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主従 <1>

2013.02.22 (Fri)
女レハト王様、グレオニー側付き護衛、テエロの その後のお話です。
レハトさん、喋りまくります。

主従 <1>


「テエロと申します。以後、お見知りおきを」

 以前から何度か見かけたことがある医士は、そう言って私に頭を下げた。
 王を継承した時に影の護衛である彼らの存在を知った。だが、こうして実際に目の当たりにしてみても自分が彼らを使いこなすという光景が未だに想像できない。
 一人一人顔を覚えておく必要はないが医士である彼には顔を合わせておいたほうがよい、と以前からローニカに言われていたため、人気のない夜中にこうして医務室まで足を運んだのだが、目の前に座っている医士は軽い自己紹介が終わったかと思うと、いきなり耳を疑うようなことを続けて口にした。

「まず始めに申し上げておきます。私は貴女を王とは認めていない」

 彼の表情は全く変わらない。
 突然の暴言に私はしばらく二の句が継げなかった。いきなりなんなのだ、この男は。いくらまだ新米の王とは言え、これだけ大きい態度を取られるとは夢にも思わなかった。
 精一杯の虚勢を張ってなんとか言葉を切り返す。

「……ずいぶんとはっきり言うのね。理由を聞いてもいいかしら」

「いちいち言わなければわかりませんか。ぽっと出の田舎者と、産まれた時から王になるべく育てられた名門出の貴族。どちらが相応しいかなど、火を見るより明らかだと私は思うのですが」

「貴方の言うことも最もだけど、残念なことに私はもう正式に王になってしまったの。悪いけど諦めてくれないかしら」

「もちろん、仕えるとなった以上義務は果たす所存でおります」

 ……本当だろうか。
 ローニカはああ言っていたが、この男、本当に信用してよいものか。涼しい顔を崩さない彼に私はますます不信感を募らせた。
 どうせ良くは思われていないのだ。こちらも不快だということを隠す必要もない。私は表情を抑える努力を放棄した。彼はそんな私に構わず言葉を続ける。

「ですが、貴女が道を外したと私が判断した場合」
 
 一旦言葉を切って、彼は言った。

「躊躇なく始末させていただきます。これも自分が果たすべき義務だと思っておりますので。いつの時も私が貴女の背中を狙っているとお心に留めておきますよう」

「……」

 背筋が寒くなる。
 本気で言っているのだろうか。これほどまでに淡々と言ってのけるほど、自分はこの医士に認められていないのか。言葉だけ取ると叱咤激励されているとかろうじて言えなくもないが、彼の声の低さからはとてもそんな風に思えなかった。
 これは、憎悪だ。

「……それくらい、この国の将来を憂えているというわけね。肝に銘じておきます。それとも他に、私を憎らしく思う個人的な理由でもあるのかしら」

「言ってもよろしいのですか」

「どうぞ、なんなりと」

「……継承の儀が済んで落ち着いたら、私はこの城から逃げる気でおりました」

 それは頭にすっかり血が上っていた私を冷静にさせるのに十分な一言だった。
 絞り出すように、やっとのことで声を出す。

「そう、だったの……」

「しかし感付いてしまった翁に説得され、致し方なく残ることとなりました。これからの貴女には私の力が必要になるから、と。表も裏も含めてですが」

 私の側付きの衛士は右腕が不自由だった。昔、私を庇ったが故に負った傷のせいだ。今日こうして医務室に足を運んだのは、その詳しい症状を医士の口から直接聞きたいという理由もあった。
 治療のためにテエロの医士としての力はこれからも必要だ。腕の良い医士はいくら居てもいい。

「私を城に縛り付ける原因となった貴女を憎んでいる、と言っても確かに間違いではありませんね」

「……そんなにまでして、城を出たかった理由はなに?」

「貴女には関係のないことです」

 ぴしゃりとはねつけられ、私は黙り込む。
 そうか。それで彼は私を嫌っているのか。しかしこの裏の仕事というものは、そうやすやすと離れるなんてできないのものなのではないだろうか。いくら私でもそれくらいは想像がつく。きっと彼は決死の覚悟をして、前々から城を出るための綿密な計画を練っていたのだろう。それがあっさりと頓挫した。どうすることもできない理不尽な理由によって。
 憎まれても当然だ。先ほどまでの腹立ちとは打って変わって、私は素直に謝罪する気になった。

「それは……申し訳なかったわ……」

「仕方の無いことです。私だって、いくら回復の見込みがないとは言え、患者を見捨てて出奔するのは後味が悪い」

 彼の言葉に少し胸が痛む。
 申し訳ないと謝ったばかりだというのに逸る気持ちをどうしても抑えきれず、私は彼に問いかけた。

「……万が一、もしかしたら、ということもないの?」

 何のことを聞かれたか、彼はすぐに理解したようだった。間を置かずにあっさりと答えてくる。

「治りませんね」

「根気よく治療を続けていれば、もう少し良くなるとか」

「アネキウスのご慈悲で奇跡が起これば、あるいは」

「……悲観的ね」

 その私の言葉が、とうとう彼の神経を逆なでしてしまったようだ。テエロは顔をしかめ、矢継ぎ早に声を張る。

「現実を申し上げているまでです。目の前の実情に向き合って冷静に判断、対処をする。医者とはそういうものだ。まじないや祈祷で治るものならいくらでも祈ってさしあげますよ。そう、全裸になって城中を舞い踊ってもいい」

「神殿に喧嘩を売るつもり?」

「そう取られたのならそれで構いません。実際に治療を行うのは我々だ」

 彼が間違えたことを言っているわけではない。憎らしいほどの正論だ。
 現実が見えていないのは私だけ。無駄なあがきをしているのも私だけ。この私の焦りがグレオニーをますます追い詰める結果となることも十分わかってはいたが、はいそうですか、とすぐに受け入れることができるほど私はまだ大人ではなかった。

 ……もう散々だ。
 何一つ良い報せを聞くことも叶わず、それどころか、これから頼らなければならないこの医士に憎まれていることまで明らかとなった。
 降参、とばかりに私は手を挙げる。しかしそれくらいの降伏で攻撃を緩める医士ではなかった。

「もちろん治療は続けますし、こちらも匙を投げたわけではありません。悪化させずに現状を維持することも立派な治療です」

「……その通りだわ。宜しくお願いします」

「それよりも。周りが見えていない新米の王は、その行動如何によって彼が自責の念に囚われるとは考えつきませんでしたか。貴女がここで私に噛みついていることを彼に知られたらどう説明するつもりです」

「だからこうして、わざわざ彼の休暇日を選んで夜中に訪問したのだけど」

「では帰りも重々用心して帰参されますよう。どこで誰が見ているかわかりませんので」

 そう言って彼は立ち上がり、話は終わりだという態度を示した。見ているのは貴方ではないのか、とそんな彼を見て思わず頭の中で呟いた。


 ◇  ◇  ◇


 王を継承して何年経っても、その日常に慣れることはなかった。覚悟はしていたがこれほどとは、と仕事の内容、そしてその多さに圧倒される。周りの者も十分な手助けをしてくれてはいたが、心から本音を打ち明けるというものには程遠かった。
 仕方ない。私は王なのだから、と自分に言い聞かせてまた忙しい日々を過ごす。

 そんな時、ようやく初めての巡幸が決まった。
 初めての遠出、それもあちこちと各地を回るので期間が長い旅ともなると、肉体的にも精神的にも疲労が溜まっていくであろうことは容易に想像がつく。
 出発を明日に控え、今夜は早めに休まねば、と寝室で支度をしている時に訪問を告げる鈴が鳴った。
 対応に向かった侍従が伺いを立ててくる。

「あの……グレオニー殿がどうしてもお会いしたいと……」

「入ってもらって」

 グレオニーが部屋に招き入れられ、侍従が一礼して入れ替わりに出て行く。
 部屋に私と彼の二人きりになった。
 彼はきっと来るだろうと予想していたから驚きはしなかったのだが、思ったより早かったな、と渋い顔で睨みつけてくる彼を見て思った。
 凄んだ顔のまま彼は低い声で言葉を放つ。

「どういうことですか」

「衛士長に言ったとおりよ。貴方には明日から休暇を命じます」

「……巡幸には連れて行ってくださらないということですか」

「そう」

 従来通りの巡幸ならば特に何も危険はないのだが、今回ばかりは事情が違った。信憑性は薄いが、先王の甥であるもう一人の寵愛者こそ正統な継承者であり王になるべきだ、という信条を掲げ、私を廃する動きがあるという話が舞い込んできたのだ。もちろんヴァイル自身はまったく関与していないことであり、本人が一番驚いていたほどである。
 こちらも確かな証拠をつかんだわけではなく、まだ噂の域を出ないため、巡幸を中止するよりは警護をより厳重にするということで結局落ち着いた。
 その騒動の中でのグレオニーの休暇命令である。彼が異を唱えるのはもっともだった。

「俺に……何か、不手際でもありましたか」

「理由は貴方がいちばんよくわかっているでしょう?」

「思い当たりません」

「だいぶお加減が良くないと聞きました。早く帰って顔を見せてあげて」

 最初に気付いたのは彼の友人の衛士だった。最近やたらと頻繁に彼のもとへ鳥文が届いている、と不審に思ったらしい。
 その友人が渋る彼を説き伏せて無理やり事情を聞き出したところ、どうやら故郷の父親の具合が良くないということだった。すぐに帰るよう叱咤するも、病状はたいしたことはない、と言って彼は頑として聞こうとはしなかったらしい。しかしそれからも続けざまに届く鳥文の多さから、父親の容体があまり思わしくないということは明白だった。
 たび重なる説得にも全く耳を貸さない彼に友人は音を上げ、ついに衛士長に泣きついた。衛士長の強い説得にも彼は首を縦に振らず、そしてそれからようやく自分の耳に入ることとなったのだ。

「明日、すぐにでも出発して。巡幸が終わるまで戻らなくていいから」

「帰りません」

「馬鹿なこと言わないで。万が一、間に合わなかったらどうするの?」

「この任を拝命した時から覚悟の上です」

「そんなものを強要した覚えはないわ」

「私の務めは貴女を護ることです。親を安心させることじゃない」

「一人くらい欠けても護衛に影響は……」

「こんな大事な時に側にいられないのは我慢ならないと言っているんだ!!」

 私の言葉を遮って彼は怒声を上げた。その勢いに思わず身が竦む。
 しばらく険しい顔をしていた彼だったが、言葉につまる私を見て我に返ったようだ。ばつが悪そうに視線を落として、やがてぽつりと呟いた。

「……俺に、縁談の話がきているんです」

 思いも寄らない突然の話に頭が真っ白になった。
 いったい何を言い出すのか。
 話の先がまったく見えずに固まってしまった私をよそに、彼は目を合わせないまま話を続ける。

「身の程知らず、恥知らずな息子を持ってしまったと親に泣かれました。王と恋仲になるなど、のぼせ上るのもいい加減にしろと。さっさと分相応な者と結婚させて厄介払いをしたいようです」

 彼の親は鉱山貴族に仕えていると聞いていた。自分との仲が彼の故郷にまで伝え流れ、そこで何か冷淡な扱いを受けていたのかもしれない。
 十分に考えられることだった。私の頭がそこまで回らなかっただけのことだ。
 あまりの深刻な事態に私の顔はだいぶ強張っていたのだろう。彼が私の様子に気付いて、負い目を感じるように謝罪してきた。

「……申し訳ありません。こんなことまで言うつもりはなかったんですが……」 

 椅子に座るよう彼は勧めてきた。立っていられないように見えるほど自分の様子はひどい状態なのだろうか。
 彼が運んできた椅子に座って心を落ちつけようとするも、なかなか冷静にはなれなかった。
 もう一つ椅子を運んできて彼が正面に座る。もう目を背けてはいなかった。

「そんな風に思われている故郷になど帰りたいとは思いません。後悔しないと言えば嘘になりますが、でももう自分は決めたんです。貴女が望む限り一番近くで護ると」

「……」

「お願いです、俺の場所を奪わないでください」

 私はすぐに返事ができなかった。
 彼の居場所を奪うつもりなんてさらさらない。自分だってずっと彼に側に居続けて欲しい。
 しかしこうなってくると話は別だ。
 親と仲違いさせてまで自分の側に彼を置き続けるなんて、果たして許されることなのだろうか。
 答えを出せずに、しばらく沈黙が続く。
 やがて彼の方から決心したように話を切り出してきた。

「……この際ですから、申し上げておきます。貴女にも以前から山のように婚姻の申し込みが来ているのでしょう? ……どうか俺に構わずに、貴女に相応しい伴侶をお選びください」

「なっ……」
 
 また頭痛がするような言葉が彼の口から飛び出した。絶句してしまう自分に構わず彼は言葉を続ける。

「俺が側にいるために貴方が首を縦に振らないと……実は、前々から強く辞任を勧められています。今回のこともいい機会だから、故郷でゆっくり考えてみるようにと言われました」

「……」

「自分がここを離れたくないからこんなこと言っているんじゃありません。貴女のためを思って言っているんです。……このままではよくないと、本当はわかってらっしゃるのでしょう? 貴女は……独り身のままでいていい立場の人間じゃない」

「……」

「これからも護衛として、変わらぬ忠誠を誓います。ですが……俺のことはもう……」

「やめて、聞きたくない!!」

 彼が言おうとしていることはわかりすぎるくらいだった。貴族ではない自分は王配になれない。王と護衛という立場を超えることはできない。
 だから他の男を選べ、と。
 ……自分でも彼と結婚できないことなど、とっくに気づいていた。ただ考えないようにして問題を後回しにしていただけだ。
 いつかなんとかなるのでは。せめて次の継承者が現れれば自分の任期も見通しが立つ。しかし寵愛者はなかなか現れてはくれなかった。私が以前より執拗に他の者との縁談を迫られているのも、それが理由の一つだった。
 やがて産まれてくる子に徴が刻まれているかもしれない。周りの者はそんな藁にもすがるような希望を捨てきれずにいるのだろう。

「……」

「……陛下」

「……結婚は、しません。私が王である限り」

 きっぱりと、私は彼を見て強く言った。
 みるみるうちに彼の顔が歪んでくる。

「駄目です。そういう訳には……」

「もう寝ます。出て行って」

 強い口調で彼の反論を突き放す。椅子から立ち上がって背を向け、会話を続けることを拒否した。本当は泣きそうになるのを見られたくなかったのだが。
 しばらくして、グレオニーが部屋を出て行く音が聞こえた。
 出てくる涙を拭いながら、自分は何故泣いているのかさえももうわからなくなっていた。


  ◇  ◇  ◇

 
 巡幸を無事終えると、すぐにグレオニーは休暇を取って故郷へと帰った。
 一度、故郷に戻り顔を見せてくること。これが巡幸に同行させた条件だった。
 城の衛士に就いてから今まで碌に帰ったことがなかったらしい。いくら家族とはいえ、長い期間顔も合わせていない者同士で、それも鳥文のやりとりだけでは細かい意思の疎通も難しく、話は拗れていく一方だったことだろう。彼もそれは承知していたのか、案外素直に条件を呑んだ。

 間もなく彼から城に鳥文が届き、まるで自分が帰るのを待っていたかのように父親が安らかに山へ旅立ったこと、葬儀に参列するため休暇が伸びてしまったことへの丁寧な謝辞が綴られていた。
 休暇を終えて、やがて帰城した彼は幾分やつれたように見えたが、振る舞いはいつもと変わらず、今までと同じように私の護衛に就いていた。
 彼が向こうでどのような話し合いをしてきたかはわからない。彼も話そうとはしなかったし、私も聞こうとしなかった。そのままずるずると、忙しさに身を任せて日々をやり過ごしてしまっていた。

 巡幸後のこまごまとした後始末もようやく落ち着きを見せ、今日は久々に早く休めそうだと寝室で本を読んでいた時だった。

「陛下。急で申し訳ないが、お話があるのですが」

 耳元に突然声が響いた。心臓が飛び出しそうになり、驚いて振り向く。
 頭を布で覆った人物がいつのまにか自分の背後に立っていた。目元しか確認できなかったが、間違いなくテエロの声だ。いつの間にこんな所に。全然気がつかなかった。

「……ほんとに急ね。少し無礼が過ぎるんじゃないかしら」

「申し訳ありません。急ぎ確認したい事がございまして」

 そう言いながらも少しも悪びれた様子は見せず、テエロはそのまま私の背後に跪いた。長椅子に座るよう促すも、このままで、と頑なに固辞される。諦めた私は椅子に深く座りなおした。彼とは顔を合わせないままのほうが話しやすいのも事実だ。

「あまり大きな声を出さないでね。護衛が不審に思うわ」

「ご心配なく。眠らせてあります」

「……そう。で、そこまでして急いで確認したい事ってなんなの?」

「ヴァイル様を城に呼び寄せると聞きましたが」

「……ああ……。そう、その通りよ」

 巡幸前に流れていた噂の真相を確かめるべく、ヴァイル本人にももっと念入りに聴取すべきだという声が増え始めていた。テエロはどこからかそれを聞きつけたのだろう。
 巡幸中は特に事件という事件は起こらなかったが、いつまた同じような話が出てもおかしくはない。煙は火元から絶たねば、というわけではないが、今後の事も含めて改めてヴァイルの本心を厳しく追及しておくべきだ、ということだった。

「聴取、だけですか? そのまま城に監禁するおつもりなのでは?」

「……そういう話が出ていたのも否定はしないわ」

「あの方には何の関係もないことだったと、ご報告したはずですが」

「私だって疑っているわけじゃないわよ。でも念には念を入れてってうるさい連中がいるの」

「……無いものを無いと、どう証明すればよいと言うのですか」

「……」

「そうまでして貴女はヴァイル様を排除したいとお考えか」

「違うわ。私はそんな……」

 私の言葉は最後まで続かなかった。急に息苦しさを感じ、一瞬目の前が真っ暗になる。首を圧迫されているのだと少し経ってようやく気付いた。テエロが背後から腕を回しているのだ。
 腕にますます力が込められ息が止まりそうになる。無我夢中で腕をほどこうと足をばたつかせ、両手で抵抗するが無駄な努力だった。彼の腕はびくともしない。

「私の専門は薬ですがね。これでも一応、一通りの武芸は習得しているんです」

 彼の言葉を聞いて抵抗することを諦め、両手を下げた。途端に首の苦しさが少し和らぐ。しかし目の前に鋭く光る刃が向けられていた。もう、少しでも身動きすると目玉に届きそうなくらい近い。
 そんな状況で目を開けていられる勇気があるはずもなく、私は瞳を閉じてじっと耐えた。
 息を少しずつ整え、なんとか落ち着きを取り戻す。だが目を開けることはできなかった。

「……ヴァイルに忠誠心熱いのは結構な事ですけどね。今の貴方の主は私よ」

 動くことはできなかったので言葉で一応の抵抗を試みる。
 テエロは相変わらず冷淡な声で返答してきた。

「道を外したら始末すると申し上げたはずだ」

「躊躇しないんじゃなかったの?」

「しませんよ。返答次第では」

「……」

「あの方とは関連がないと証明すれば良いのでしょう? 私が中心人物を捕らえて参ります」

「……わかったわ。監禁になんてことにならないようにする」

「違う。城にも呼ぶ必要はないと言っているのです」

「……聴取は中止するわ」

「結構」

 急に首の束縛が解かれ息苦しさが消える。恐る恐る目を開けると、もうそこに刃はなかった。彼の姿も消えていた。来る時も去る時もまったく物音一つしなかった。
 深いため息をつき、椅子にもたれかかると背中に濡れた冷たさを感じる。知らないうちにかなりの汗をかいてしまっていたようだ。
 助かった、とはとても思えなかった。
 私はずっとこれからもこんな生活をしていくのか。見張られ続けて生きて行くのか。
 絶望感が体中を襲い、いつまでも椅子から立ち上がることができなかった。
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