スポンサーサイト

--.--.-- (--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

岐路<2>

2013.05.11 (Sat)
レハトが城に行く前の話と、成人後の話。他の登場人物はネタバレのため伏せます。
以前pixivにあげた「徴」を加筆修正したものです。あらすじはほとんど変わりません。
こちら反転で他の登場人物→タナッセ、ちょびっとだけトッズ


岐路<2>


「……ぼ、僕ね。いつも、言ってたんだよ」

「うん」

「気を付けてって。あの場所、危ないからねって。いっつも、いっつも言ってたのに……」

「うん、レハトそう言ってたよな」

「でも、大丈夫って、そんなに心配することないって、いっつも母さん言ってて……ううっ」

 うん、覚えてるよ。レハト、前に言ってたもんな。お前の母さんがお気に入りの花を摘みに行く場所のこと。ちょっと高くて滑りやすい場所だから、出かける前に毎回釘を刺してるって。
 でもさ。
 ちゃんと気を付けてれば、そんなに言うほど危ない場所じゃなかったよ。

「村長さんが、見ないほうが、いいって。母さん、見せて、くれなくて。ほ、包帯ぐるぐるで……」

 そうだね、思ったより高い崖だったかな。結構ごつごつした岩が出っ張っててさ。
 まさかあんなに酷いことになるなんて、俺も予想外だったよ。

「危ないよって、僕、言った、のに。なんで、なんでなんで……」

 なんでって?
 だってさ。レハトってば、母さんがいたままだと額を隠しちゃうだろ? 優しい優しいレハトは、母さんの言うことをよく聞く素直な良い子だからさ。
 だから。
 邪魔だったんだよね、君の母さん。

 城からお迎えが来て、いざっていう時にレハト連れて逃げられたり、抵抗されたりしたら面倒だし。
 ううん、それだけじゃないか。やっぱり俺、ちょっとは嫉妬してたのかもしれないな。あんまりレハトが母さん、母さん言うから。

 うまくいくかちょっと不安だったけど。でも案外簡単だったよ。誰もいなかったし、背中を軽く押すだけだったし。本当に好きな花だったんだな。後ろから近づいて行っても、花を摘むのに夢中で全然気づかれなかったもの。

「僕……これから……ひとりで……ど、どうし、よう……」

 心配いらないよ、レハト。俺がこれから村長さんに君のことを頼んできてあげるから。
 額の徴を、よおく見てみてくださいってね。


  ◇  ◇  ◇


 その後、レハトがどうなったかを見届けることはできなかった。
 一刻も早く村から離れなきゃいけなかったし。レハトから何か聞いた城の者が、自分を探しに来る可能性だってあったから。

 住んでいた家もそのままにして、最小限の仕事道具だけ持って、とにかく逃げた。遠くへ、遠くへと。
 一人でもなんとか食べてはいけたよ。作った薬草も、あちこちで高値で売れたしね。母親が普段から調合してたのは、結構珍しい配合の薬草だったらしくて。持つべきものは医者の親だよ、ほんと。母親が死んでから初めて感謝したかもしれない。
 そうやって、居所を変えながら薬を売り歩いて。行商みたいな感じかな。覚悟を決めれば、連日野宿しながらでもなんとか生きていけるもんだね。

 レハトがどうなったか気になって、情報を得ようと城下町に行くことも考えたけど。下手なことして捕まっちゃ何にもならないし。城からなるべく遠く離れたところばっかり、ぐるぐるとしてた。
 
 でも、ひとつだけ問題が残ってたんだ。篭りを迎える場所がない。
 別に、一人でいても体は勝手に変化していくんだろうけど、起き上がれないほどの痛みやだるさに襲われたら、すぐに餓死してしまうのは目に見えてる。どこかの村に潜り込んで、一緒に混ぜてもらおうかとも考えた。でも、この額が見られる恐れもあったし、どうしても踏ん切りがつかなかった。

 そんな時にね、声を掛けられたんだ。
 口にヒゲを生やした、いかにも胡散臭そうな男に。


  ◇  ◇  ◇


「……毒?」

「そう。死んだ後も体に残らないようなのが欲しいんだよね。無味無臭だと、もう言うことなし。あんたなら、こう、ちゃちゃっと作れるだろ?」

 最近よく薬草を求めに来ていた男は、愛想の良い笑顔でそんな物騒な話をいきなり持ちだして来た。
 ……薬草ではなく、最初から自分が目当てだったと言う訳か。ここもそろそろ引き上げ時かもしれない。金になるから、と少しこの村に長居しすぎてしまったようだ。

「いや……。俺はただの薬売りだから。そんな毒なんて」

「金なら弾むよー? と言っても、俺が出すわけじゃないんだけどさ」

「無理だよ。そんなの作ったことないし。そもそも、そんな危ないことに手を出すほど生活には困ってないんだ」

 これ以上深入りすると厄介なことになりそうだ、と商売道具を片付けてその場から逃げ出そうと立ち上がった。
 すると、へらへらとしている見かけからは想像もつかない素早い動きで、男が自分の腕を掴んで来る。

「ちょっとちょっと。腕の良い薬屋がいるって噂を聞いて、やっとこうして見つけたんだから。そんなに邪険にしないでよ」

 男はにこやかな笑顔を浮かべてはいるが、腕を掴んでいるその手は、骨が軋んだ音を立てるのではないかと思うほどの力強さだった。振り払うことなどとてもできそうにない。それでなくても、こっちはひ弱な成人前のただの子供なのだ。

「実はさあ。その気前の良いうちの主が、あんたを雇いたいって言ってるんだよね」

「主……?」

「まだ名前は明かせないけど。でも、一応貴族だから待遇はいいと思うよー? 他にも、そこそこ腕が立つのは居るんだけどさ、薬に詳しい奴ってのは居ないんだよね。いちいち、こうやってよそから調達するのも骨が折れるし、金もかかるし」

「……」

「……そんなに嫌? じゃあ、この本だけでも持ってっていい?」

 そう言って、男は一冊の古い本を持ちあげてみせた。自分の商売道具の一つである、薬草の調合が記されている本だ。
 ……いつの間に。
 青ざめて自分が背負っている荷物に手をやるが、そんなことをしてももう遅い。
 あれがないと、この先仕事にならない。母親が長年かけて残した覚え書きの紙なども、全て本に挟んであるのだ。

「か、返せ!!」

「うん、すぐ返すよ。俺についてきてくれればね」

 必死に手を伸ばすも、男は余裕のある笑みを浮かべて本を高く高く持ち上げる。こんな無様な真似をしても取り返せるわけがないとわかっていたが、そう簡単に諦めるわけにはいかなかった。

「返せ!! 返せってば!!」

「じゃあ俺と一緒に来てくれる?」

「ふざけんな!! その気持ち悪いヒゲ毟り取るぞ、このクズ野郎が!!」

「……口の悪いガキだなあ。痛い目には遭わせたくないんだけど、あんまりおいたが過ぎるなら、いくら俺でも怒っちゃうぞ」

 自分の腕を掴む男の手に、さらに力が込められる。背中へと腕をひねられ、声にならない悲鳴が口から漏れ出た。なんとか逃れようと身を捩っても、腕の痛みが増すだけだった。

「もう縛っちゃおうかな。なんか縛る物、縛る物っと……」

 本を大事そうに懐へと入れた後、男の手が自分の頭へと伸びてくる。巻いていた布を剥ぎ取られ、咄嗟に顔を背けた。だが、男の視線は自分の額へと釘付けになっていた。

「……うわ」

 記憶があるのは、そこまでだった。
 みぞおち辺りの鈍い痛みと共に目が覚めると、見たことのない中年の男が自分を覗き込んでいた。


  ◇  ◇  ◇


「目が覚めたかね、寵愛者殿」

 中年の男が自分に気持ち悪い視線を注いでくる。身に纏っている煌びやかな服や装飾品から察するに、どうやらこいつがあの男が言っていた主のようだ。
 手足の自由がきかない。なにか縄のようなもので縛られている。力を込めれば込めるほど縄は皮膚に食い込んできて、涙が滲み出てしまいそうなほどの痛みが走った。豪華な絨毯の柔らかさは、床に転がされている自分の体を優しく包んではいたが、こんな扱いを受けて黙っていられるほど自分は従順な性格ではない。

「とっとと、この縄ほどけよ!! なんなんだよ、あんた!!」

 その問いには答えず、貴族男は気味の悪い笑みを浮かべていた。じろじろと全身を舐めるように見つめてきて、そしてその目が自分の額で止まる。

「……いやはや。三人目、とはねえ……。この目で見ても信じられないくらいだ」

「……?」

「もう少ししたら、君のような徴を持った子をもう一人連れてくるから。それまではここで大人しくしてもらうよ。なに、悪いようにはしない。ちゃんと食事も運ばせるし、着替えも湯も用意させる。大事な大事な寵愛者様だからね」

 男の言っていることの意味が分からず、しばらくぼんやりとしていたが、やがて理解すると同時に体中が総毛だった。
 あいつ……まさか、生きてるのか!?

「おや信じていないのかい? 居るんだよ、もう一人。今はまだ城から出ることを許されていないみたいだが、特に決まった護衛も付いていないようだし、市にもふらふらと顔を出しているようだし。そう遠くはないうちにここに……」

 言葉が出ない自分を無視して、男は何が嬉しいのか満足げな顔でべらべらと喋り続けている。あまりのことに頭がついていかず、途中から男の声など耳に入ってこなかった。

 ……てっきり、城に連れて行かれて処刑されたか、もしくは幽閉でもされているのかと思っていたのに。まさか向こうでそんな自由な生活を送っていたなんて。
 はらわたが煮えくり返るかと思った。じゃあ、今まで自分のしてきたことはなんだったのだ。そんな扱いを受けると知っていれば、あいつを押しのけてでも自分が城へと出向いたのに。こんな、その日暮らしの惨めな生活を送ることもなかったのに。
 今更、そんなことを考えてももう遅い。
 とにかくこのままここに居たら、碌なことにならないのだけは確かだ。


  ◇  ◇  ◇


 そのあと? うん、もちろん逃げたよ。
 あの貴族男が言ってたとおり、大事な大事な寵愛者様だったからね。少しごねてみせれば隙なんていくらでもあった。

 手が痛い、足が痛くて堪らないと泣いてみせれば縄も外してくれたし、酒が飲みたいと喚いてみせれば高級な酒が出てくる。暗闇が怖いとべそをかけば、いくらでも明かりを用意してくれた。
 人が居たら眠れないと言ったら、見張りも部屋の外に出る始末さ。どんだけ頭悪いんだよ、こいつら、と思ったよ。油断するにもほどがある。
 で、純度の高い酒を部屋のあちこちにぶちまけて、火のついた明かりを次々と倒したら、あっという間に火だるま屋敷の出来上がり。その騒ぎに乗じてなんとか逃げた。

 そう言えば、あの胡散臭そうな口ヒゲ野郎は屋敷で見なかったな。あの人が居たら、もしかしたらあんなに上手く逃げられなかったかもしれない。
 主のおっさん? 知らないよ。
 火の回りが早かったし、下手したら死んじゃったかも。でも、そんなの確かめる暇もなかったから。

 前より慎重に慎重を重ねて。逃げて、逃げて。
 でもやっぱり体はきつくてさ。ある日、とうとう倒れちゃったんだ。疲労に栄養失調に、体の分化のおまけつき。

 気がついたら、知らない若い女の人に介抱されてた。身寄りがなくて一人暮らしだっていうから、そのまま体が落ち着くまでその人の家で厄介になってたってわけ。
 まあ幸運だったよね。そんな状態で篭りを乗り切ったっていうことも含めて。
 額? ああ、大丈夫。
 その人、盲目だったんだよ。

 体を動かせるようになってからも、しばらくそこで暮らしてたんだ。恋人とかそんなんじゃないけど。やっぱり徴を気にしないでいられるっていうのは大きかった。
 ずっと一緒にいたいと思ったよ。
 こうやって穏やかに、いつまでも二人で暮らしていきたい。
 逃げてばっかりの日々にもうんざりだった。

 楽に、なりたかったんだ。
 だから決心した。徴を消してみようって。


  ◇  ◇  ◇


 初代国王のルラントって奴さ。ある日いきなり雲隠れしちゃったんだろ? で、どっかの家から同じ徴を持つ赤子が産まれて、この者こそルラントの後継者に相応しい、アネキウスに選ばれし者ってんで次の王になった訳だけど。
 なんか随分と都合が良すぎると思うんだよね。どうして徴を持った赤子が上手い具合いに一人だけ現れたんだろう。さも狙ったかのように、現れた時期だって出来すぎだし。

 人為的な何かがあったんじゃないかと俺は思うよ。
 平たく言えば「出た」んじゃなくて、徴を「出した」ってこと。

 俺の家って代々医者の家系なんだ。昔々は城に仕えていた人も居たみたい。俺の母親の頃にはもうだいぶ落ちぶれて、全然そんな感じは残ってなかったけどね。
 だから家には古い文献が結構残ってて、小さい頃からそれを絵本代わりに引っ張り出して眺めては母親に叱られてた。代々伝わる大事な本なんだから無暗に触るなって。そうは言っても、古すぎて使い物にならないのがほとんどで、母親も滅多に目を通していない様子だった。

 それで、篭りの間に急に思い出したんだ。その本の中のひとつに、人の額に何らかの影響を及ぼす薬、その調合法らしきものが書かれてあったことを。
 でも小さい頃に少し目を通した程度だし、昔の物だから信憑性に欠けるのも否めない。文献なんかじゃなくて、もしかしたら、どこかの誰かがいい加減に書いた落書き程度の物だったのかもしれない。

 とりあえず、生まれ育った家に戻ってその本を探してみようと思った。それで、そのまま黙って世話になってた家を出たんだ。いつ戻れるか約束もできなかったし。

 生家に目当ての本はあったよ。かなりぼろぼろの状態で。本だけじゃなくて、家の中も、家そのものもひどい状態だった。俺を捕まえた貴族のおっさんの追手がここまで来たのか、もしくはレハトから何か聞きつけて城から使いが来たのか、そこまではわからないけど。
 とにかくその本だけ持って、前のように薬草で食い扶持を稼いでの逃亡生活がまた始まった。
 仕事に使ってた本はあのおっさんに奪われたままだったけど、うろ覚えでもなんとか食べていけるだけは稼げたんだ。俺の記憶力も捨てたもんじゃないな、と思った。

 そうして薬草を売り歩きながら、暇を見つけては本の解読、分析、調合。その繰り返し。
 出来上がった薬は自分で試すしかない。わかっちゃいたけど失敗続きだった。
 なにしろ本がところどころ破れていて正確に読み取ることができないし、それよりも確実に足りない物がひとつだけあった。
 魔の力。
 こればっかりはどうやっても手に入らない。

 ルラントの時代にはさ、もっと簡単に薬が作れたんじゃないかな。魔術師とかいうのが協力してくれたりなんかして。
 二代目の国王ももしかしたら、そうやって実験台にされたうちの成功者の一人だったのかも。他にもたくさん、実験台にされた人が居たりしてさ。
 その人たちに徴は出なかったけど、薬の効果は体から消えることなく代々受け継がれていって。いきなり突然変異のように徴が現れたのがそいつらの子孫だったりしてね。いや、中には本当にアネキウスに選ばれた者もいたのかもしれないけど。

 ……全部、俺の想像だよ。本気にしないでくれ。貴族がそんな風に実験台にされるなんて、あんまり現実的じゃないし。
 ただ、二代目の場合はどうだろな。王になれる可能性があるならばって、権力に目が眩んだどこぞの女が体を投げ打って、その薬に賭けたっていう筋書きがあってもおかしくないと思うんだけど。
 なんか印象薄いしね、二代目。
 ほんとに王に相応しい人だったのかも怪しいもんだ。

 まあそんな、空想話はどうでもいいや。
 とにかくそんな生活で、俺の体はぼろぼろになる一方だった。

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。