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憂慮

2013.05.24 (Fri)
盾となり、矛となり<4>の一場面を、王レハト、護衛グレオニーに変えて書いてみました。

<憂慮>


「陛下、上達が早いですねえ……。そんなにグレオニーと一緒に狩りに行きたいんですか?」

 草原の向こうへと矢が遠くに飛ぶのを目で追いながら、フェルツがからかうように尋ねてくる。

「ちっ、違……。私は純粋に狩りに興味を……」

 図星を指されて慌てて反論していると、その会話を遮るように急にグレオニーが手を伸ばして動きを制してきた。怪訝に思い、彼の方へと視線を移すと、今まで見たことがないようなグレオニーの厳しい顔つきに心臓が大きく脈打つ。

「……なに? どうしたの?」

 自分の声に反応してグレオニーが振り向き、指を口元に宛がう仕種を見せてきた。横で腰を下ろしていたフェルツもすぐさま立ち上がり、腰に下げている剣の柄に手をかけて前に進み出る。グレオニーが足音も立てずに、静かに私の背後に回り込んだ。一体何が、と問う前に素早く後ろから手で口を塞がれる。
 もう片方の腕で体を拘束され、

「動かないで」

と、押し殺した声で囁かれた。
 彼らのいつになく緊迫した様子に、訳がわからずにますます不安が募ってくる。当惑したまま、二人の視線の先に目を向けると、遠くで何か獣らしきものがよろよろと歩いているのが見えた。だらしなくよだれを垂れ流し、目が釣り上がっていて、どう見ても尋常な様子ではない。

「ひっ……」

 たまらず悲鳴を上げてしまい、私を抱くグレオニーの手に力がこもる。しかし時既に遅く、声に気付いた獣がこちらを向いて唸り出した。今にも突進してきそうだ。

 二人が顔を見合わせ、言葉もなく軽く頷き合う。
 フェルツが私の手から弓を取り上げるのと同時に、グレオニーが小声で耳打ちしてきた。

「陛下。獣を刺激しないよう、お静かに鹿車へ。乗りましたらすぐに城へお戻りください」

 束縛を解かれ、彼が私の背中をやんわりと車の方へと押しやる。だが恐怖に身が竦んでしまった私は、ただ首を横に振ることしかできなかった。
 そんな様子に彼が少し苛立ったように言葉を続ける。

「貴女を護りながら、あれを仕留める自信がありません。早く……」

「ふ、二人は? 危ないじゃない、あんな獣を相手に……」

「どうやら病気を持っているようです。ここで片づけておかないと他に被害が出てしまいます」

「嫌よ。そんなことできない……。二人を置いてなんて……」

 尚も動かない私の態度にグレオニーが溜息をつく。やがて視界からその大きな体が突然消え、浮遊感に驚いた時には既に抱き上げられていた。

「いや!! 下ろしてよ!! 乗らないってば!!」

 腕の中で闇雲に暴れる私にも臆することなく、グレオニーが車のほうへとどんどん歩みを進める。御者が慌てた様子で鹿車の扉を開け、抵抗虚しくあっさりと中に放り込まれてしまった。

「やだってば!! ねえ!!」

 それでも車から飛び出そうと身を起こした瞬間。
 背中に手を回されて彼に抱き寄せられる。

「すぐに私たちも戻ります。どうかご心配なさらず」

 耳元で囁かれ、体を引き離されると同時に扉が閉められる。やがて、振動と共に無情にも車が動き出した。

 窓を叩いて声を張り上げるも、彼は一瞬だけ笑みを見せてすぐに背中を向けてしまう。
 鞘から剣を抜き、フェルツのもとへと駆け寄る姿がどんどん小さくなっていく。泣き叫び、窓から二人をただ見つめることしかできなかった。


  ◇  ◇  ◇


 わき目もふらずに医務室へと駆け付け、荒い息で肩を上下させながら扉を開け放つ。
 椅子に座っているグレオニーの姿が目に飛び込んできて、安堵の息が漏れた。だが、その頬に一筋の細い傷が刻まれているのに気付き、彼の側へと駆け寄ろうとした足が思わず止まる。

「遅くなってしまって申し訳ありません。少し、死体の処理に手間がかかってしまって……」

 そう言って穏やかに微笑む彼に、震えながらやっとのことで近づいた。
 恐る恐る、彼の顔へと手を伸ばす。指先で頬にそっと触れて問いかけた。

「こ、これ……、あの、獣に? だ、大丈夫なの……?」

「ああ、違います。使い慣れない弓だったもので、糸が切れてしまって……」

 その言葉に体中の力が抜け、へたり込んでしまいそうになった。
 なんとか踏みとどまり、感情を抑えきれずに腕を振り上げ、力任せに彼の頬を張り倒す。

「てっ……」

 乾いた音が医務室に響き渡り、側に佇むテエロが目を丸くしていた。グレオニーが叩かれた頬を手で押さえ、茫然とした顔で自分を見上げてくる。まだまだ足りないとばかりにもう一度腕を上げると、テエロが肩を掴んでそれを阻んできた。

「陛下、傷のない方の頬を選んだのは賢明なご判断ですが。軽傷と言えども、一応彼も怪我人なのですから……」

「遅いじゃないの!! すぐに戻るって言ったくせに!! うそつき!! 馬鹿!! ぐず!!」

 掴まれた肩を乱暴に振りほどき、押し倒す勢いで座っているグレオニーに飛び付いた。子供のように、みっともないほどの大きな泣き声をあげながら、しっかりと彼の首にしがみ付いて肩に顔を埋める。
 いつまでも泣き続ける私の背中に、戸惑うように彼が腕を回してきた。

「……ご心配をおかけして、申し訳ありません。陛下がご無事でなによりでした」

「ご無事なんかじゃないわよ!! あんな乱暴に鹿車に放りこまれて、腕を擦り剥いたわ!! どうしてくれるのよ!! 馬鹿!! ばかばか!!」

「陛下。早く離れていただかないと、彼の傷の手当てができないのですが」

「うるさいわね!! 少しは空気を読みなさいよ!! 今すぐ死ぬような怪我じゃないでしょう!? 舐めときゃ治るわよ!!」

「ちょ……陛下、舐めるって……」

 困り果てたグレオニーに無理やり引き剥がされるまで、私は彼の肩を涙で濡らし続けた。

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