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意地、その後

2016.01.16 (Sat)
なんとなく、「意地」のハイラのその後を書きたくなって勢いで書いた。
しかし勢いのみで書いたので未完。
この続きはどうなるんじゃい!ちゃんと終わらせてから載せんかい!!
って怒らない心の広い方だけどうぞ(笑)


「意地、その後」


「最近のハイラ、やっぱり変だよ」

「どのへんが」

「なんか……気持ち悪い。こうやって二人で街をぶらついて、何が楽しいの?」

「気持ち悪いとはずいぶん失礼なお言葉ですね、寵愛者様。休日の昼間っから部屋に閉じこもってるより、よっぽど健康的な過ごし方でしょうが」

「ねえ。もしかして、まずい病気にでもなった?」

「まずい病気って何さ」

「そりゃあ、アレが痒くなったり、痛くなったり」

「……おかげさまで、体はすこぶる良い調子でございますよ」

「ほんと? 怖くて医者に行けないなら、ついて行ってあげようか?」

「……」

 デリカシーのかけらもない。彼女なりに気を遣っているのかもしれないが、私にとっては溜め息の原因にしかならない会話ばかりが長々と続く。

 指一本触れずに、という私の決意は、自分でも驚くほど奇跡的に長続きしていた。
 予め寵愛者様の休日を調べ、紳士的にお誘いし、街を歩いたり食事を共にしたり。今までは親の脛かじりで平の衛士らしからぬ豪遊っぷりを常としていた私だったが、決意した翌日に「もう仕送りは必要ありません」という断りの鳥文を飛ばした。親の金で彼女への贈り物を買うだなんて、みっともなくて冗談じゃない。
 衛士の給料だけでも何とかやりくりはできる。そもそも、普通の生活を送っていれば十分に蓄えを残せるほどの額を貰っているのだ。

 問題は、私の周りにはありとあらゆる誘惑が多いことだった。

 日ごろの行いが災いし、
「ハイラ様、今夜わたしの店にいらっしゃらない?」
「今日、旦那が居ないの」
「寂しい……」
と、今まで手を付けてきた女たちが隙あらば肌を押し付けてくる。
 こんな所を寵愛者様に見られたらたまったものではない。いや、見られたところで向こうはいつものことだと気にも留めないのだろうが。それはそれで腹が立って、こちらの精神的にも大変よろしくない。

 日を増すごとに私の欲求不満は募っていく。これほど長く禁欲的な日々を過ごすのは初めての経験で、予想をはるかに超えた辛さで頭がおかしくなりそうだった。迫ってくる女に「お願い」だなんて強引に誘われたら、その場で押し倒してしまいそうな衝動と戦い続けるのにも限界を感じていた。

「やっと自分の罪な行いを悔い改める気になったのか? 偉い、偉い」

 夜遊び、火遊びを止めた私に、グレオニーは屈託のない笑顔を浮かべてそんな言葉を吐いてきた。偉そうに、うんうんと頷きながら私の頭を撫でてくる。
 世の男たちは、こんなにもつまらなくて刺激のない日々を苦痛とも感じず過ごしているのか。信じられない。何が楽しくて生きているんだろう、と友人の笑みを見つめて思ったものだった。

 そして爆発寸前の私に、寵愛者はこれまた空気を読まない行動で私の心をかき乱してくる。

「ハイラ、ごはん口についてるよ」
と、私の頬にそっと触れ、
「何読んでるの?」
と、胸の谷間を見せつけて私の手元を覗き込み、先日に至っては、
「ハイラって、いつもいい匂いさせてるよね。何の匂い? 香油?」
と言い、鼻をひくひくさせながら身体を密着してきた。
 鼓動が速くなるだけならまだしも、彼女の体臭が漂ってきた途端に下半身が熱くなってきたのには、さすがに自分で自分が情けなくなった。

 もういやだ。
 こんなみっともなくて余裕のない私なんて私じゃない。
 でもこっちが先に折れるのもプライドが許さない。
  
 私が彼女に体を求めなくなると、向こうからも誘ってくることは徐々に無くなっていった。寵愛者が何を考えているのかまではわからないが、とりあえず彼女が私の気持ちに気付いている様子は今のところ全く見られない。
 底知れぬ鈍感女なのか。
 それとも、実は気付いていて気付かない振りをしているのか。
 胸の谷間を見せつけたり密着してくるのは、そんな私を振り回しているつもりなのか。
 
「あ、降ってきた」

 頬に水滴を感じ、空を見上げるといつの間にかどんよりとした雲が広がっていた。ぽつりぽつり、と遠慮がちだった雨は、またたく間に勢いを増してくる。
 街を歩いていた周り者たちも、皆が慌てて雨を凌げる場所へと駆け出した。
 私らも、とりあえず店の軒先で雨宿りを……と思って振り向くも、寵愛者様はきょとんと立ち尽くして駆け出す様子がない。
 
「何してんの。ほら、早く。ずぶ濡れになっちゃうでしょ」

そう言って、ぼんやり立ち尽くしている彼女を急かしたが、

「少しくらい濡れても平気だよ。このまま歩いて城に帰ろう?」

 返ってきた言葉に、がっくりと力が抜けた。長い長い溜め息が口から漏れ出る。
 ああ、そうですか。いつ止むかわからない雨を私と眺め続けるなんて時間の無駄だとでも言いたいわけですか。濡れてもいいからとっとと帰りたいわけですね、はいはい。ほんとに可愛げがなくて情緒もへったくれもない女だね、まったく。

「あんたがよくても私は濡れたくないの。ドロドロの中を歩くなんて冗談じゃないよ。いいから、ほら。こっち」

 寵愛者の腕を掴んで引っ張り、少し先にある店を目指す。
 二人で軒先に潜り込むと雨の音が一層激しくなった。彼女はと言うと、まだ何とかして帰ろうとしているのかぼんやりと遠くを見つめている。こちらを振り向きもしない。一言も言葉を発さない。

 そっと盗み見た彼女の横顔はやはり綺麗だった。
 雨の中を走ったせいで多少髪が乱れていたものの、ここ最近お目にかかれないそんな珍しい姿が、却って色気を際立たせているような気がした。
 濡れた髪が頬に張り付いている。
 髪の先端から水滴が滴り落ちた。
 それを見て、行為中に汗を滲ませていた彼女を思い出す。

 私の上に跨った寵愛者は、あの時も首筋にほつれた髪がぴったりと絡みついて女性特有の体臭を漂わせていた。
 切なそうに私を見下ろす顔。
 動きに合わせて荒く吐き出される息。
 お互いの体が次第に湿り気を帯びて……。

 かつてのいかがわしい行為を思い出すと、あの匂いを再び感じたくてたまらなくなった。触れたい。抱きたい。体が疼く。手を伸ばせば届く距離に居るのに何故こんな我慢をしなければいけないのか、自分が抱いた決意が急に馬鹿馬鹿しいものに思えてきた。

「もっとこっち寄らないと濡れるよ」

 肩を抱いて引き寄せても、彼女は抵抗しなかった。抵抗もしないが反応もしない。彼女の視線は相変わらず風景に奪われている。
 腹が立つ。
 そんなにも土砂降りの雨が気になるのか。この、隣に居る男よりも?
 なんでこっちを見ないのさ。
 なんでそんなに早く帰りたがるのさ。
 私のどこが気にくわないっての? 
 あんた今、私と体をくっつけてる状態でいったい何を考えてんの?

「無理」

 突然、私が意味不明な言葉を発したことで、寵愛者様はやっと視線をこちらに向けた。当たり前だが訝しげな表情をしている。私だって、口に出すつもりなんかなかったのに、自分の声がいきなり耳に届いて驚いていた。しかし、一度飛び出てしまうと歯止めがきかず、もう止まらない。

「あー、無理。無理だわ。はいはい降参。だいたいね、我慢は体に良くないんだって。このまんまじゃ病んじゃうって。清く正しく、なんて私のガラじゃないんだよ。私の体から溢れ出る魅力が半減するっての。こういうの何ていうんだっけ? 毒を食らわば皿まで? 違うか、据え膳食わぬは男の恥? いや、あんたは何にも差し出してないからこれも違うか。ずるいよね、あんたっていつもいつもそうやって何にも考えてないそぶりで、こっちを振り回して」
 
「ハイラ、どしたの……?」

「体調は」

「え? や、別に、普通だけど」

「そ。わかった」

 雨の中、彼女の手を取って宿屋へと足を向ける。
 時々振り向いたが、やはり彼女は何が何だかわからないという顔をしていた。目的地が見えてきてやっと事態を把握したようだが、それでも寵愛者は手を振り払おうとはしなかった。
 
 そして、私は数か月ぶりに彼女の体を狂ったように貪った。
 雨は一向に止む気配は無い。日が入らないので寂れた安宿の部屋が余計にどんよりと汚らしく見える。しかしそんな部屋の様子が気になったのは、事が終わり、火照って汗ばんだ体を冷やしている時で、それだけ私は行為に没頭していたのだと後から気付いた。


 ◇  ◇  ◇


 食堂で昼食を摂っていると、私の承諾も得ずにグレオニーが隣に腰を下ろした。

「もう腹が減って倒れるかと思ったよ。朝にたんまり食っても、昼までもたないよなあ」

 友人の手にしていた皿には、美意識というものがまるで感じられない食材の山が築かれていた。とりあえずたくさん食えればいいという感覚なのだろうが、あまりの量に見ているこっちの食欲が削がれる気がしてしまう。

「……隣に座っていいなんて、一言も言ってないんだけど」 

「なんだよ、お前それしか食べないのか?」

「グレちゃんみたいに、意地汚くガツガツ食わない主義なの、私は」

「もしかして具合悪いのか?」

「別に」

 正直、万全の体調だ、とは言えなかった。
 あれだけ固く決意したのにそれを破ってしまった意思の弱い自分が情けなくて、それでいてやはり彼女の体は「溺れるのも無理は無い」と言い訳したくなるほどのもので、自己嫌悪と充実感がごちゃまぜで何が何だかわからない状態が続いていた。
 行為を思い出しては溜め息が漏れ、すぐさま襲ってくる自責の念。
 彼女が嫌がっていなかったのがせめてもの救いか。いや、それじゃダメなんだ。あんなの、また以前の不毛な関係に逆戻りじゃないか。そうじゃなくて、私は……。

「そうだ。さっき、レハトの見舞いに行ってきたんだけどさ」

 急に彼女の名前がグレオニーの口から出てきて、胸が早鐘を打った。
 寵愛者は先週から具合が悪いと言って寝込んでいる。私も何度か見舞いに行き、つい昨日も顔を出したばかりだった。今日行かなくてよかった。別に彼女の部屋でグレちゃんと鉢合わせてもどうってことないけど、言い訳を考えるのが面倒くさい。

「相変わらず医者を嫌がってるんだよ。ほんと頑固だよな。『寝てれば治る』って布団に閉じ籠っちゃって」

「グレちゃんやら、侍従たちやら、そうやって甘やかすからツケがこっちに回ってくるんだよ。仕事をしてるって自覚があるのかね、あの寵愛者様は」

 これは、昨日私が彼女に発した言葉そのままだった。
 具合が悪い寵愛者様は掛け布を頭までかぶって身動きせず、わざわざ見舞いに来てやった私の顔すら見ようとしなかった。

「だーかーらー。ねえ、ちゃんと聞いてんの?」

「……」

「私は、グレちゃんほど優しくないからね。あんたがそうやってのほほんと寝込んでいる間、あんたの仕事は他の誰かが代わりにやってんの。だから早く良くなってくれないと皆が迷惑すんの。わかる? ほら、医務室行くよ」

「やだ」

 相変わらず寝台から出ようとしない寵愛者は、間髪いれずに拒否の言葉を口にする。
 
「やだじゃなくて」

「薬、嫌い」

「とりあえず熱さましって、どれ? これ? ほら飲んで」

「やだ」

「……」

 不穏な空気を感じた侍従たちは部屋を出て行ってしまった。情けないったらありゃしない。寵愛者の世話をするあんたらが真っ先に仕事放棄してどうすんのさ。このままだと、ますます付け上がって我が儘に拍車がかかるだけじゃないか。

 腕を組んだ状態で寝台の側に立ち、寝ている彼女を見下ろす。視線を感じ取ったのか、彼女は布から目だけを出して、負けじと私を睨み返してきた。そうやってしばし睨み合いを続け、向こうが根負けするのを待つも、いつまで経っても彼女は薬を手に取ろうとはしなかった。

「……わかった。じゃあ、あんたの仕事は私が多めに引き受けてあげるから。でも来週まで良くならなかったら、その時こそ医務室に連れていくからね。これは、でっかい貸しだからね、いい?」

 そう言い残して、溜め息をつきながら踵を返した。背後から、彼女がほっと気を緩めた気配が伝わってくる。
 すかさず振り返り、薬に手を伸ばして口に含んだ。我ながら褒めたくなるくらいの素早い動きで、寝ている彼女の頭を引き寄せて乱暴に唇を合わせる。
 彼女は口を固く閉ざして必死に抵抗していた。舌で強引にこじ開け、苦い薬を中に流し込む。薬を口に含んで飲み込もうとしない寵愛者に、「飲んで、早く」と囁きながら首筋と耳朶を舐めた。喉元が動いたのを確認してから体を離す。
 今まで見たことがないくらい渋い顔をして固まっていた彼女を見て、何となく勝ち誇った気になったのは言うまでもない。

「とにかく、グレちゃんからも寵愛者様に言っといてよ。さっさと治して、とっとと働けって」

 食事を終えて、席を立つ。
 途端に、私が持っていた皿を見てグレオニーが苦言を呈した。

「おい、残さず食えよ」

「腹八分目って言うでしょ。私はムキムキ筋肉野郎な体型になるつもりはないの」

「やっぱりどっか具合悪いんじゃないか? そうだ、お前先週も食事残してたじゃないか」

「そうだっけ」

 そう言われれば、そんな気もする。というより、ずっとここのところ食事にまで気を回していなかったので、よく覚えていない。
 まあでも、食事が進まない原因はわかってる。こんなぐちゃぐちゃな気持ちを抱えてて食欲旺盛になれというほうが無理というものだ。そう、ナイーブなの、私は。グレちゃんみたいな心臓に毛が生えた人種じゃないんだよ。そうか、これが恋煩いというものなのか? いや、どうだろう。こういった経験をしたことがないからよくわからない。

「なんだよー、レハトもハイラも二人仲良く揃って具合悪くなって。まるで産みの繋がり……」

 冗談交じりに何気なく、そんなことを口にした友人は、途中で不自然に言葉を切った。
  
 自分が今、どんな顔をしているかわからない。
 しかし、私を見ているグレオニーの表情からして、尋常ではない顔をしていることだけは確かだ。

「……え?」

「……え?」

 次の瞬間、不快な衝撃音が耳に響く。
 私が持っていた皿と、グレオニーが口に運ぼうとしていたフォーク。それらが同時に床に落ちた音だと気付くのにかなりの時間を要したのだった。

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