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擺脱<6>

2013.04.29 (Mon)
女レハト衛士、グレオニー、フェルツのその後の話です。
完結しました
文字反転で言い訳→寵愛者の片方が王様になった際、もう片方が継承放棄の儀式をしているというのをすっかり忘れて書いてしまった作品です。つじつまが合わないのですが、広い心で読んでいただければ幸いです……。


擺脱<6>


 控室は御前試合に出場する衛士らで溢れかえっていた。試合の組み合わせが発表されるのを待つ間、皆が散らばってそれぞれに談笑している。
 同じように発表を待つあの子の周りには、相変わらずたくさんの人が群がっていた。競い合うように彼女に励ましの言葉をかけている。

「緊張してないか? 大丈夫?」

「怪我だけは気を付けてな」

「君の実力なら、結構いいところまで行けるんじゃないの? 自信持って挑みなよ」

 言い寄ってくる者たちを邪険に扱うことなく、珍しく彼女は周囲に愛想を振りまいていた。

「胸を借りるつもりで戦いますので。皆さん、遠慮せずに向かってきてくださいね」

 彼女の控えめな態度に、君が相手だとなんだかやりにくいなあ、と衛士たちが鼻の下を伸ばす。
 隅の方で大人しくその光景を見ていたのだが、群れの中心にいる彼女とふと目が合った。自分に気付くなり、彼女が人を掻きわけてこちらへと駆け寄ってくる。

「レハト様、調子はどうですか?」

「どうだろ、あんまりわかんないけど。でも気負いしないで、やれるだけやってみるつもり」

 どうせ、貴女と当たれたら儲けもの、ぐらいに思ってたしね。
 追い出すつもりが、うっかり対戦相手に怪我を負わされる、なんてことにだけはならないように気を付けるよ。この先、貴女を狙う良い機会を逃さないためにも。
 でも安心して。
 フェルツみたく、命まで奪おうとは思ってないから。衛士を続けられなくなる程度の怪我で済ませてあげる。うまく手加減できれば、だけど。
 手元が狂っちゃったりしたらごめんね。運が悪かったと思って諦めてね。

 狙うなら足か、それとも腕か。いや、この子の武器でもある染み一つない綺麗な顔に傷をつけてやるのもいいのかもしれない。
 うんざりしてるって言っていたものね、その顔に。一生残るような傷を、私が深く深く刻みつけてあげるよ。

 自分の剣を弄び、そんなことを思い浮かべていると、「早く始まらないかな」と彼女が落ち着かない様子で呟いた。
 そうだね、と微笑んで返事をしてやる。すると相手も弾けるような笑顔を返してきた。


  ◇  ◇  ◇


「御前試合? レハト、出たいの?」

「駄目?」

「うーん……。もちろん駄目って言いたいところだけど……。前科がある俺が偉そうに言える立場でもないしなあ……」

 ヴァイルはそう言って、しかめ面で難色を示す。
 てっきり頭ごなしに反対されると思っていたので、彼の反応は少し意外だった。この分だと、少し強めに押し切れば許可を得られるかもしれない。まあ、そんなにしてまで、どうしても試合に出たいわけではないのだけれど。

 初めての試合が近いということで、あの子は頻繁に訓練場に足を運ぶようになり、なかなか一人になる隙を見せなかった。気が付けばいつも誰かが側に居て、剣の相手をしていたり相変わらず言い寄られていたりしている。
 焦る必要はない。頻繁に自分の近くで事故が起これば、怪しんでくださいと言っているようなものだ。じっくりと絶好の機会を窺えばいい。

 あの子と当たる可能性は低いが、御前試合に出てみるのもいいのかもしれない。彼女が試合に出てみようと思っていると言っていたのを思い出して、ある日そんなことを思いついた。
 刃を扱う真剣勝負の場なら何が起こってもおかしくはない。運悪く、彼女に大怪我を負わせるような事態になっても、寵愛者である自分はそれほど重い罪にも問われないだろう。彼女を慕う者たちからは非難の嵐を受けるであろうが、もう既にそんなのはどうでもよくなっていた。
 とにかく彼女が居なくなればそれで自分は満足なのだ。徴を持つ自分を必要以上に責め立ててくる者も現れないほどに、泣き喚きながら彼女に謝罪すれば、そんなつもりではなかったと許しを請えばいいだけのことだ。そう、フェルツの時と同じように。

 おどおどしたり、びくついたりせず、もっと始めからこの徴を最大限に利用していればよかった。何も遠慮することなんかないんだ。誰も自分をここから追い出すことなんてできないのだから。

 不自然に見えないように今のうちから試合に出続けて、その一方で彼女の動向を見張り、機会が訪れたら隙を逃さず手をかける。
 酷い怪我の一つでも負わせれば、心配性だという彼女の親が連れ戻しに来るかもしれない。
 そうと決まれば、と試合に出る許しを得るためにヴァイルに謁見を願い出たのだった。

 しばらく考え込む仕草を見せてから、ヴァイルが口を開く。

「やっぱり駄目。だめだめ、却下。だってさ、万が一俺が病気になって死んじゃったり、どっかの誰かに暗殺でもされたらどうすんのさ。レハトしか代わりになる人が居ないってことわかってんの?」

「ヴァイルが暗殺される確率と、私が御前試合で再起不能になる確率なんて、そうそう変わらない気もするんだけど」

「……」

「そもそも、ヴァイルは、私に王が務まるなんて本気で思ってるの?」

「……思ってない。この国、崩壊する。レハトがぼんやりしてる間に、賄賂とかが当たり前になって、反乱が起きまくりそう」

「でしょう? じゃあ、そんなこと考えても無意味だよ。私が御前試合でどうにかなっても以前の状態に戻るだけ。ヴァイルが死んだら次の徴持ちが早く現れるよう神頼みするだけ。国を治めるのにどうしても寵愛者が必要だって言うなら、威厳に満ち溢れた前王に戻ってきて貰えるようお願いでもすればいいんだよ」

 それでも、ヴァイルは渋い顔を崩さなかった。
 私にやり込められるのが悔しいのか、必要以上に声を荒げて反論してくる。

「でもだーめ。駄目ったら駄目。衛士のみんなも、レハト相手だったら実力出しきれないのわかってるだろ?」

「じゃあ、私に重傷を負わせようが何をしようが、相手には一切お咎めなしってヴァイルから強くみんなに言い渡しておいてよ。それなら誰にも迷惑かからないでしょう?」

「うーん……」

 もうひと押しだ。そう思って、言葉をたたみかける。

「成人前のヴァイルと、今まで鍛えてきた私を一緒にしないで。徴持ちでも、ちゃんと衛士としての実力も備わってるって皆にも印象づけたいの。認められたいの。ね? ヴァイル、お願いだから」


  ◇  ◇  ◇


 「ちっこい子」は相変わらず自分の隣に腰を下ろしていて、側を離れようとしない。
 自分が居れば周りの者も彼女に話しかけにくいのか、誰も寄って来るそぶりを見せなかった。

「でも、レハト様が出場する気になっていただけて嬉しいです。ああ、もう早く始まらないかなあ。早くレハト様と剣を合わせたいなあ」

 足をばたつかせて、彼女が無邪気にはしゃぎ出す。
 何も知らないで。呑気なものだ。
 そんな考えはおくびにも出さずに、優しい笑顔で彼女に答えた。

「うまく当たればいいけどね。組み合わせは抽選で決まるから……」

「大丈夫ですよ。レハト様は、ちゃんと最初の試合で私と当たるようにしてありますから」

 彼女が言っていることの意味が分からず、思考が一瞬止まる。
 言葉も出ずに目を丸くしている私に、彼女は満面の笑みで話を続けた。

「予め、進行係の人にお願いしておいたんです。皆さんね、私がちょっと可愛い仕草を見せてあげれば、簡単になんでも言うこと聞いてくれるんですよ」

「な……」

 いったい、この子は何を言っているのだ。
 そんな頼みを簡単に聞いてしまう進行係にも呆れるが、あれだけ自分の顔目当てで寄ってくる男に辟易としていたのに。以前までの彼女との違いに驚きを隠せなかった。
 屈託の無い顔をして、少しも罪の意識を感じていない彼女の様子に不気味さすら感じる。

「どうしても、レハト様と戦いたかったんです。嬉しいなあ、レハト様が出場なさるって聞いてから、本当にこの日が待ち遠しくて」

「そ、そんなに、私と戦いたかったの? だからって、それはちょっと……」

「あんなことをしておいて、どの口がそんなことを仰るんですか。少しぐらいずるい手を使ったって、責められる謂れはありませんよ」

 自分を見つめる彼女の顔から笑みが消える。
 周りの騒がしさが耳から遠のいて行き、脈打つ鼓動の音のみがうるさいほどに自分の中で響いていた。
 今、自分がどんな顔をしているのか想像すらつかない。
 剣を握る手が汗で滑りそうになる。
 咄嗟に白を切ることもできたはずなのに、情けないくらい何も言葉が思いつかなかった。

「倒れていたフェルツさんを最初に見つけたのは私です。お聞きになっていなかったんですか?」

「……」

「レハト様、前に訊いてきましたよね、気になる人はいないのかって。あれから、どんどん彼を意識してしまって、隙を見ては話しかけようといつも彼の姿を探すようになりました。あの日も、ちょうどお二人で連れ立って歩くのをたまたまお見かけして」

「……」

「遠くからこっそりとお二人の後を付けました。だって、フェルツさんはいつもレハト様にばっかり優しくしてるんですもの。気になるのは当たり前でしょう? でも、地下からレハト様お一人だけで戻ってきたので、不思議に思って私も地下に降りて……それで、あの人を見つけたんです」

 彼女の言葉に思考が追いついて行かない。
 グレオニーじゃなかった?
 この子が想っていたのはフェルツだった?

「どうしたら罪に問われることなく貴女に復讐できるか、ずっと考えてました。そうしたら、わざわざ自ら試合に出場なさってきて、しかも何をしてもお咎めなしだなんて。もう私、本当に嬉しくて嬉しくて」

 彼女が再び弾けるような笑みを見せる。かと思うと、呆然としている私に、突然素早く手を伸ばしてきた。
 身構える暇さえなく、いとも簡単に懐に隠してあった薬瓶を奪われる。

「あー、やっぱりこんな物隠し持ってて。卑怯な手を使わないで正々堂々と戦いましょうよ。もうばればれですよ、ここに来た時からそんなに懐ばっかり気にして」

 そう言って彼女は笑みを浮かべたまま、手のひらに隠れてしまうほどの小さな薬瓶の蓋を外した。ゆっくりと瓶を逆さにすると、液体の薬はみるみるうちに地面に大きい染みを作っていく。

「そんな不思議そうな顔しないでくださいよ。仲良くなった医士の方がね、教えてくれたんです。最近、レハト様がよく眠れないようでしょっちゅう薬を求めに来ているって。みんな本当にお喋りですよねえ。ちょっと笑顔を見せただけで、いろんなことを得意げにべらべらと」

 くすくすと笑う彼女の手から、空になった薬瓶が落ちて転がって行く。
 それが合図だったかのように進行係の者が私たちに声をかけてきた。

「お二人とも、そろそろ試合場へおいで下さい。もう間もなく、前の組が終わりそうですので」

 そこから、しばらく記憶がない。
 耳をつんざくような大歓声で我に返ると、自分は彼女と肩を並べて既に試合場を目の前にしていた。
 女衛士同士の戦いとあってか、自分たちの入場に観客の盛り上がりが一層強くなる。

「……手加減しませんから。覚悟してくださいね」

 低い声で自分の耳元にそう囁いてから、あの子が背中を見せて遠ざかって行く。
 堂々とした歩みで試合場に足を踏み入れる彼女を見て、釣られるように自分も歩を進めた。

 いったい何が起こっているの?
 彼女はなんと言っていた?
 グレオニーじゃないって? お咎めがなくて嬉しいって?

 お互いが立ち位置に辿りつくと、考える暇も与えられず、すぐさま進行係が声を張り上げてくる。

「一本先取した方を勝ちとします。両者、構え!」

 殺るか、殺られるか。
 どちらかの死でしか終わらない試合が幕を開けた。

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