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固執

2014.06.02 (Mon)
ヴァイル祭のボツ案カテゴリから移動させちゃった。
ボツ理由は、こんなどろどろ病んでる話、お祭りに出せるかああああっ!!ヴァイル党の皆様に永久追放されてまうわ!!ってことです。
今考えれば、お祭りに出した「啼かぬなら」の続き?とも言えなくもない。まあ、どっちでもいいか。
どす黒いので、それでもよろしければどうぞ↓


固執


最近あの子、見なくなったわね。

あの子って?

ほら、もう一人の徴持った子。継承の儀の時、着付けを手伝ってやったきり見てない気がするんだけど。

……やだ、あんた。知らないの?

何が?

噂だけどね。ヴァ……陛下が、あの塔に……。

はあ? 陛下がそんな事して何の得があるのよ。

そこまでは知らないけど。塔の窓に佇むあの子を見たって言う人がいるのよ。

……塔に窓なんかあったっけ?

今見に行っても無駄よ。この話が広まり出してから、まるで最初から窓なんかなかったみたいに、きれーいに全部壁になったんだから。

……それって……。

ね。噂と言えども、なんか本当っぽいでしょ。

そんな噂、あんた誰から聞いたのよ。そもそも見たって言う人は、どこの誰?

知らない。私も人づての人づての、さらにまた人づてに聞いたから。

……やっぱりただの噂じゃないの?

噂だから見た人なんかいないのかもしれないし、それとも名乗り出たくないのかもしれないし。もしかしたら……。

飛ばされた、とか?

それで済んだならいいけどね。


  ◇  ◇  ◇


 ひんやりとした石壁に手を添えながら、足音を立てないよう慎重にゆっくりと階段を上った。急がなければ、とわかってはいたが、焦りでしくじってしまっては何にもならない。やっと訪れた好機なのだ。
 壁に身を隠し、扉の前の様子をそっと窺うと、護衛らは地べたに座り込んでいびきをかいていた。薬がよく効いたらしい。あれが演技でなければ、の話だが。このようなまどろっこしい方法ではなく、手っ取り早く衛士らを始末してしまうことも考えた。だが、あまり騒ぎは起こしたくないし、どの程度の腕の者を警備に使っているのかわからない以上、下手に手を出さない方がいいという結論に至った。

 小さな石を護衛らに向かって投げてみる。一瞬、ひやりとするほど甲高い音が辺りに響いた。それでも衛士らはぴくりとも動かず、いびきが途切れることもなかった。
 懐から、盗んできた鍵束を取り出す。見た目だけでここに来る者を威圧しているような錠前と向き合った。この錠前の大きさ、日に日に増えていくその数が、現王の怯懦を表しているかのようだ。
 衛士の様子に気を配りつつ、一つずつ錠前を外していく。時間をかけて、ようやく全ての鍵を外して扉に手を掛けた。

 真っ暗な部屋の中で、寝台の上の人影が怯えるように動く。
 近付いて声をかけようとするも、その人物の足が目に入って言葉を失った。まるで棒のように細い二本の足が寝台に投げ出されている。用意していた明かりを灯すと、両足首に大きな傷跡が視界に入った。
 ……まさか、ここまでしているとは、と愕然とする。護衛の者など、彼女がその気になれば簡単に蹴散らすことができそうなものなのに、こうやって自由を奪っていたのかとようやく合点がいった。
 灯りに照らされた私の顔を認識して、相手が驚きの声を上げる。

「あ……」

「静かに。説明は後だ。今すぐ、ここから出る。……歩くのは無理だな。仕方ない、背負って行こう」

 そう言って寝台の側で屈もうとすると、急に背後から声が響いた。

「はーい、そこまでー」

 心臓が飛び出そうになって、慌てて振り向く。ここに居るはずの無い人物が、扉のところで腕を組んでこちらを睨んでいた。
 絶句して動けずにいる自分に、ゆっくりと国王が近づいてくる。その後ろの護衛らが、眠りこんでいた衛士たちを足で蹴飛ばしているのが見えた。

「なーんか変だと思ってたんだ。ちょろちょろと怪しい動きしててさ」

「……」

「医者先生、俺の言ったこと忘れたの? 近付くなって言ったじゃん」

「陛下……」

「まさか逃がそうとまでするなんてね。あーあ、俺の言うことなんでも聞いてくれた優しい優しい医者先生はどこいっちゃったのかなあ。ほんとに同じ人? レハトはここから出さないって何度も言ったはずでしょ」

「陛下!!」

 自分の怒号に、一瞬だけ国王が怯む様子を見せた。しかし、すぐに冷たい顔に戻り背後の衛士らに命を下す。

「連れてって」

 両脇を屈強な太い腕で拘束される。そのまま扉の方へとものすごい力で引きずられるが、抵抗しながらも言葉を投げかけた。

「陛下!! どうか、私の話を……!!」

「うるさいなあ。もう、首刎ねちゃって。あ、ここじゃやめてね、汚れるから」


  ◇  ◇  ◇


「ほら、早く挨拶しなさい。陛下の御前で失礼だろう」

「……こ、これから、陛下の手となり足となり、働く所存でございます。なんなりと命令をお申し付けください」

 成人を迎えたばかりの新人が、震える声で忠誠の意思を告げて頭を下げる。
 無理もない。物の判断がつく前からずっと聞かされていた主に、やっとこうして直に対面したのだ。彼女の反応は、今までの教育が成功した証とも言えた。

「他の者と同様に、幼い頃からありとあらゆる武芸を仕込んであります。女ではありますが、腕は……」

 そこまで言葉を発してから、目の前にいる国王の様子がおかしいことに気付く。
 王は目を見開いて、顔を上げた新人の顔を食い入るように見つめていた。

「……陛下? どうされました?」

「……レハト」

「えっ? レハ……? 陛下、なんですか?」

 新人が戸惑った様子で、私と国王の顔を交互に見る。すると、王がその場に似つかわしくない陽気な声を発して、新人の手を取った。

「なんだよー、レハト。何してるんだよ、こんな所で」

「えっ……え? あの、その……」

「陛下……?」

「もー医者先生、レハトを勝手に連れ出したりしないでよー。姿が見えないから心配しちゃったじゃないか」

 なんと答えたらよいものか、言葉が思いつかなかった。
 陛下。あの人は……。
 貴方がかつて閉じ込めていたあの方は、すでに神の国へと旅立ったではないですか。
 貴方と私で看取ったのを忘れたのですか?


  ◇  ◇  ◇


 国王が大きな錠前を床に投げ捨てる。重く鈍い音を立てて絨毯の上に錠前が落ち、その音に元継承者がびくついた態度を見せた。

「いいよ、出て。どこでも好きなとこ行けば。不衛生な生活はさせてないつもりだったけど、医者先生、一応レハトを診てやって」

 命令通りに怯えている彼女を一通り診察するが、特に問題は見られなかった。ずっと閉じ込められていたとは言え、酷い扱いまでは受けていなかったようで健康そのものだ。
 診察を終えても、戸惑った顔を浮かべながら寵愛者は部屋から出ようとしない。苛立った国王が、しかめ面で言葉を放つ。

「なに。出ないの? 俺の気が変わらないうちに、とっとと出て行けよ」

「……でも、私がここから出て急に姿を見せたら、みんながびっくりするでしょう? 今までどこに居たのかって問い詰められちゃうよ」

「それがなんだって言うのさ。正直に言えばいいじゃん、俺に閉じ込められてたって」

「……いいよ、ここに居る。でも、たまには顔を見せて。ね?」

「……」


  ◇  ◇  ◇


 ずっと鍵を開けたままでも、見張りが居ない状態でも、塔から出る選択をしなかった寵愛者。しかし、彼女はやがて病に侵され、出たくとも出れない状況に陥った。床に伏す彼女の手を握って、国王はずっと自分の罪を悔いていた。そんな王を一度も責めることなく、笑顔で応えて彼女は、そのまま塔から出ることなく静かに息を引き取った。
 
 泣き叫び、いつまでも彼女の亡骸を抱いていた国王だったが、その遺体をひっそりと処理した頃には落ち着きを取り戻していた。少なくとも自分にはそう見えた。日々の公務も問題なくこなしていたからだ。
 それなのに。
 まさか、こんなことを言い出すとは。

 確かに言われてみれば、この子の面影はなんとなく彼女に似ているような気もする。背格好も同じくらいだ。だが、そのように言われてやっと気付く程度でしかない。見分けがつかないほど似ている人物ならば、こうして王の心の傷に塩を塗るような真似など誰がするものか。

「もー、少し目を離すと、すーぐどっか行っちゃうんだから。ほら、早く戻るよ、レハト。ぐずぐずしないで」

「え? え? て、テエロさん、あ、あの、私どうしたら……?」

 王は強引に新人の手を取って、この部屋から出て行こうとしている。
 混乱しつつも必死に抵抗している新人が私に助けを求め、私はたまらず声をかけた。

「陛下」

「なに?」

「……しっかりして下さい。その子は寵愛者ではありません。新しく貴方の裏の護衛に就く……」

「なに言ってんの?」

「額をご覧ください。徴がありますか?」

「あるじゃん」

「……」

 幻覚? 思いこみ? 
 それともわかっていて、こんな馬鹿なことを? 
 いや、陛下の表情からして、私をからかっているとはとても思えない。
 これはそう簡単には事が済まない、とこの時点で気付き、自分でも顔が青ざめていくのがわかった。

「どうしたのさ、医者先生。なんかどっかおかしいんじゃないの?」

「陛下!!」

「……こうやってレハトが元気になったからいいけどさ。俺、まだ医者先生を許したわけじゃないからね。あんな寝たきりになっちゃうまでうっかり病気を見逃すなんて。早期発見、早期治療? 笑わせるよ、俺にいっつもそうやって説教してたくせに」

「……」

「安心して、レハト。もうこんなヤブ医者近付けさせたりしないから。ずーっと俺が見張っててあげるからね。外は危ない物がたくさんなんだから、レハトもふらふらしてこんな所に来ちゃ駄目だよ」

「あ、え? 見張る? あ、あの? 陛下? まだ申し上げていませんでしたが、私の名前はレハトではなくて……」

「もう医者先生はレハトに近付くの禁止。わかった?」

 そう言い残して、二人は部屋を去って行ってしまった。

 どんなことをしてでも止めるべきだったとわかっていた。だが、王の言葉に衝撃を受けた私は、腕一本動かすことすらできなかった。
 ……二人が行く所など一つしかない。塔の最上階にある、あの部屋だ。
 未だに元継承者の亡霊に捕らわれている陛下の目を覚まさせねば。そのためにも、できるだけ早くあの子を陛下から遠ざけねばならない。……例え、命を奪うことになろうとも。

 いや、その前に。陛下にもう一度話を聞いてもらうことが先決だ。自分の説得で正気に戻るとはとても思えなかったが、そんなことを言っている場合ではない。やれることは、なんでもやってみなければ。

 絶望的な気分に打ちのめされそうになりながら、私は急いで二人を後を追った。

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