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背徳

2013.03.16 (Sat)
登場人物はネタバレになるため伏せます。
こちら反転で登場人物→レハト、メノヒア、リィムエ


背徳


 なんだよ。あんた、また来たのか。
 そう毎日来られてもこっちは困るんだよ。こう見えて俺もいろいろと忙しいんだから。さあ、とっとと帰った帰った。
 おいこら、扉にへばり付くんじゃねえよ。取っ手が外れちまう。
 わかった、わかったから。邪魔になんない程度にその辺で大人しくしてな。……本当に強情だねえ。

 何してたのかって? 見りゃわかるだろ、本読んでたんだよ。
 ……なんだ、その目は。本読むのに忙しいんだよ、悪いか。あんたの相手してる暇はないって言ったろ。押し掛けてきたのはそっちだ。自分で時間を潰す方法を適当に見つけな。

 あああああ、もう。そんな目でじっと見られたらちっとも本が頭に入んねえだろ!! 俺にどうしろってんだ!! 大人しくしてろってのはそういう意味じゃねえんだよ!!
 もてなす茶なんかねえよ。飲みたきゃ自分でどっかから調達してくるんだね。

 ……話?
 何も話すことなんかねえよ。俺は昔からここにいて、これからもずっとここにいる。それだけさ。人の過去なんてほじくり返すもんじゃねえよ、ここでうまく生きていく気ならね。余計なことは詮索しないほうが身のためだ。
 ここに来る前? そんなこと聞いてどうすんだよ。……あんた、俺の話ちゃんと聞いてたか? 詮索するなって言ったろ。そんな顔しても、面白いことなんか何もありゃしねえよ。ディットンで小さな店を……。

 ……わかったから、そんなに身を乗り出さないでくれ。机が壊れちまう。いいか、話を聞いたらとっとと出て行けよ。まったく……とんだ疫病神に目を付けられちまったもんだ……。


  ◇  ◇  ◇


 ディットンって知ってるか? そう、あのでっかい山と神殿のある街だよ。
 俺の親はそこで土産物を扱う小さな店を営んでた。まあ細々となんとか食うには困らない生活を送ってたよ。賑やかな街だから客足が途絶えることもねえしな。
 兄弟がいなかったもんだから、いずれはその店を継いで、まあ相手を見つけて結婚でもして、子供を儲けて、自分の親と同じようにずっとここで暮らしていくんだろうなあ、ってなんとなく思ってた。

 俺が成人して少し経った頃だったか。客の一人が話を持ちかけてきたんだ。投資するからよそに店を増やす気はないかって。
 もう、うちの親は大喜びさ。一も二もなくその話に飛び付いたね。
 ディットンから少し離れた街に場所を決めて、とりあえず俺が一人でそこを任されることになった。店とは別に、住む場所まで提供してくれるって言われてさ。親元から離れる不安もあったけど、もう一人前だってところを見せてやんなきゃって張り切って街を出たよ。

 でもそうそううまい話なんて転がってくるわけがなかった。そいつの目当ては俺だった。要するに妾にして囲い込む気でいたってこと。
 いつまで経っても店なんか建つ様子がない。一日ずっと用意された家でただ待つだけ。世話係という名前の監視の奴が目を光らせてて、俺はずっとその家から出ることを禁止された生活を送ってた。で、騙されたと気付いた頃にはもう手篭めにされてたってわけ。

 金でも握らされたのか、親も何も言ってこなかった。助け出してくれるような様子もなかった。まあ、大事にはされてたからな。好きなだけ金も使わせてくれたし。お偉い立場の方々は羽振りもいいもんなんだなと思ったよ。
 向こうの奥方様もこっちの存在を知ってるんだか知らないんだか、特に何も言ってくるようなことはなかったし、嫌がらせもされることもなかった。俺を囲むくらいだから、もともと夫婦仲も悪かったのかもしれねえな。

 数日間、男はこっちの家で過ごして、また自分の家へ帰っていく。そういう生活が何年か続いた。
 そうやって長く他の人と接触しない生活を送ってるとな、感覚がおかしくなってくるんだよ。
 最初はあれだけ抵抗して、なんとかして逃げ出してやろうとか、こいつを殺してでも、くらいに思ってたはずなのに、いつの間にか訪ねて来る日を指折り数えるようになってた。会えない日は辛くて辛くて、向こうの奥方様を恨むようにまでなってた。

 男は子が欲しかったんだと思う。奥方様は子供ができない体質だったみたいで、子供がいないことをいろいろと父親にうるさく言われてるって営みの後によく愚痴ってたよ。情けない顔しながら。
 あわよくば俺に子供を産ませて養子にでもしようとでも思ってたんだろ。でも、俺にもなかなか子供は授からなかった。俺が原因なのかそいつが原因なのかはわかんなかったけど。まあ、子供が出来ても渡す気なんか全然なかったけどな。身分から言ってどうせ結婚なんかできねえんだから、子供くらい自分の手元で育てたいと思っても罰は当たらねえだろ。

 なかなか子供ができない自分に失望したのか、だんだんと男の足は遠ざかって行った。
 毎週訪れていたのが、一月ごとになり、二月ごとになり……。生活するための金は相変わらず用意し続けてくれてはいたけど。
 まだ俺も若かったからね、それでもじっと耐えて待ってたよ。会うたびに耳元で囁かれてた愛の言葉なんてものを信じ切って。頭の中でそれを繰り返し思い出して。

 妻とはただ形だけの夫婦だ。
 最初から愛などなかった。
 愛しているのはお前だけ。
 立場上、面倒な事になってしまうから離別することはできないけど。
 でも本当に愛しているのはお前だけだから。
 ずっと大切にするよ。
 愛しているよ。

 ほんと大馬鹿だよ、そいつも俺も。でもそんな馬鹿の言葉を馬鹿な俺は信じて信じて、男が自分の元へ来てくれないのは奥方様のせいだとまで思うようになっていった。
 あの女さえいなければ。結婚はできなくても男は自分の側へと戻ってくる。きっと戻ってくる。

 なんとかしてあの女を妻という座から追い出してやろうと思った。
 自分に出来る事はなんだろう。金はある。しかしここから出ることはできない。
 とりあえず出来ることからやってみようと思ってさ。奥方宛てに毎日嫌がらせの手紙を送りつけてやった。それはもう、見るだけで胸糞の悪くなるような言葉をつらつらと並べたててな。ついでに男宛てに愛の言葉を綴った手紙も同封してやった。
 その頃になると、監視の目を掻い潜って短い間なら抜け出せる術を身に付けてたんだ。
 毎日毎日、街にある文鳥を扱う店に出向いて、金を払っては鳥に願いを託して手紙を括りつける。
 無視されていたのか、誰かが握り潰していたのか知らないけど、送りつけてもしばらくは何事も起きなかったよ。大人しいもんだった。調子に乗って、一日も日をあけることなくどんどん文鳥を飛ばしてやった。店の親父がだんだんと自分を変な目で見てくるのも全然気にならなかった。

 さすがに一月も続けていると男が怒鳴りこんできた。こんな行為を続けるならもう面倒をみることはできないと。それよりも何故返事を寄こさないのか、と俺は男を詰った。妻より自分を愛しているのではなかったのかと。

 それで、その時初めて知ったんだ。男は既に養子を迎えていて、とうの昔に奥方様とは離縁していた。
 頭に血が上ったね。ならば何故自分の元へ来てくれないのだと。養子を迎えたのなら、俺が奥方の代わりに育ててやると怒鳴り散らしてやった。
 男は、お前のせいでとか、私は養子など欲しくはなかったとか、父に押し付けられたとか、将来立派な神官にさせるのにお前なんぞに預けれるわけがないとか、なんかいろいろ怒鳴ってたけど。
 その男は神殿の人間だったから跡取りがどうしても必要なのは前から知っていた。望まない養子を迎えたことと俺の手紙がきっかけで、もともとうまくいっていない夫婦仲が決裂したんだろうな。

 離別してまで迎えた大事な息子に自分が関わろうだなんて、今考えれば馬鹿なことを言ったもんさ。こんな田舎者が近づけるわけもない。
 そんな暴言のせいで、男は完全に自分に見切りをつけてその家から追い出そうとしてきた。別の働き場所を紹介するからと言ってきた。
 それがここだよ。それ以来俺はここに居付いてる。あちこちの部署を回ったけど、最終的にこの鳥小屋の管理に落ち着いちまった。
 昔、鬼気迫るような顔で毎日毎日見ていた文鳥たちと関わる仕事に就くなんて、皮肉もいいとこだ。

 あの男も城にちょくちょく顔を出してるようだけど。こんな所には姿も見せたことはないね。本当に情けない男だよ。自分が犯したかつての行為から目を背けて、そのくせ俺を自分の知らない所へやる勇気もない。まあ、こっちもあんな男の顔はもう二度と見たくもねえがな。
 ああ養子もここにいるよ。ほら、見たことねえか? 神官の髪の長い……。
 そう、あのやたらと綺麗な子。
 養子など欲しくないとか怒鳴り散らしてたけど、あんだけ綺麗に成長した我が子を見ているうちに、あいつも骨抜きになっちまったんじゃないのかね。もし女だったら手ぇ出されてたかもな。そこまで鬼畜な奴だったとは思いたくねえが。まあ、俺も男を見る目がなかったってことだね、本当に。

 若気の至りってのは厄介なもんだよ。笑ってそう言えるほど俺も歳を取ったってことさ。


  ◇  ◇  ◇


 話はこれで終わりだよ。
 ……なに、そんな顔してんだよ。だからつまんない話だって言ったろ?

 ほら、もう帰りな。こんなに暗くなったらもう鳥文も届かねえから。毎日毎日そうまでして、いったい誰からの手紙を待ってんだよ。

 ああ……。そういや噂聞いたな。あの偏屈息子、まだ帰ってきてねえのか。
 そんな心配しなくても、俺みたく馬鹿な真似しなきゃそのうちひょっこりと戻ってくるって。結婚もまだなのに今からそんなんじゃ身がもたねえぞ?

 俺の話聞いて不安になっちまったのかい? 庶民にはお偉い立場の方々の考えてることなんかわかんねえからなあ。

 そういうあんたもこれからお貴族様の仲間入りだろ? こんな所に出入りしてたら、獣臭い匂いつけてきやがってって、お得意の嫌み攻撃を受けちまうぞ。
 ほら、帰りな。ちゃんと手紙が来たら届けさせるから。
 ただな、周りが見えなくなるくらいのぼせ上るのだけはやめとけ。いつかお前もこんな所に放り出されるかもしれねえぞ。ははっ。

 わかったな、もう二度とここへは来るなよ。
 じゃあな寵愛者様。

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