
 値段が値段だから、きっと朝ご飯の内容も期待しないほうがいいだろう。まあ仕方ない。パンが固かろうが、量が少なかろうが、食べれるだけでも幸せと思おう。あんまり量が少なかったらグレオニーさんの分を僕の皿にちょっとだけ移しちゃえ。僕を使いっ走りにした罰だ。

 おじさんは宿を出ていく客の対応に忙しそうにしていたが、僕を見つけるなり、顔をぱあっと輝かせて駆け寄ってきた。

「やあやあ、起きたのかい? あっ、朝ご飯だね。ちょっと待ってな」

 奥に引っ込み、やがて再び姿を現したおじさんは、ものすごく豪華な朝ご飯を抱えていた。
 どう考えても宿代に釣り合わない。

「……すごく、気前の良い宿なんですね。ここ」

「いやいや、お礼も兼ねてるんだよ。遠慮せずにたっぷり食べな。あの護衛さんにもよろしく言っておいてな」

「お礼?」

 訳がわからず、おじさんに詰め寄るも、「昨日、ちょっとね」だの「生きた心地がしなかったよ、助かった」だの、はっきりと理由を教えてくれない。でも本当は喋りたくて喋りたくてウズウズしているのが丸わかりだった。
 だいぶ時間をかけて昨夜の出来事をやっと聞き出し、

「坊っちゃんには言うなって釘を刺されてたんだ。俺が喋ったって内緒にしてくれな」

と、おじさんは言った。

「いい護衛を見つけたね。あんなに腕が良い人、そうそう居ないよ?」

 おじさんのその一言で、さっきまで少しだけ苛々していた僕の胸の内が、すっきりと晴れ渡った。
 褒められたのは僕じゃないけど、やっぱり嬉しい。誇らしい気持ちで満たされて、思わず顔に笑みを浮かべてしまう。
 
 ニヤニヤしながら、朝食を落とさないように、それでいて飛び跳ねるように階段を上った。
 途中、こめかみを押さえていたグレオニーさんの姿を思い出す。

 ……怪我をした様子は無かったけど。やっぱりどこか具合が悪いのかもしれない。悪い人と打ち合って、頭をぶつけたのかもしれないし。もしくは……。
 うん。この先、少しでも様子が変だったら、有無を言わさず休ませよう。きっとあの護衛は突っぱねるに違いないけど。いざとなったら、医者の元へ引っ張っていく必要もあるかもしれない。

 皿にてんこ盛りになっている食材。そのうち一つは、昨夜の酒場でも口にしたが、とても美味しくてほっぺたが落ちそうな果物だった。
 僕は自分の皿から少しだけ果物を摘み、グレオニーさんの皿へと移した。
 

  ◇  ◇  ◇


 それから数日かけて、王都とほぼ目と鼻の先という街まで辿り着いた。
 今のところ、グレオニーさんに変わった様子は見られない。いつも通り口数が少なくて、それでいて僕をちゃんと護りながら仕事をこなしていた。
 
 それでも僕の不安は拭い去れない。この護衛ときたら、どこでそんな技を身に付けたのか知らないが、自分の内情を隠すことに長け過ぎているのだ。毎日毎日、じっと観察していても、何を考えているのか未だにさっぱりわからない。
 思わず、とか。つい、とか。
 そういうところがほとんどないんだ。
 いったい、どういう生き方をしてきたらこんな風になるんだろう。常に、何か冷めた感じというか。世捨て人っぽいというか。実際に「世捨て人」っていう人を見たことはないけれど。

 考えれば考えるほど、僕の心も暗くなってくる。
 とにかく、あんまり幸せそうな生き方をしてこなかったんだ、ということは確かな気がするから。

 そんな時。ますます僕の心をどん底に陥れる事態に遭遇してしまった。

「あれっ。お前、こんなところで何してるの? ああ、親父さんのところにおつかいか?」

 よりによって、一番会いたくない奴に会ってしまった。
 僕と同じ街で生まれ育って、僕と同い年で、そのくせ背が大きくて性格が悪くて、昔からそりゃもう大大大っ嫌いな奴。商売人の息子という同じ境遇のせいか何なのか、こいつはいつも僕を見つけるなり馬鹿にして絡んでくるのだった。

「歩いてきたの? ここまではるばると? いやー、貧乏人は大変だねー。鹿車も乗れないのか。ご苦労なこった。俺もさー、親父と一緒に王都に向かってる途中なんだけどさー。ほら、うちってやっぱフィアカントの店がいちばん大きいじゃん? 今からいろいろ経験しておいたほうがいいって親父がさー」

「……」

 うちの店と違って、こいつの店は僕の街でも一、二を争うくらいの大きな規模を構えていた。他にもあちこちと支店があるらしい。でも、品の質で負けていると思ったことは一度もなかった。
 
 あんなの、ぼったくりに近い品物じゃないか。見てくればっかりゴテゴテして。ちょっと使ったらすぐに壊れちゃうんじゃないの? 一度でも手に取ってみればすぐにわかるよ、作り方に手を抜いて、材料も悪いものばっか使ってて。
 どれだけ貴族にお得意様がいるか知らないけど、僕のところの品だって、いっぱい喜んでくれるお客さんがいるんだ。応援してくれる人がたくさんいるんだ。

 でも、意気地無しの僕は、いつも言いたいことを何も言い返せない。

「そっちの人、なに? もしかして護衛?」

 ねちねちと僕に向けられていた攻撃が、隣の護衛に移った。グレオニーさんは無言で一礼を返す。
 こんな奴に頭なんか下げなくてもいいのに。
 グレオニーさんの立場上、仕方ないとわかっていても腹立たしさから勝手なことを考えてしまう。

「きったねー護衛だなあ。貧乏だからそんなのしか雇えないのか。うわあ、かわいそー」

「……っ!」

「俺んとこの護衛、見る? ほーら、めっちゃ強そうだろー。そっちの頼りなさそうな護衛と違ってさ。昔、お城の衛士だったこともあるんだぜ、すげえだろ」

 何なんだよ。もうどこかに行ってくれよ。
 どうして、こうやっていつも僕に絡んでくるんだ。そこまでして優越感に浸りたいのか。お前が一から築いたものなどひとつもないくせに。全部、親が用意してくれたもののくせに。
 隣の護衛の様子を見ると、あんなことを言われたというのにグレオニーさんは普段と変わらない表情だった。それを見て、僕も少し冷静さを取り戻す。
 そうだ。こんな奴、放って逃げ出せばいい。グレオニーさんにこれ以上嫌な思いをさせるわけにいかない。早く、早くこいつの見えないところまで……。

「ああ、でも貧乏なのも仕方ないよなー。お前のうち、厄介者の金食い虫がいたから……」

 場を去ろうとした僕の足が、その言葉で凍りついた。
 あまりの怒りに何が何だかわからなくなる。目の前が真っ赤に染まった感覚に囚われた。
 息が苦しい。
 胸が苦しい。
 手足が震えて、倒れずに立っていられたのが不思議なくらいだった。
 懐に隠していた短剣に手が伸びる。だが、すかさず大きな手に動きを阻まれた。

「やめとけ」

 グレオニーさんが耳元で小さく囁いてくる。その声が引き金となって、僕の目から大量の涙が溢れ出てしまった。
 情けない僕の姿に、ここぞとばかりに相手の攻撃が激しさを増す。

「相変わらず泣き虫だなあ。成人してもちっとも変わらねえのな。お前みたいな情けない奴には、そういう薄汚れた護衛がお似合いだよ。こいつさー、なんかぼんやりした感じだけど、ほんとに護衛なの? ちゃんと戦えるの? 剣とか持ってんの? お前、騙されてんじゃねえか? 見る目がないから商売もうまくいかなくて貧乏なままなんだよ、気の毒にねー」

 悔しい。悔しい。
 何か言い返してやらないと気が済まない。
 何にも知らないくせに。
 僕のうちが、今までどんなに大変な状況だったか。
 グレオニーさんがどれだけ仕事熱心なのか。危険な目に遭いながら仕事を全うしてくれていたのか。
 何にも、何にも知らないくせに!

「なんだよ、その目。やる気か? お前の護衛とこっちの護衛、どっちが強いだろうなあ? ええ?」

「うるさい!! うちには厄介者の金食い虫なんていたことないし、グレオニーさんは優しいし、僕をすごく気遣ってくれてるし、それにそれに、すっごく強いんだ!! 元衛士だか何だか知らないけど、グレオニーさんが負けるもんか!!」

「なんだと!?」

「そもそも、護衛なんかに頼ってないでお前自身が向かってきたらどうだ! 剣も扱えないくせに、自分ひとりじゃ何にも出来ないくせに!!」 

 最後は絶叫に近い声で、僕は怒鳴り続けた。
 涙で視界がぼやける。憎たらしいあいつの顔ももう見えない。
 
 自分ひとりじゃ何にもできない。それは僕も同じだ。
 体が小さくて。護衛を雇わないと旅をすることもできなくて。もの知らずで、臆病で、成人したと言っても篭り前と何にも変わってない。
 偉そうに怒鳴ることができる立場ではないのに、でも、言わずにはいられなかった。

 騒ぎが大きくなる前に、僕はグレオニーさんに引きずられるようにしてその場を去った。途中、何かを叫んだ気がする。めちゃくちゃに暴れた気もする。でもよく覚えていない。
 気がつけば、宿の一室で泣きじゃくる僕に、グレオニーさんが目線を合わせてしゃがみ込んでいた。

「悔しい! 悔しいったら悔しい!! 何が元衛士だよ、あんな筋肉の塊みたいな人、気持ち悪くて連れて歩きたくなんかないよ!」

「おい、いい加減に落ち着けって」

「だって、だって……!!」

「……あの人、多分だけど元衛士だっていうのは違うと思う。経歴を偽ってるか、お前の友達が大口叩いてるか、どっちかだと思うよ」

「なんでグレオニーさんにそんなことわかるのさ! いいよ、別に気休め言ってくれなくても! それに友達なんかじゃないよ、あんな奴!!」

「……ごめんな。俺のせいで」

 怒鳴り声を遮るように、か細い声が割り込んできて、思わず僕のしゃくり上げが止まった。
 グレオニーさんが謝るなんて。びっくりを通り越して、息が止まるかと思った。
 我に返って護衛に視線を向けると、グレオニーさんは今まで見たこともないぐらいに顔を歪ませていた。罪悪感で胸が締め付けられ、止まっていた涙がまたまたこぼれ出す。

「ち、違うよ。グレオニーさんは何も悪くないじゃないか。安い報酬なのに、ちゃんと仕事してくれてるし、ちゃんと僕を護ってくれてるし、ぼ、僕、グレオニーさんが護衛でよかったって思ってるんだよ? ほんとだよ!?」

 しばらくの間、僕の鼻を啜る音だけが部屋に響く。
 本心には違いないけれど、言った後で恥ずかしさがこみ上げてきた。きっと僕の耳も顔も、真っ赤になっているんだろう。泣きすぎて頭も痛いし、鼻が詰まって苦しいし、なんだかもう、いろいろとぐちゃぐちゃだ。

 部屋が暗くなってきた頃。ようやく僕の気持ちも落ち着いてきた。
 僕が泣いている間、ずっとグレオニーさんは黙って側にいてくれた。そして、たった一言、

「ありがとな」

ぽつりと呟き、俯いていた護衛の耳も僕と同じ真っ赤に染まっていた。 
 
 この人、きっとすごく照れ屋なんだ。
 僕は、また護衛の新しい一面を発見したのだった。

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