スポンサーサイト

--.--.-- (--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

私情

2015.05.12 (Tue)
勢いだけで書いてしまった。ちょっとそれは無理があるんじゃないかい…?という非難は百も承知だ。
でも思いついたら我慢できなかったんだ。

ネタバレになるので、登場人物は伏せます。
そういうつもりで書いてはいませんが、読む人によっては「アッー」な話に見えるかもしれません。
いつものように胸糞展開ですのでご注意を。


文字反転で言い訳→小麦畑さんの雑文にて、「フェルツはグレオニーと同じ衛士階級出身」というのを見逃していました……!なんたる不覚……っ!!
ぱ、パラレルってことで、広い目で読んでくださると嬉しいです……。



私情


 こんにちは。いや、こんばんは、かな。
 窓が無いんで、夜と昼の区別もつかなくてね。最初の頃は退屈しのぎに鐘の音と日にちを数えてたんですけど。それもだんだん億劫になってしまって。
 
 で、何をしにいらしたんです? もしかして、やっと口封じの命が下りました? 
 待ちくたびれちゃいましたよ、いつになったら楽にさせてくれるのかって。
 なるべくお手柔らかにお願いしますね。ここに入れられる前にも散々いたぶられたんですよ。傷が膿んで眠れなくて、辛いのなんのって。ほんと、どいつもこいつも容赦ないですよねえ……。まあ、それだけのことをしたんだから当たり前か。

 ……何であんなことをしたのかって……。そんなの聞いてどうするんですか。
 俺が何を言ったって、貴方がたの都合の良いように事実は塗り替えられて、そして城は平穏な日常を取り戻す。時間の無駄ですよ。
 それとも暇なんですか? 個人的な好奇心とか?

 心配しなくても、俺がやったっていう証拠は残してませんよ。
 衛士も侍従も、誰も気付いてないはずです。姿を見られるようなヘマなんて俺がすると思います?
 だから、どうぞ安心して厄介者を排除してください。俺がいつまでも生き残っていたら、貴方がたもいろいろと都合が悪いでしょう?
 
 ……わかりましたよ。
 俺みたいな失敗作をまた生み出さないためにも、教育の過程を見直す必要があるでしょうし。似たような奴が現れたら早めに「不要」と判断して始末するべきだっていう教訓にでもしてください。
 まあ、今後の組織のためになる話とは、俺にはとても思えませんけどね。

 
  ◇  ◇  ◇


 俺がここに来て、何年経ちましたっけ。
 
 懐かしいですねえ。貴方と一緒に訓練した期間はほんの少しでしたけど。
 気付いてました? 俺、あの頃は心の中で貴方のことを相当馬鹿にしてたんですよ。ああ、気付いてましたか。やっぱりね。
 だってそうでしょう? 確かに物覚えが良くて頭は切れるかもしれないけど、その腕力と剣の扱いの下手さ加減といったらもう。こんなひ弱な奴でも、「不要」扱いされないで組織の一員になれるんだって、上の人たちに不信感を抱きましたよ。そりゃあその辺の普通の人に比べれば少しは強いんでしょうけど。先輩方が言うほど、ここって大した組織でもないのかなって子供心に思ったもんです。

 俺は剣術の腕を褒められることが多かったんで。そう、貴方が尊敬してらっしゃるローニカさんにね。
 俺が褒められている時の貴方の顔ったら怖いのなんのって。そのたびに優越感に浸ってました。貴方より役に立つ位置に配置されるのかな、と期待に胸膨らませて、城に上がる日を指折り数えて。
 
 上手くやっていけるか、不安ももちろんありましたけど。居もしない家族構成やら親戚やらを頭に叩き込んだり、偽りの経歴を覚えるのに精一杯で、それどころじゃなかったって感じかな。
 そうして準備万端で城に行ったら、貴方がちゃっかり医士の地位に納まってるんですから。驚きましたよ。適材適所というか、うまくやったもんだなあと。逆に貴方はいつもの涼しい顔で怪我をした俺の手当をしてくれて。あの時の手当て、結構いい加減で乱暴でしたよね。覚えてますよ、ちゃんと。

 とにかく、なるべく目立たずにいようということだけは気を付けてました。
 あんなに苦労して小さな頃からいろいろな術を身に付けたのに、城の人たちに正体がバレて、貴方がたにあっさり殺されでもしたらたまったもんじゃないですから。
 それなりに与えられた仕事をこなして。
 貴族に目を付けられないよう、出世も御前試合も興味ございませんってな感じに装って。
 同僚たちとの付き合いも、不自然にならない程度に留めて。
 でも、なるべく一人になるように行動してました。「あいつは一人で居るのが好きみたいだ」と周りに思われていた方が何かと都合が良いですし。

 穏便に、のんべんだらりと、そうやって死ぬまで城で過ごすことになるんだろうなあってぼんやりと思ってました。

 でも、たった一人だけ。
 こっちの意思に構わず、ぐいぐいと俺の領域に踏み込んでくる奴が居たんです。

「こんなに頑張ってるのに、どうして勝てないんだろう……。なあ、どうしたらいいと思う?」

「お前も今から休憩か? じゃあ一緒に飯食べよう」 

「悪いけど練習に付き合ってくれないか」

「また先輩に怒られた……。よし、飲もう。飲みに行こう。そんな顔するなよ、頼むから俺の愚痴聞いてくれって」 

「……俺、衛士に向いてないかもしれない……」
 
 同い年で、同期で、よりによって部屋も同じで。
 貴族の出身じゃないっていう経歴も、向こうにしてみたら親近感を抱く要素になったみたいです。まあ、その経歴も全部嘘っぱちで、全部上の人から与えられたものなんですけど。もちろんそんなことを言えるわけもないし。
 やたらと話しかけてきて、勝手に悩みを打ち明けてきて、大した助言をしたつもりもないのに、

「やっぱりフェルツは頼りになるなあ。いつもありがとな」

と、心底嬉しそうな顔をする。

 そんな風に他人から頼られるっていう経験が今まで無かったんだって、しばらくしてから初めて気付いたんです。普通の人と違って、とてもまともじゃない未分化時代を過ごしてましたからね。
 組織の「仲間」と呼んでる奴らとも慣れ合おうとせず、その必要性も感じたことがなかった。どいつもこいつも、道具のように使いまわされていつ死ぬかわからないんだから。仕事だけきっちりとこなせればいい。信用、なんて言葉は頭がおめでたい奴しか使わないものなんだって思ってました。

 最初は適当にあしらってたんですよ。
 でも、あいつは、グレオニーは、本当にお人好しで。馬鹿がつくほど真面目で、何に対しても全力で、そしてすぐにつまらないことで落ち込んで、こんな俺を心の底から信用しきって頼ってくる。
 
 あいつが、御前試合で初めて一回戦を突破した時。そりゃあもうこれ以上はないってぐらい嬉しそうな顔をしててね。
 俺に礼を言ってきたんです。
 息を切らして駆け寄ってきて。「お前の助言のおかげだから、飲みに行こう。奢るよ」って。お祝いなんだから、奢る立場なのはこっちだろうと言っても、いいからいいからと財布を出して譲ろうとしない。

 こいつとなら「友人」という間柄になれるかもしれない。いつしか、そう思うようになりました。
 こっちは生涯言えない秘密を抱えているけれど。でも自分なりに誠意を持って接しよう。あれだけ散々馬鹿にしていた「信用」という言葉も、グレオニーに対してなら躊躇なく使うことができる。そんな心境の変化に、自分でも驚きました。

 まともな親が居て、兄弟が居て、惜しみない愛を一身に受けて。
 そういう生き方をしてきた奴は、こうやっていとも簡単に他人を巻き込んで、周囲を穏やかな空気に変えてしまう。
 不思議なもので、妬みとかそういった感情は湧いてきませんでした。人徳ってやつなんでしょうかね。俺も貴方も到底手に入れられそうもないシロモノですけど。

 そんな平穏な日常を過ごしていた時に、新たな寵愛者のご登場ですよ。
 そう。ちょっと訓練しただけで御前試合の優勝をもぎ取ってしまった、あの化け物。

 グレオニーも妙な新参者なんて放っておけばいいものを。変に関わったりするからあんなことになる。
 何度も忠告しました。
 気にするな。聞く耳を持つな。
 お前はお前だ、人にはそれぞれ見合った進み方っていうものがあるんだ。焦るな。自分を見失うな。

 でも、俺の言葉は届かなくて。
 あいつは馬鹿な挑発に乗って試合に出てしまった。
 そして……。

 そして、俺は初めての「友人」を失いました。
 処刑、ではなく、城から追放になったと聞いた時は、あの寵愛者も人並みに情け深い心を持ってる人なんだなと驚きましたよ。何が気に食わなかったのか知りませんけど、寵愛者のグレオニーへの絡み方は傍から見ても異常でしたから。これ幸いとばかりに、「罪人は即刻排除」と周りに吹き込むと思い込んでました。
 
 やがて年が明けて、その大いに情け深い寵愛者様はヴァイル様を差し置いて、王を継承して。
 俺の新たな主になってしまったわけです。
 俺は、あの方の手となり足となり、命を遂行しなければならない立場になって。そりゃあ嫌でしたよ、何が悲しくて、気に食わない人のためにへこへこ頭を下げて命をかけて危険な仕事をしなきゃならないんだって。でも、城から、そして貴方達から逃げ出すことができるわけもないし。
 それに、どこでどう媚びを売っていたのか知りませんけど、新たな王は「まさに王に相応しい人格者」と皆からの評判も上々でしたしね。もちろん衛士たちを除いて、ですけれど。いろんなことに目をつぶれば、まあこのまま仕えていてもいいか、ぐらいに思ってました。私情を押し殺して、せいぜい消されてしまわないよう仕事に励もう、って。
 心からの忠誠を誓うのは難しいけれど、上手く立ち回って不興を買わないよう気を付けていれば、ここでの生活は死ぬまで保障されているわけですし。

 俺、あいつが城を追い出されてから、こっそり行方を捜したんです。
 故郷にも戻らず城下町をフラフラしてて。でもちゃんと生きていたことにほっとしました。俺みたいな下っ端には報告が来ていないだけで、貴方がたに既に始末されたのかもしれないと思っていたから。

 グレオニーは殺されずに済んで、衛士の道は断たれてしまったけど、これから別の幸せな人生を歩む可能性だってある。
 よくよく考えれば、あいつの性格からして城を出て正解だったのかもしれない。
 
 自分が唯一の友人を失ったことなんて、些細なことだと思ったんです。 
 
 みなしごの俺を、こうして人並みの生活ができるまでに育ててくれた組織の奴らに、少しは感謝の気持ちもありました。
 俺なりに、恩に報いたいと思っていたんですよ、これでも。
 自分の仕事は国を治めるために役立っているという自負もありましたし。
 
 そして先日、陛下はわざわざ俺を指名して命を下しました。
 グレオニーを捜して始末して来いと。

「傷が消えないのよ。あいつに付けられた傷が。いつまで経っても。
 もうすっかり治っているはずなのに、ずきずきと痛むの。
 私の体に傷をつけたあいつが許せないの。

 あなたの主は、私でしょう?
 あなたは私のおかげで生きていられるのでしょう?
 命令に背いたら、どうなるかわかっているわよね?」

 叫んでいる陛下を見て、やっと気付きました。
 この人は、恩情でグレオニーを処刑しなかったんじゃない。
 そんな易々と楽にしてたまるものか。
 もっと苦しむ方法で山に送ってやる。
 私に傷を付けた罪は処刑なんかじゃ生温い。思い知らせてやる。信じていた友人に裏切られて、絶望に打ちのめされながら汚い血を流せばいい。  
 そう思っていたから、わざわざグレオニーを告発しなかったのだと。
 
 友人をこの手で殺すか。
 もしくは死を選ぶか。

 そのどちらでもない道を俺は選択しました。
 これが、陛下を殺害した理由です。

 別に、俺は殺されても良かったんですよ。狂ったようにグレオニーへの恨みつらみを吐いている陛下を見て、生涯お仕えしようという気はすっかり失せてしまいました。
 でも、俺が殺されたところで、陛下はまた別の人に命令するに決まっているでしょう?
 仕方がなかったんです。
 あいつを守るには、これしか方法がなかった。

 俺は今まで、陛下のため、城のため、それが巡り巡って国のために剣を振るってきました。
 だから、一度くらい自分のために剣を使ったっていいんじゃないかと思ったんです。

 貴方にだって覚えがあるはずだ。ねえ、テエロさん。 
 あのヴァイル様を斬ってしまった衛士、貴方がやったんでしょう? みんな知ってますよ。王の手足となるべき道具が、自分の判断だけで私情に駆られて刃を下ろした。本来ならば許されない行為ですよね。なのに貴方はそうしてのうのうと生き残って、もしかしたら今後の組織を統括するかもしれない立場に居る。
 別に非難しているわけじゃありませんよ。もう少し冷静でいられたら、俺もテエロさんのようにもっと上手く事を運べたのかなあって。ちょっと焦り過ぎちゃったなって反省しているだけです。

 後悔はこれっぽっちもしてませんけどね。


  ◇  ◇  ◇


 さあ、気は済みました?
 またそんなしかめっ面で……。だから時間の無駄だって言ったでしょう? 本当に昔っから頑固で頭でっかちなんだから、貴方って人は。

 そうですね。陛下を殺した後、逃げようと思えば逃げることも可能だったかもしれません。でも、逃げたところで、また名を偽って、経歴を偽って、貴方がたから逃げ続ける生活なんてまっぴらごめんですし。そこまでして、生き続けたい気力も根性も、俺にはもうないんです。
 
 ほら、もう無駄話はいいでしょう?
 貴方の得意な毒で終わりにしてくださいよ。

 ああ、そうだ。
 ローニカさんにお詫びしといてください。あれだけ世話になったのに、不出来な弟子で申し訳ありませんでした、って。
 頼みましたよ、テエロさん。

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。